本当の友とは何なのか──。その問いに答えるのは難しい。家族とも恋人とも違う、特別な存在。人生のなかで様々な経験をしていくうえで、人はそれぞれの友情を見つけていくのかもしれない。
「友人」とは違う
経営していた会社の倒産などで2億円にも及ぶ借金を背負い、その返済のために小説家となることを決意した山本一力は言う。
「本当の友とは何か。それを定義するのは難しい。でもそんな存在に一人でもめぐり合えたら、男冥利につきるだろうな。
自分のことを言えば、そう思えるような友が二人いる。私が高知から東京に出てくるとき、駅に見送りにきてくれた中学時代の同級生二人だ。彼らは自分で生計を立てて、結婚し、親を見送り、子どもたちを結婚させて、いまも高知できちんとした暮らしをしている。私はこの二人のことを尊敬している。あいつらは自分の人生を生きているからね。でも彼らは私のことを、生涯の友だとか、親友だとかは思っていないかもしれない。こう思っていてほしいと相手に期待するのではなく、私がどう考えているかが大切なんだ」
山本が陽の目を見たのは、'02年に『あかね空』で直木賞を受賞してから。それまでは苦難の日々を歩んできたが、友人が何かをしてくれたわけではなかったという。
「直木賞に届くまで、ほとんど没交渉だった。私が連絡しなかったからね。それに賞を獲ったからといって、向こうから何か言ってくることもなかった。ただ、私が会いたいと声をかけると、時間をつくってくれた。そのときの親しさは、昔と何も変わっていなかった。
冠ができると人は寄ってくる。なかには10年来の知己のような顔をする奴もいる。でも本物の友には、肩書なんて関係ないんだな」
人生のなかで「友人」はいくらでもできる。しかし、心から信頼できる「本当の友」には、はたして何人出会えるだろうか。
悲しいことや不本意なこと、人生には様々な苦節が訪れる。そんなときこそ、本当の友の存在をかみしめるのかもしれない。
ニューハーフ・タレントの草分け、カルーセル麻紀は、「私にも、本当の友と呼べるオカマが一人だけいるわ」と言う。
'01年、カルーセルは麻薬取締法違反などの容疑で逮捕された。潮が引くように、人も仕事もカルーセルから離れていった。しかし一人だけ、無実を信じてくれた人がいた。
「逮捕されたときは、ぎっしり詰まっていたディナーショーが次々キャンセルになりました。違約金だなんだとあるから、留置所に入っているときはその心配ばかり。精神的にボロボロになったわ。でも一人の友人だけは、私の無実を信じ、帰りを待っていてくれた。舟かつみという、名古屋の有名なゲイバーのママです。もう55年来の付き合いになりますが、私は親しみを込めて『かつこ』と呼んでいます。
そのかつこだけは、彼女の店で行われる予定だった私のショーをキャンセルにしなかった。『(留置所から)出てきたらパーティしようね。こんなこと笑い話にしちゃおうね』と周囲にも話していたそうです」