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発達障害、知的障害のことから日々の生活のことまで。

9月1日を前に

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「図書館に居る子を見逃せない」と思った方へ - スズコ、考える。

最近、Twitterで9月1日に学校へ行くのが辛いなら図書館へ行こう、という呟きを多く見かけます。

我が家にも、不登校の子が居ます。
現在17歳、特別支援学校高等部二年生の長男は、小学校の頃から毎年、11月に入ると調子を崩しはじめ、徐々に一人で居られない状態になります。
そして学校に行けないだけでなく、家から出られなくなります。
発達障害の二次障害が、長男を外に出られないようにしてしまうのです。
ここ数年は入院する様にもなりました。
入院期間は徐々に長くなっています。

長男に、学校に行けない時に図書館に行く?と聞いてみました。
長男は行かない、ときっぱりと言いました。
行かないの?どこにも行きたくないから?と聞くと、いや、そうじゃないよ、図書館に行くんじゃなくて、自転車に乗りたい、と応えました。

長男は自転車が大好きです。
学校も大好きです。
学校に行けないなら、自分の好きな事がしたいのだそうです。
長男は、車と自転車が大好きです。小学校の頃からやっている水泳を頑張っています。
学校にも行けず、外にも出られなくなる長男を支えているのは、彼自身が好きな事、頑張っている事なのだと思います。

本が好きなら、図書館に行けばいいと思います。
自転車が好きなら、自転車に乗ればいいと。
水泳が好きなら、泳げばいいと思います。
好きな事があるならば。
では、ない場合はどうすればいいでしょうか?

考えても応えは見つかりません。
好きな事があれば、学校へ行けなくても、好きな事をする為に外に出ます。
でも、ない場合は、家から出る用事が無くなりますよね。

好きな事って大事だなあと本当に思うのです。 
知的重度の療育手帳を持ち、読み書き困難の特性を持つ長男は、学習機会を十分に得ることができませんでした。
コミュニケーション能力だけが飛び抜けて高い彼は、笑顔で車と自転車が好きで、水泳ができて良かったと言います。
親として、救われます。
元気になったらまた思いっきり好きな事をする、という気持ちが、長男の辛い冬場を乗り越える糧になっているのだと思います。

学校に行けない時期が過ぎて、いざ登校という時になっても、いつも体力的に適応するのが厳しいです。
そこで今年は退院してから、地道なチャレンジをしてみました。
去年まで、不登校期間は休憩とみなして、生活のペースも本人の好きなようにさせていました。
けれど、今年は私が軽いノルマを長男に与えてみました。
元々、食器洗いや掃除等の家事はよく手伝ってくれます。
それを余程具合が悪くない限り毎日きちんとする様に強制しました。

もう一つは毎朝のウォーキングです。
朝起きてすぐに20分程近所を歩くように言いました。
雨の日も傘をさして行かせました。
一週間程過ぎたあたりから、自分から歩きに行ってくる、と言って行くようになりました。
雨でも傘を持って歩きます。
ウォーキングは、本人にもはっきりわかるくらいに効果が現れたそうです。
日に日に体が軽くなって行ったそうです。
ウォーキングと合わせて、ipadのアプリを使って7分間のストレッチもノルマにしました。

ipadの勉強アプリを使って、毎日30分学習する事もノルマにしました。
何のアプリをするかは本人に任せたのですが、ほとんどローマ字入力のアプリをやっていた様です。
そのせいかどうかはわかりませんが、登校した際に担任から、ローマ字入力がとても早くなったとほめられたそうです。
ipadを使いこなす為に、生活の中でわからない事は細かく検索する事も言い続けました。
ローマ字入力が早くなったのは、検索を自分でする様になったからかも知れません。

朝は遅くとも7時までに起きて、夜は10時には寝るようにしました。
昼寝はできるだけしない様に。
食事は食べられる時に食べていいことにしました。

ノルマを作ってから、長男の顔色がみるみる良くなりました。
身体を動かして規則正しい生活をするのは大事な事なのですね。
改めて実感しました。
けれど。
忘れてはならないのは、学校に行けない時は、休まなくてはならない期間であるということです。
ノルマを作るなら、本人の負担にならないレベルにしなければなりません。
しっかり身体を休められる事が大前提です。

そして周囲の理解を得ること。
長男は学校に行けない時期に自転車で近所を走っていたら、警察官に学校は?と声をかけられたそうです。
今は行けてません、と応えると、そう、気を付けてね、と言われて終わったそうです。
普通だったら考えられない対応ですよね。
長男には普段から、何かあったら療育手帳を出して周囲の人に助けを求める様に伝えています。
交番には時々道を尋ねる為に顔を出していたので、地域の警察官の方は長男の顔を覚えてくれています。
だからこういった対応になったのだと思います。
以前から、主治医から何かあった時の為に交番には挨拶に行く様に、と言われていました。
不登校中に無駄に補導されて心の傷を増やす前に、そういった配慮を求めてもいいかも知れません。

発達障害児は、とても刺激に弱いです。
脳の、余計な刺激をカットするフィルター機能が生まれつき無いからです。
生まれつき無いのだから、どれだけ時間がたっても環境に慣れて平気になる事はありません。
学校は様々な刺激に溢れています。
音や色彩、文字情報、喋り続ける先生や友達、突然変わる予定、動きが予測できない子供達、エアコン無しの窓を開け放った明るすぎる教室。
どれも、発達障害児にとっては耐え難い刺激です。
それらの刺激は、時に彼らの集中力を奪い、苦痛を与えます。
学校が嫌いなわけでは無いのに、彼らはそこに居ることが難しいのです。

今日は何だか体調が悪い、今日学校に行ったら先生の大きな声が絶対頭に刺さる…。
音が頭に刺さるのは辛いです。耳を塞ぎたくなります。
そんな風に登校中にふと思ってしまったら。
逃げ出したくなります。
今日一日、刺激の洪水の中でパニックにならないように頑張らなければならない、いつも頑張ってるけど、今日はもっと頑張らなければならない。
発達障害が無い方には、この感覚は中々ご理解いただけないようなのです。
一部の先生方はそれを我儘、我慢が足りないと捉えて無理に活動に参加させようとされるのだとか。
大声で叱りながら。
お子さんでは、脳機能について説明することはもちろん難しいでしょうし、自分の状態を言語化する事も十分にできません。
そんな時、私達が子供達にできる指導は、回避する事です。
逃げる事ですね。
これは専門家に相談してもそのように指導される、きちんとした対応です。
刺激に弱い子供達には、パニックを起こす前にクールダウンする為の逃げ場が必要です。
そうしなければ、どんどん追い詰められてしまいます。

新学期を前に、また刺激の洪水に晒される事に恐怖を覚えている発達障害児のことを思います。
お友達が嫌いなわけじゃ無いのに、何故か教室に居るだけでどんどん疲れて、気分が悪くなってしまう…。
いや、ひょっとしたら大丈夫かも知れない、大人が言うように、学校に行けば慣れるかも知れない。
そう思って勇気を出して登校している朝、嫌いなわけでは無いお友達の声が聴覚を鋭く刺激してしまったら。
逃げ出したくなる時もあります。
そんな気持ちを受け止めて、ほんの少しの間だけ、落ち着きを取り戻す為のクールダウンエリアとして機能してくれる場所が図書館だったら、素敵だなあと思いました。
そんな場所があったら、長男も今の様にはならなかったかも知れません。

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どうしても辛い時は逃げる事も一つの手段である。
好きな事があれば学校に行けなくても自信を失わずに生きていける。

9月1日を前に、この2つを、ここに置いておきたいと思います。