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2016.12.09

朴槿恵韓国大統領弾劾議案可決での雑感

 朴槿恵韓国大統の弾劾議案が国会で可決し、大統領の職務が停止となった。この件については他国の内政でもあり、またこういう結末になることも予想していたので驚きはないものの、現実として直面すると、ある種の落胆のような感覚があった。憲法というものがどうあるべきか、憲法はどう機能すべきか、という思いでもある。
 日本では、憲法といえば、連合国統治下に日本国が置かれた主権のない時代に制定された成文法である日本国憲法が想起されるが、憲法の原義は国家構成の規定であり、1つの成文法である必要はない。いずれにせよ、そうした国家構成の規定という点で韓国のこの事態を見て、いろいろ考えさせられるものがある。
 民主主義国において憲法は基本的に国家の権力を縛るものである。が、同時に民主主義の本質的な欠陥である衆愚政治における衆愚の権力に歯止めをかける仕組み(構成)でもある。
 当然のことだが、韓国の今回の事態が、衆愚政治の結末であると言いたいわけではけしてない。繰り返すがそうではない。衆愚であるかどうかは、国家の構成規定(憲法)によってどのように扱われるかということにかかっているからだ。
 具体的にその規定(憲法)が、韓国という国家でどう作用することになるかを筋道立てて想像したい。
 まず、今後180日以内に憲法裁判所が憲法に沿って弾劾の妥当性を判断することになる。憲法に基づく弾劾審判である。その判断が出るまでの間(180日間)は、黄教安首相が大統領の職務(行政)を代行する。
 憲法裁判所が弾劾の妥当性を判断するということは、ここで民主主義国の三権分立として司法が憲法をもとに議会に向き合うことである。極言すれば、議会が衆愚に陥っているかを司法が憲法によって牽制することになる。そこで仮にではあるが議会決議が司法から妥当ではないとされれば、その時点で概ね衆愚政治に陥っていたということになるだろう。
 憲法裁判所による弾劾妥当性の判断は、同裁判所の裁判官9人のうち6人以上による合憲判断で成立する。
 この憲法裁判所の判断はどうなるだろうか。参考となる過去の事例では、2004年に当時の盧武鉉大統領が弾劾議案の可決を受けて職務停止に追い込まれたことがあった。この時は憲法裁判所は弾劾を棄却した。基本的には、憲法裁判所の審判のハードルは高いと見てよいだろう。
 こうして司法の点から見つめ直すことで、朴槿恵韓国大統の弾劾議案が議会を離れて問われることになる。これが憲法の機能でもある。
 その後の韓国という国家がどうなるかについては、手順的に関係することでは、政府から独立した立場にある特別検察官の捜査がある。端的に言って、特別検察官の捜査の結果、嫌疑が確定できなければ、ほぼ自動的に憲法裁判所は弾劾を棄却するだろう。
 この文脈で再度議案(弾劾訴追案)は何であったかを問いかけてみたい。
 今回の一連の話題で、少なくとも日本人である私にとって不可解だったのは、なぜ朴大統領が批判されているのか理解できないことであった。
 報道的には、大統領の長年の知人、崔順実被告や少数の側近を巡る汚職、権力の乱、や権限の逸脱などによる一連の事件があげられ、要するに側近の罪は監督すべき者の罪ということのようには見える。また、検察からの嫌疑もある。だが現状、各種の情報からは、朴大統領が直接関与した事実が明らかになっているようには見えないし、手続き上、特別検察官の捜査を待つべきだろう。
 今日の時点での実際の弾劾案を確認していないが、数日前までの経緯では、野党側議案には2014年の旅客船セウォル号が沈没した日の朴大統領の行動も盛り込まれていた。これが現時点で弾劾案に出てくるのということには、かなり異様な印象がある。
 今後をタイムスケジュール的に見ていくと、大枠では今後180日以内に憲法裁判所が判断するが、この間、特別検察官の捜査を待つことと、加えて、この間に憲法裁判所裁判官9人のうち2人の任期が切れることが注目される。この2人の裁判官の任命を巡ってかなりの議論が起きるだろう。場合によっては、2人空席となる。その場合でも6人の判断が必要となるので、7人中6人の判断という高いハードルになる。
 憲法裁判所の弾劾審判の結果がなんであれ、今後半年は韓国政治は紛糾し、さらにその後、代講首相の下、60日以内に大統領選が行われる。そうすると、だいたい向こう8か月は、この紛糾状態が継続することになる。韓国の新大統領が登場するのは、2017年の9月ことではないだろうか。朴大統領の任期が満了しても2018年の2月であったから、単純に差分で見るなら、かなりの紛糾の後であっても、新大統領の登場は半年早まるくらいだろう。
 参照までにだが米国で大統領弾劾が実施された場合、ニクソン大統領の弾劾でもそうだったが、途切れることなく副大統領が行政を担う。コメディ番組『VEEP』にも出てくるシーンだが、大統領に健康不安があるときは副大統領に早急に大統領の権限が移行する。米国憲法にはこうした仕組みがあるが、韓国憲法にはない。
 余談になるが、韓国政局の今後の半年を超える紛糾の背後で、韓国経済の問題はより深刻化してくることも懸念される(参照)。

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