国境なき記者団声明「日本人ジャーナリスト加藤達也は名誉毀損で起訴されることになる」
昨日読売新聞で少し気になるニュースを見かけた。「韓国検察起訴に「あぜん」…国境なき記者団批判」(参照)である。
【パリ=三井美奈】韓国の検察当局が産経新聞の加藤・前ソウル支局長を在宅起訴したことについて、ジャーナリストの国際団体「国境なき記者団」(本部パリ)は13日までに、「あぜんとした」と批判する声明を出した。
私が気になったのは、実は些末なことで、「あぜんとした」というのはフランス語でなんと表現されているのだろうかということだった。
調べてみたのだが、よくわからかった。それ以前に「13日までに」が何を意味しているか不明に思えた。というのは、国境なき記者団は10日以降、この件について声明を出していないからだ。
しかし、10日の声明(参照)は13日に更新されており、読み返すと、「ああ、これかな」と思う表現はあった。" Reporters sans frontières a appris avec stupeur la mise en examen de Tatsuya Kato"の「avec stupeur」である。これが「あぜんとした」と訳せるのか、ちょっと興味深く思った。
ついでなので、声明全体も試訳してみた。
LE JOURNALISTE JAPONAIS TATSUYA KATO SERA POURSUIVI POUR DIFFAMATION
日本人ジャーナリスト加藤達也は名誉毀損で起訴されることになる
PUBLIÉ LE VENDREDI 10 OCTOBRE 2014. MIS À JOUR LE LUNDI 13 OCTOBRE 2014.
2014年10月10日金曜日に発表。2014年10月13日月曜日に更新。
Tatsuya Kato a été mis en examen le 8 octobre dernier par le parquet sud-coréen, suite à la publication d’un article s’interrogeant sur les faits et gestes de la présidente Park Geun-Hye lors du terrible naufrage du ferry Sewol en avril dernier qui a fait plus de 300 morts. Il encourt jusqu’à sept ans d’emprisonnement.
この4月、300人以上の死者をもたらしたセセウォル・フェリーの恐るべき遭難時の朴槿惠大統領の事実と行為に疑問を呈する記事報道について、加藤達也は10月8日、韓国検察当局から起訴された。彼は7年まで可能な拘置期間に直面している。
Reporters sans frontières a appris avec stupeur la mise en examen de Tatsuya Kato, chef du bureau de Séoul pour le journal japonais Sankei Shimbun. Ce dernier, auteur de l’article publié le 3 août dernier et intitulé “President Park geun-Hye went missing on the day of the ferry sinking… Who did she meet ?”, avait été interrogé par les autorités sud-coréennes le 18 août dernier. Il s’était également vu interdit de quitter le territoire et avait été placé sous surveillance. Son article citait principalement des informations déjà accessibles en ligne et pour lesquelles leurs auteurs n’avaient fait l’objet d’aucune plainte.
国境なき記者団は、日本の新聞社産経新聞のソウル局長・加藤達也の起訴を知り、衝撃を受けている。先日、「朴槿惠大統領はフェリーが沈んだ日に行方不明になった……彼女は誰と会ったか?」と題した8月3日報道の記者は、この8月18日、韓国当局から尋問された。彼は、その国からの出国を禁止され、監視下に置かれた。彼の記事は基本的にオンラインで入手可能な情報を引用しただけで、その情報の作者は告発されていない。
“Nous condamnons fermement cette décision de la justice coréenne, déclare Benjamin Ismaïl, responsable du bureau Asie-Pacifique de Reporters sans frontières. La liberté de la presse n’est pas seulement un privilège pour les journalistes mais aussi un droit pour les citoyens. Et cette affaire relève de l’intérêt général. Quelle que soit sa ligne éditoriale et sa couleur politique, le Sankei Shimbun est fondé à soulever des questions sur le gouvernement coréen et la présidente et à faire état de ce qu’il semble être des rumeurs.”
「私たちは、加藤起訴の決定を非難する」と、国境なき記者団アジア太平洋デスク長ベンジャミン・イスマイルは宣言した。報道の自由はジャーナリストの特典だけではなく市民の権利でもある。そして、この話題は公共の利益に関係している。編集方針と政治色を問わず、産経新聞は、韓国の政府と大統領についての問題を提起し、何が噂のようであったかを述べる資格がある」。
“Si l’on peut discuter sur un plan journalistique de la valeur informative du contenu de ces rumeurs et des raisons pour un journal de les relayer, il est dangereux que ces questions soient uniquement discutées par la justice, poursuit Viriginie Dangles, adjointe à la directrice de la Recherche de Reporters sans frontières. D’abord parce la loi sur la diffamation coréenne est contraire aux standards internationaux car elle peut entraîner une peine de prison pour l’accusé. Ensuite parce qu’une condamnation pourrait entraîner une recrudescence de l’autocensure pour les médias coréens et étrangers.”
「この噂の内容の報道価値と、それの中継としての新聞の理由について議論ができるとしても、これらの問題を唯一その法廷の議論とすることは危険である」とと国境なき記者団の副プログラムディレクター・ヴァージン・ダングレスは付け加えた。「最初の理由は、被告の拘置が導ける点で韓国の名誉毀損法が国際標準に違反しているからである。それに次ぐ理由は、第二の理由は、有罪となれば韓国人と外国メディア双方による自己検閲の増加をもたらすことになるからである。」
Les plaintes avaient été déposées par une association de citoyens sud-coréens, révélant à nouveau les tensions persistantes entre le Japon et la Corée du Sud.
これらの告発は、韓国市民の団体が申し立てたものであり、韓国と日本の固執を再び明らかにしている。
La Corée du Sud occupe le 47e rang sur 180 pays dans le Classement de la liberté de la presse établi par Reporters sans frontières.
韓国は、国境なき記者団の報道の自由指数で、180か国の47位にある。
試訳は以上のとおり。英語版もあったが、微妙に意味合いが違っていた。フランス語版が正式なのではないだろうか。
余談めくが、韓国側はこれを報道の自由とは関係させくないらしい。朝日新聞「前支局長起訴「言論の自由と関連付けるな」 韓国外交省」(参照)より。
一方、韓国外交省報道官は14日の記者会見で、起訴は市民団体の告発による正当な司法手続きだと強調し、「言論の自由と関連させてこの問題をみるのは適切ではない」と述べた。
報道官は会見で、日本政府が言論の自由の観点から批判していることについて、「法執行の問題で、韓日政府間の外交問題ではない」と反論。「日本政府関係者が不要な言及をするのは適切ではない」と不快感を示した。
さらに、会見に出席していた日本メディアの特派員に対しても、「この席で質問を自由にして、言論の自由がないと言うことができるのか」と述べた上で、「わが国は言論の自由について、どの国よりも保障されている」と強調。起訴をめぐる日本社会の反応についても「少し冷静になる必要がある」と語った。(ソウル=東岡徹)
韓国側がそう言いたい気持ちはよくわかるし、それが韓国の司法なのだということも理解できる。しかし、国境なき記者団の声明を見てもわかるが、報道の自由と関係させるなとまでいうのは、さすがにそれは全然無理でしょ。
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コメント
はじめまして。検索中にこちらに伺い、とりあえず日本語部分だけ読ませていただきました。
「唖然とした」ですが、直訳っぽいのでetre bouche beeがありますね。論説文などで見ることは少ないようですが。
>韓国側がそう言いたい気持ちはよくわかるし、それが韓国の司法なのだということも理解できる
質問させてください。
報道官の発言は私には厚顔無恥としか映らないのですが、
気持ちがよくわかるというのは、
韓国側にも一理あるという意味なのでしょうか?
それとも立場が弱くなって虚勢を張るしかない状況なのは推察できるという意味でしょうか。
「それが韓国の司法」だというのは、
国によって違いがあるのは当然で彼には彼なりの論理があり外国人が無闇に批判すべきではない、と理解してよろしいのでしょうか?
それとも韓国の司法は(所詮)その程度のものだということは解っているよ、というニュアンスなのでしょうか?
もし前者なら、ちょっと違うのではないかと思います。まだ韓国司法の多重基準に驚かれたことがないのかもしれません。
’’’などと書いてから、すでに過去記事でこの問題について書かれているのに気づきました。
自分の今書いたことをお詫びするにしろ、あらたな疑問を問いかけるにしろ、何かあればそちらのほうに書かせていただきますね。
突然おじゃまして長々と失礼いたしました。(あちらでまた長々書いたりして・・・)
投稿: nonoten | 2014.10.20 02:00