自民党安倍新総裁誕生の感想
自民党の新総裁に安倍晋三元首相(58)が選出された。二度目の総裁である。選出自体に驚きはなかった。数日前から票読みの報道があり、安倍さんに決まるという予想が出ていた。が、自民党総裁選全体で見れば、こういう流れになると読めていたかというとそうでもない。当初は石破さんあたりになるのではないかと思っていた。石原伸晃さんが総裁選の過程で面白いようにボロを出し、安倍さんが石破さんと政策的に組んだあたりで、ああ、安倍さんは一歩引くのか、とも思った。以前政権を結果的に投げだしたことのけじめをそうつけているのだろうとも思った。
今日の総裁選自体に意外感はなかったが、一発で決まらないところが面白いといえば面白かった。初回の投票では、石破さんが地方票165票を獲得し圧勝した。自民党の党員全体では、派閥の支えのない石破さんに期待を寄せていたわけである。そして、そのことは私たちの身近な自民党として納得しやすいものだった。
対する安倍さんは87票と石破さんにダブルスコアに近い差がついた。生活の場にある自民党員からの支持はそれほど多いとは言えない。もっとも谷垣さんを追いやっての石原さんは38票とさらに少なく、町村さんの7票、林さんの3票はジョークの部類だった。
自民党議員票の構成は、党員の意識とかなり乖離していることが浮き彫りになった。こちらでは一位は石原さんで58票ある。これだけ見れば、谷垣さんを追いやった党派的な意味ははっきりする。だが二位の安倍さんは54票で、それほど差がない。党員支持の高い石破さんは34票。私はちょっと驚いたのだが、町村さんが27票、林さんが24票ということで、石破、町村、林は基本的にはドングリの背比べ的な存在であった。
これはようするに自民党が派閥政治を維持しているということでもあり、もし町村派から安倍さんが脱して候補を控えれば、町村さんの票が石原さんの母体古賀派と競う展開になっていただろう。石原さんと町村さんが決選投票をするといった図になれば、悪い意味で自民党復活とも言えたはずだ。うんざりな風景になっていたのだろう。その線を延長すれば、石原総裁が誕生していただろうし、谷垣下ろしもそこに位置づけられただろう。
その意味でいえば、安倍さんが表面的にであれ町村派を抜けたのが今回の自民党再選の意味だろうし、そうした行為を結果として促したのは、無派閥の石破さんだったということになる。自民党の再生のキーマンは石破さんだったのだなという認識を持った。
石破さんと安倍さんの、議員による決選投票になったが、すでに読まれていたように議員票が安倍さんを支えているので、結局安倍さんの勝利という筋書きは見えていた。関心はその票差にあった。普通に考えれば町村派の票がどっと安倍さん側に流れ込むはずである。
結果は安倍さんが108票、石破さんが89票ということだった。票差は19である。ここで、一回目の議員票で両者の差を見ると、20票である。つまり、町村、石原、林の票は、安倍・石破に均等に配分されたかのような結果になっている。これはどういう意味なのか。それがこれからの自民党を占うことになる。
派閥の力が分散されたということだろうか。いや、派閥が力を競うというより、安倍さんが総理に決まった際に、各派閥が所定の影響力を持つために分散したのではないか。そうであれば、安倍自民党総裁が首相となって組閣する場合、また自民党を再統合して総力戦といった失態をやりかねない。前回の大失策はそこにあったのに。
しかし、好意的に考えれば、自民党の「再統合」が前回失敗したのは、小泉元首相の政策方向を党内優先に大きく変更したせいだが、現状の自民党はもはや小泉元首相の政策路線を維持する政治集団ではない。その意味では、安倍さんも、民主党の野田首相のように、可能なかぎり党内宥和を求めた党派の政治をやってもよいのかもしれない。もっとも、私はそのような復古的な自民党政治には関心がない。
とはいえ、今回の自民党総裁選、また、民主党の総裁選も含めて、私がよいと思ったのは、安倍さんであった。理由は至極簡単で、日銀改革を明言していたからである。
実際のところ、現在の三党合意とやらの一体改革は、事実上、自民・民主合同の委員会に委ねられ、福祉・医療・年金などの問題はおそらく専門家や官僚が妥当な政策を出すしかない。事実上、政党が及ばない棚上げになった。
あとは、騒ぐ人の多いナショナリズムや教育論は実際の政治にとってどうでもいい話であり、実際には、外交・軍事、エネルギー政策、成長戦略、金融政策などが問われる。現下にあっては、外交・軍事については、安倍・石破路線でほとんど問題ない。エネルギー政策や成長戦略は重要だが、安倍自民党の方針は見えない。それでも金融政策が是正されれば、それに付随して日本経済が、可能な限り好調の波に乗ることが可能になる。政権が自民党に戻ってきちんとした金融政策を打ち出すことができるかということだけが、安倍政権時の期待である。
ではその前提の安倍政権は可能なのか。ここはよくわからない。民主党野田政権は、輿石幹事長の采配で衆院選挙制度改革をズラしこむことで実際には早期の解散は不可能になっている。自民党が泡を吹いてもせいぜい来年の1月であり、下手をするとさらに先延ばしとなる。野田政権は満期まで任務を全うしても不思議ではない。率直なところ、不確かな政局を騒ぐより、満期まで野田政権を維持したほうが現下の状況では国益にかなう。
解散までのだらだらとした時間は考えようである。自民党安倍総裁がどのようにリーダーシップを発揮するかがこの間に十分に吟味できる。安倍さんの健康問題も試されるだろう。
あと総選挙といえば、維新の会の動向が騒がれてきたが、維新の会が魅力的に思えた部分は、自民党安倍総裁のリーダーシップが発揮されれば、自民党に吸収されるだろう。みんなの党も、もともと以前の安倍内閣の機能であったのだから、自民党に合流するのではないか。
民主党が総選挙で雲散霧消するかについてもわからない。公明党くらいの政党として残り、「第一」などとオリーブの樹方式の連携もするかもしれない。民主党的なものが一定勢力残れば、自民党政治はやりづらくなるし、結局のところ、仮に第二次安倍政権ができても、現在の野田政権と変わらぬ風景が再現されるだろう。
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コメント
自民に入れますよ。前回のようなことはもううんざりだし、若者が政治のせいで死んでいくのはもう嫌です。
投稿: rabi | 2012.09.26 21:28
安倍さんが首相だったとき、農水大臣の松岡さんが自殺してるんだよな。
これ見ても、あんまりいい首相ではないということだ。
投稿: enneagram | 2012.09.27 03:29
今回の総裁選は全然興味が無かったから事前のネット言及は一切なしで、(今になって言うのもアレですけど)安倍さんが無難でね? とは思ってました。言っとけば良かったですね。
流れ、爾後の読み筋は弁当翁さんの本件記事とほぼ同じですよ。野田政権的グダグダ加減が続くでしょうね。安倍さんおなか壊して辞めちゃった前歴があるからマスコミの叩き加減もゲス方面に流れるでしょうけど、安倍陣営は前回の反省も踏まえて、そうした方面からの揚げ足取りには引っ掛からないようにしてほしいものです。
基本的な政策は「これでよし」としか言いようの無いものばかりなんで、後は
>それでも金融政策が是正されれば、それに付随して日本経済が、可能な限り好調の波に乗ることが可能になる。
↑コレを如何に頑張るか。というか、ここだけしっかりやって市井に金がまわるようにしさえすれば他が少々グダグダでもどうにかなりますよ。
投稿: のらねこ | 2012.09.28 18:58
総裁選は立候補するのに国会議員20人の推薦が必要なので立候補すれば最低20人は投票してくれるでしょう
20×5人で100票は確定
現在自民党の国会議員は200人足らずなのであらかじめ票は読めてしまいましたね
投稿: おおもり | 2012.09.30 14:33
新執行部人事がおこなわれた後でのコメント投稿ですので、以下は完全な後出しジャンケンになります。
> ではその前提の安倍政権は可能なのか。
もしも、新執行部人事がおこなわれた後でこのエントリ記事をお書きになられていたとしたら、これとは違った調子の内容になっていたのではないでしょうか。
新執行部人事がおこなわれた後になってようやく我々に可視になったのは、おそらく現在の自由民主党には
「政権奪回を優先するべき」だと考える代議士たちと
「党内改革を優先するべき」だと考える代議士たちという2種類の人々が居たのであり、安倍晋三へと投じた議員の多くが後者の考え方に(積極的にせよ、渋々にせよ)賛じたのであろう、ということです。
前者の多くは(石破や石原ですら)もちろん後者も同時に進めるべきであり進めることが出来ると考えている一方で、後者の立場を取る人々はおそらくそれら二つを同時に進めることは難しいのではないか、無理に両立をさせるべきでは無いと考える人たちだったのではないか、と思うのです。
(政治制度改革以前の意味での)派閥を元にして投票行動を論じてしまうと、こういう事柄がみえにくくなってしまうのですよ。
投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.09.30 21:05
党内に「プロ政権奪回」という立場をとる人々が居る一方で「プロ党内改革」という立場をとる人々は同時に党の外、具体的には与党民主党、に対しては「野党制度改革」つまり「立法府改革」を要求し続けている人々です。平たく言うところの、いわゆる「国会制度改革」です。
日本の政治制度は現在、小選挙区二大政党制による政権交代を前提としてい無かった為に、大きな制度欠陥を抱えています。
「野党が、弱くさせられ過ぎる」ことです。
政策を立案しようとしても、与党はその調査の為に官僚を無尽に使えるのに対してそしてその為の予算を潤沢に使えるのに対して、野党にはそのような恩恵が一切ありません。
野党は、政策を立案しようにも、官僚を使うことが出来無い為に、現在行政はどうなっているのかという情報を取ることが出来無いのです。また、予算が得られ無いのですからその全額を党の金で賄うしか無いのです。
これは民主党が野党だった頃に、安倍と政策的には立場を同じくする前原や野田が問題にしつ続け、当時は与党だった自由民主党に対して交渉を重ね続けてきた問題です。
そして、この「弱くさせられ過ぎる野党」の問題の延長線上にはもちろん「参議院制度改革」があります。安倍自身が小沢一郎に勝て無かったという身をもって思い知らされたその「強すぎる参議院」という問題がこの延長線上には、あるのです。
そして自由民主党が野党に転じてからずっとこれらを問題にし、与党になった民主党と重ね続けて来たのが新執行部人事で副総裁に抜擢された高村正彦氏です。
投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.09.30 21:23
> 私がよいと思ったのは、安倍さんであった。理由は
> 至極簡単で、日銀改革を明言していたからである。
であれば、党内のその理論的支柱である茂木敏光氏が新執行部で重用されていたはずなのです。それはつまり、今回の石破茂のような立場で伸晃が遇されているはずであったということです
(安倍晋三自身はおそらくマクロ経済全般についてそれほど精通はしていません。とりわけ日本銀行問題については、茂木が主張するそれの完全な受け売りと引き写しです)。
しかし、そうはなら無かった。
これはつまり安倍晋三がプロ政権奪回的な党運営をおこなわない、のであろうということを意味します。
プロ党内改革的な意見をする人々が唱え続けてきたのは、よしんば民主が勝手にコケて政権奪回が転がり込んで来たとしても政治制度改革以前、具体的には長く続いた中選挙区制、にあまりにも最適化し過ぎた現在の自由民主党の組織体制のままでは、与党であるという立場は決して長続きさせられ無い、です。
安倍晋三がプロ党内改革つまり党のリストラクチャリングを優先させることは、自由民主党の「金庫番」と言われ続け党の会計経理部門の長を10数年来担ってきた細田博之氏を総務会長職に充てたことからも、かなり明白です(細田氏の党内前職は「党改革・政治制度改革本部長」です)。
投稿: 千林豆ゴハン。 | 2012.09.30 21:48
皇室や糸屋ゆかりの大根焚と粕汁
94年春頃に=如何したら貧乏になれますか!=と幼少の頃から憑纏った政党幹部が
武蔵野市周辺の車中で発見し借金整理や民生委員の批判に本人の自覚を求め
杉並区で扱った行倒保護の件を
生活圏の行政区の公営企業の管理・勤労者が行った件を含め謝罪しろと
如何にもニ.ホ.ン.ジ.ンらしく言放ながら杉並の会社事務所に押込
公共・民間工事の建設会社や設備工事会社の発注実態や会計実態に工事物価実態と
勤労・請負実態を政府発表道理に批評し
下請(会社・個人事業主)に対する注文書(請書)の発行と受取や基本取引契約書の締結に下ずく
契約現場での下請(同・同)作業員の労務・賃金台帳の管理と出来高査定支払に出面月極支払を
請求書(外税)に下ずき手形部分は建設会社発行の手形を廻し
現金部分は銀行振込(手数料は本人負担=給料とは別)で業界に先駆て行っているの聞付.批判し
政党本部ビルの建設を見積書・請求書・出面払でヒノキシンしろと言放った
真相を100条委員会で追及する活動をしませんか。
昭和20年まで日本の国籍は国際標準で民族・身分欄が有
君主国家に相応しく昭和22年までは不敬罪も有ったのを憶ていますか。
投稿: 環境大学新聞 | 2012.10.03 14:28