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2012.07.05

「デブな彼女」という短編小説を書こうと思ったことがある

 「デブな彼女」という短編小説を書こうと思ったことがある。青年Kがあるときデブな女の子に惚れて彼女にしたのだった。なぜKはデブな彼女に惚れたのか。デブだから惚れたというわけではない、別になんとなくそうなっただけなのだった。貧乳だってよかったかと問われれば、いいよとKは答えるだろう。しばらく彼らは幸せだった。
 この短編のポイントはここから。幸せに過ごすにつれ、デブな彼女は痩せていった。痩せてみたら、げ、なんなのこの美人という彼女になってしまった。彼女としては、幸せなうえに痩せてきれいになってKにもっと好かれると思っていた。Kはここで奇妙な心理的苦境に陥る。彼女と一緒に散歩するだけで、すれ違う男が彼女を見つめているのがわかる。すれ違う女はあこがれか嫉妬の視線を投げる。もちろん、彼女に言い寄る男が増える……。
 この話はどういう結末を迎えるのだろうか。
 いろいろ考えられる。ハッピーエンドがいいなと筆者である私は思う。山本周五郎風味で純文学じゃないんだし。ハッピーエンドにするならちょっとした波乱も欲しい。彼女がイケメンに不倫して失敗してやっぱりKがよいとあらためて思ったとか。おっと、Kはそれでいいのか。不倫された時点でKは死んでるだろ。もうちょっと薄い悲劇で、彼女は痩せてきれいになったが、体臭がきつくなったとか。趣味が違う。あるいは彼女はまたデブに戻り、それって悲劇なのハッピーエンドなの、どっち、みたいにするか。
 結局、この物語は書かなかった。
 これはもしかすると、とんでもない問題なんじゃないかと思った。純文学とかで美男美女がへろへろ繰り広げるドラマなんてもんじゃない人生の深淵がここにこっそりと隠れているんじゃないか。デブと美人と人生の難問。
 デブ女が好きというのはデブ専だとは限らない。Kのような状況に至らないまでも、彼女、デブでいいじゃんというのはありそうだというのは、「だから女はめんどくさい」(参照)という漫画集にもあった。というか、連続不審死事件の木嶋佳苗の謎に関連した文脈だった。

須田「これが美人じゃなくてデブだったら男はコロっとだまされますよね~。まさかデブがそんな腹黒いことを考えているなんて思いもよらないっつーか」
安彦「思いきり気許しそーだよね。これって別に男に限らず女だってだまされるよ。デブは悪いことしなそーに見えるし」

ナレーション「弱り目にデブ。心がささくれて立っている時にはエネルギーを消耗しそうなスレンダーな美女よりも温かくまろやかに包み込んでくれそうなおかゆみたいなデブがうれしい……」

デブ女の看護で病に伏せる男「……ああこんなのも悪くないかも……理想と現実……手に入るはずもない高嶺の花を追い求めるよりこんな身近にこんな幸せが転がっていたんじゃないか。」

ナレーション「……幸せの青い鳥をつかまえたような気持ちになった時……その瞬間……落ちた……こうして男達は女にせがまれるままにカネを渡してそして最後はムシリ取られて用済みになったら……」


 そういう読みね。
 デブも尽きぬ難問だが、美人というのもそもそも難問だ。Kに聞いてみる。

F「彼女は美人だと思う?」
K「痩せたらすごい美人になったと思った」
F「美人が好き?」
K「美人って自分に関係ないと思っていたんですよね」
F「そういうもん」
K「美人って、あれじゃないですか、結局世の中の人が美人だと思う人が美人だということですよね」
F「そうだね。美人投票とかね」

 難しい。美人というのは。その人の好みの女性というのと、その人の心のなかではそれほど区別されていけど、それでも社会が美人だという人が美人だという奇妙な、共同幻想っていうのでしょうか、なんか、ぺっとりくっつき出す。
 としていると、Kから聞かれる。

K「ちょっと僕から聞いていいですか。AKBで言ったら誰が好きですか?」
F「この年になると、JKとか関心ないんだけど、板野友美という子以外は全部同じ顔に見える」
K「板野ですか。へええ。アヒル口、タイプなんですか?」
F「アヒル口、何?」

 うーむ。
 このエントリを書き出したときはなんか、話のオチを考えていたつもりだったんだが、どっかに消えてしまったな。
 まあ、いいや。「デブな彼女」の物語を完成させた人がいたら、ご一報ください。あるいはそういう話ってすでにあるのか?
 
 

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

少女漫画ならそういう話あるのではないでしょうか
というか読んだような記憶もあるのですが、はっきりとは思い出せません
幼い時に姉の部屋で300冊ほど読んだきりですが「なぜ女は恋愛だけで話をこれだけ展開できるのか」と不思議な感じを受けました
異性の兄弟姉妹がいると文化的な性差を実感しやすいですね

投稿: | 2012.07.05 12:28

興味深く読ませて頂きました。
こういう些細な難問はいろいろ広がって面白いですね。

小さなことですが後半のKとFの会話が逆な気がします。
間違いでしたらすみません。

失礼しました。

投稿: kenki | 2012.07.05 13:26

ファイナルベントさん、こんにちは。。。

新聞の見出しだけでは何が起こってるのかわからないときに、あぁ、そういうことなのかと見方を教えてもらっている読者です。一度だけコメント入れさせてもらったことがあります。山本夏彦の恋の相手Kは川上弘美さんじゃぁないでしょうかと書きました。何故そう思うか、わたしなりの根拠もあったのです、山本夏彦は大柄な女性が好き、「先生の鞄」の先生が山本夏彦に似てる、奥さんの名前、、ただ川上弘美だったとして So what? と言われたら何にもないような気がしたのでそれだけ書きました。 でも山本夏彦の恋は、化け物がBody&Seoulで恋しいと思ったんだからとそれがど~しただけじゃない、嘘物語じゃないとっても大事なこと、詩に似てます。恋愛って。ドキドキ。

投稿: September | 2012.07.05 14:03

kenkiさん、ご指摘ありがとう。訂正しました。

投稿: finalvent | 2012.07.05 14:06

エロマンガだとよくあるテーマだし、男女逆なのもバッドエンドもハッピーエンドも色々ありますね。

投稿: なるせ | 2012.07.05 14:58

太っていてもチャーミングな人は、ずいぶんいますよ。

頑丈なほうが、忍耐力もありますよ。

投稿: enneagram | 2012.07.05 16:53

向田邦子『思い出トランプ』所収「だらだら坂」を思い出しました。

投稿: xiao | 2012.07.05 18:50

ぜひ、「デブな彼女」を最後まで書いて欲しいです。
書く気は無いのでしょうか?

昨日会社で、50代のおばさんに3回ほど体がぶつかったけど、凄く柔らかくて全然痛くなかった。(けしてデブではない。)
後で触らせてもらったら、(私は女です。)本当に柔らかくて気持ち良かった。休憩の時に背もたれにしたい感じ。
ちなみに、3年?位前に再婚し、ラブラブだと噂で聞いた。顔も綺麗だし。ただくしゃみがおっさん(笑)。

話しがそれてしまいました。

投稿: | 2012.07.07 08:36

「デブな彼女」のテーマ曲は、オリジナルラブの「ダブルバーガー」でお願いします。

ケツでかい女、ミスダブルバーガー、肉のあいだ、みたいな曲です。

投稿: Pseudo-Dionysius | 2012.07.17 12:58

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