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2009.05.04

アジアで初の共和国は台湾民主国ではないのかな

 NHKスペシャル「シリーズJAPANデビュー」に私は関心がなく一回目は見なかった。二回目は「天皇と憲法」(参照)という標題なので、どうせまたつまらないお話かと、スルーするつもりでいたが、番組紹介では大日本帝国憲法の話になるとのことで、新研究の成果でもあるかなとちょっと期待して見た。

cover
台湾
四百年の歴史と展望
伊藤潔
 はずれ。率直な印象をいうと、新味がないな、レベル低いなというもので、高校生向けの教育放送の歴史講座のほうがまだましなのではないかと思った。ついでに言うと、論客三名の人選にも問題があったと思う。総じて、安っぽい作りの番組だなとは思った。が、特に、あれは違っているとか批判というものでもない。こんなものでしょ。
 一つ気になったといえば気になったのは、正確な文言は忘れたが、アジアの近代史関連で、中華民国をアジアで最初の共和国としていた点だった。そう言って間違いでもないので目くじらを立てるものではないが、もしかしたらそれに先行するアジアの共和国の試みを番組側とか論客さんも知らないのかもしれないなと思った。
 アジアで最初の共和国というネタなら蝦夷共和国(参照)というのがあるが、この名称からして英国公使館書記官アダムズによる後の命名であり、ネタという以上のものはないだろう。
 あとフィリピンが微妙。1898年の米西戦争で共和国の独立を宣言をしているが、翌年のパリ条約で統治権は米国に移り、その後続く米比戦争(参照)による60万人もの虐殺の上に一応消えてしまった。
 NHKが言うところのアジアで最初の共和国とやらの中華民国は孫文の臨時大総統就任とすると1912年だが、中華民国の国慶節、つまり、双十節で見ると、1911年10月10日になるが、まだ清朝はある。この中華民国だが、国名を見てもわかるように、台湾である。中華人民共和国も孫文による中華民国を継承しているということで、まあ、簡単にいうと、めんどさくい。ただ、中共(中華人民共和国)の国慶節は双十節ではなく、10月1日つまり1949年を取っているので、歴史的な中華民国を継承しているといえるか、よくわからん。とはいえ、将来的に台湾が独立すればこのあたりの歴史がどの国家に所属するかは儀礼的には決まるだろうが、アジア近代史というのは滑らかな浸潤の上にあるのが実相でもある。
 フィリピンの第一共和国をどう見るかというのと似ているといえば似ているのだが、史実を見ていくとさらに先行して台湾に共和国ができている。と、ここでべたにウィキペディアなんぞを引くと台湾共和国(参照)という不思議なものが出てくるが、いちおうアジアの近代史の歴史の視点からはとりあえず外してもよいだろう。問題は、台湾民主国(参照)のほうだ。これは、唐景崧を大統領(総統)とする共和国である。
 日清戦争後の下関条約で清朝は化外の地である台湾及び澎湖諸島を日本に割譲したが、現地の住民の民意によるものではなく、住民および清朝官僚が中心となり、フランスの支援を期待し、1895年5月23日に台湾民主国の独立宣言をしている。日本はこれを認めず、乙未戦争(参照)となる。5月29日澳底に上陸、6月3日には基隆を占拠し、台北に至っては事実上無血開城的に推移した。台湾を日本領と日本が宣言したのは6月17日で、この日は統治下でその後も「始政記念日」となるのだが、この会場が台湾公会堂でその後中山堂になる。
 が、これで台湾民主国が消滅したのではなく、乙未戦争として見れば、清仏戦争の英雄、劉永福を大統領とした第二代台湾民主国と台南でも戦闘は続き、11月に終結した。台湾民衆の虐殺者は1万4千人と推定されている。
 アジア初の共和国の候補でもある台湾民主国は148日間で消滅したこともあり、NHK史観のように、あるいは中共史観ともいうのかよくわからないが、大局的には無視してもよいものなのか、私にはよくわからない。台湾がこのまま中共に併合されれば、日本による中国支配の歴史の挿話とはなるのだけど、その挿話の枠はたぶん中共による台湾併合を合理化するものになるかもしれない。

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「歴史」カテゴリの記事

コメント

第一回でNHKは乙未戦争を、台湾民主国という語を全く出さずに「後に日台戦争と呼ばれる抵抗運動」としていてので、右の方が激昂していましたね。日本中心史観だと乙未事変の方がよいかと思いますが。

そんで、台湾総督府の官僚が「台湾人同士だと(中国語で)話していてよくわからない」と語ったシーンのキャプションや、500万の漢民族などと語ったのも、中共主導のプロパガンダ放送だ、というのも偏向ポイント扱いする右の方が多いのですが、finalventさんのこのエントリーでなんとなく分かった気がします。

つまり中共視点ではなく、中華民国(国民党)視点が無節操に取り込まれていたと考えられるのです。

交流協会の人間が台湾の帰属は決まっていないと発言したり、一般人の知らないところでよく分からない綱引きが起きているみたいですね。

投稿: nabeso | 2009.05.04 12:43

台湾には、独立して、ASEANに加盟してもらいたいですね。本音を言えば。中共が台湾を併合しても、一国二制度三制度を維持してくれないと思います。

東アジアの共和制というのは、形式だけのものしか作れないのも仕方ないと思います。ヨーロッパには、ギリシャのポリスやローマ帝国の市民社会が古代に実現していたけれど、中華思想は、諸子百家時代、共和制を考え付いた思想家はついになかったようです。歴史的に、聖人の君主を求めるのが東アジアの人民の固定観念なんです。

日本の皇室は、結局、シャーマニズム社会の大酋長という側面がなくなりきらないから、日本は、中国の殷代や周初の神権政治を押し戴いた巨大先進原始社会みたいなもので、ケータイが普及した、今でも存続している古代エジプトの社会とでもいうべきものかとも思われます。まあ、こういう変なところが日本社会の活力の理由でもあるのだけれど。

共和制というのは、先進的なのではなく、ヨーロッパにとっては先祖がえり、復古なんだと思います。もちろんしっかりした議会政治が始まった近代イギリスがギリシャのポリスによく似た社会だったわけではないけれど。

そんなわけで、東アジアも先祖がえりして、グローバルだけれど内輪ではシャーマニックな部族社会の集合体になっても悪くはないのだろうと思います。ただ、その場合のシャーマンや祭司を務める人たちの人選は、すごく用心しないといけないわけです。そして、シャーマニズムの原始社会のシャーマンや祭司たちというのは、部族の重大事の神託を得る人たちというのは、きっと選りすぐりの選良だったのではないでしょうか。もちろん、民間には怪しげな拝み屋ふぜいの巫祝がたくさんいたのでしょうが。

投稿: 洛書 | 2009.05.04 13:25

次のようなイベントをやっております。
もしよろしければご参加ください。

4.28 パール判事の日本無罪論購入イベント
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/event/1240072811/

現在amazon7位です。

『パール判事の日本無罪論』(小学館文庫) 560円
http://www.amazon.co.jp/dp/4094025065

非常に有名な本です。

右寄りの方は「基礎知識」として、
左寄りの方は「敵を知る」ために、
ぜひ御一読ください。

投稿: 田中 | 2009.05.04 16:16

プロパガンダ戦の最中には、書生の歴史観というのは利敵行為に利用されるということですね。

投稿: タカダ | 2009.05.04 17:41

 NHKの大河ドラマ観て「歴史が”詳しく”分かった」って言いだすヤツが居たら相当なクソバカで、「大体の流れが分かった」って言いだすヤツが居たら細かいところでセコい嘘吐かれてるか無駄に信じ込んでる可能性が高いから注意してねで、「何を言っておるのか分からんしそもそも詰まらん」だと「まぁ別にそれでいいんじゃないの? 大概の人はそれだし、下手に信じる馬鹿よりよっぽどマシだよ」くらいのもんでしょ。

 だからって「俺の(俺の私淑してる)知見の方が上なんだ」とか言いだしたら、じゃあお前はそれで何が出来るんだ、とか。ナンボのもんじゃ、とか言われるだけで、(何らか)やった・出来たところで、「どうでもいいわ、俺には関係無いんじゃ」って言われたら、ハイ終了。そんなもん。

 そもそもどんだけ知ってるのか言われたら、原理的には99%分からなくて1%が「取り敢えず信じましょうよ、信じないと話になりませんから」だったり。「結果が出ちゃったんだから次行こ次」だったり。そんなもん。対立軸的な馬鹿(←笑)知識とも、宗教とも、あんま変わらんわけです。

 だから、どっちでもいいしどうでもいいんですな。

 ユンボ動かしまくって森林伐採しまくって結果世の中どうなったよ? の単純な逆を逝くだけでは、右向く馬鹿左向く馬鹿と変わりない。双方の利点難点を把握して、程々・ちょぼちょぼで中ほど歩むのが結果的にはお得な感じ。

 今しがた、たまたまNHKさんの二酸化炭素番組観た限りで言うなら、今回のエントリーは大規模営農に手ぇ出して、結果森林を死滅に追いやったスハルトさんのすげー小型版のように見えます。

 みんな青天井好きなのね、ハイ駄目。って感じ。

投稿: 野ぐそ | 2009.05.04 20:59

いやぁ中共の圧力があれば台湾は対抗上今度こそ将に共和制を確立しちゃうかもしれませんよ。
都市・香港と違って人口がもう少しまとまっていて思想的に中共独裁に与するとは思えませんし内部から食い破りかねないと思いますよぉ~。
中共に名をあげて台湾は実を取る状態が両者にとって一番良いと思いますけどね。

投稿: ト | 2009.05.06 00:08

「ト」さんのおっしゃるとおり、「中共に名をあげて台湾は実を取る状態」は、たぶん両者に都合よいし、アメリカにも日本にもフィリピンにも、そして、台湾に多くの資産を所有されている各国にもすごく都合がいいんです。こういう東洋的な老獪さでことをあいまいにしたままみんながいい思いをするall-win-win関係を安定的に持続できるに越したことはなかろうと思います。

でも、そうするためには、中共と台湾の二者だけではなく、周囲でものすごく危ういパワーバランスが常に精妙に均衡している必要があると思うんです。

その危うい均衡は、たとえば、チベットでの長期の大暴動でなくても、ビルマで内乱が起きて大量の難民がタイに流入するとか、ベトナムで経済の大発展が起きて、経済格差が、ベトナム内部での所得格差地域格差だけではなく、隣国のラオスやカンボジアとも格差が修復不能なほど急拡大してしまっても、均衡は容易に崩れる危険性があります。

やはり、私たちも、現在の危うい均衡が崩れてしまったときの台湾海峡のあり方に関心を持っておくべきだと思います。均衡が崩れれば、きっとどちらも、「名をあげて実を取る」などといっていられないと思います。最近の事例を見れば、チトー時代のユーゴスラビア連邦の版図が分裂して消失したことを想起するのは容易だと思われます。

投稿: enneagram | 2009.05.06 13:44

中華自民共和国 -> 中華人民共和国
ですよね?

投稿: | 2009.05.06 17:52

誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます。

投稿: finalvent | 2009.05.07 10:53

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