「このテーマをこう描ききるのすごい」正体 Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
このテーマをこう描ききるのすごい
横浜流星はすごいね。
ラスト近くで山田孝之と重要なシーンを一対一でやるけど、全く引けをとらない。
もとからすごい役者さんだったけど、一段と良いね。
吉岡里帆もすごい。
これまではコメディを頑張ろうとして今一つだったり、シリアスな話は穴だらけの設定でやらされたりで今一つだったりしたんだけど、この作品の役は良かった。はじめて吉岡里帆を良い役者だと思いました。
松重豊は憎々しかったね。ちょうど《孤独のグルメ》の予告編観たあとで観ることになったから「いくら腹減っても、飯食わせねえぞ」と思った。
あと前田公輝やっぱり良かった。画面に出てくるだけで締まる。
作品のテーマは冤罪なんだけど、冤罪って絶対に起こるんだよね。なぜなら人間はミスを犯すから。でも、それ認めちゃったら警察の権威が失墜して治安が守れないっていう松重豊の考え方も一理ある。
「誰かが罪を犯したら、誰かがそれを贖わなくてはならない」っていうのが、法律というか、司法というかの基本的な考え方だよね。罪を犯した人と贖う人は同一でないと困っちゃうけど、でも実は、治安維持だけ考えると同一でなくても良いんだよね。
僕らニュースで「犯人が捕まりました」と聞くと安心するよね。そこで「冤罪なんじゃないの?」とは思わない。「悪いことしたら捕まるんだ」と思う。これで治安維持ができるよね。
だから警察にとって大事なのは犯人を検挙することなんだと思う。罪を犯した人でなくても良いから速やかに検挙しないと。松重豊の「鏑木慶一が犯人です」もそういう考え方だね。
社会全体として考えるとそうかも知れないけど、じゃあ、そのシステム維持のために自分が冤罪で捕まったらどうするのさ? っていうと、全く納得できない。国家権力と戦うね。たぶん負けるけど。
そういうテーマを、うまく描いてきたなと思うの。大上段にテーマについて語らないもんね。
横浜流星と山田孝之がさしで話した後で「どうなるんだ?」と思うと、山田孝之が良心に従って行動するね。実際にはあり得ないでしょう。ここまで権力に染まって行動してきたら、最後までやり切るはず。
でも、そのあり得ない選択で、この作品は面白くなった気がすんの。
ラストシーンを『主文……』で無音にするのいいね。
そして吉岡里帆のアップに賭けた。吉岡里帆も応えた。
そしてエンドロール。
色々な造りがいいから、これは必見と思うよ。