[読書] ナオミとカナコ (奥田 英朗/著・幻冬舎) 感想 ※2016年1月期 / 冬ドラマ「ナオミとカナコ」の原作
ざっくりストーリー
百貨店の外商部でバリバリと働く勝気なキャリア・ウーマンの主人公・小田直美だが、実は望まない職場で憂鬱な日々を送るOL。一方、直美の大学の同級生で気が優しく控えめな性格の専業主婦で、DV(ドメスティックバイオレンス)に耐え苦しむ日々の服部加奈子。
親友である「ナオミとカナコ」が一蓮托生のバディとなって、これ以上受け入れられたくない現実の窮地に追い込められた2人の女が下した究極の選択は、DV夫を排除する完全犯罪の殺害計画。果たしてこれは、復讐か、生き残りか、自己実現か…
小説として、連ドラの原案としてのそれぞれの感想
本書は、2016年1月14日放送開始のフジテレビ木曜22時『ナオミとカナコ』の原作。因みに連ドラでは小田直美を広末涼子さん、服部加奈子を内田有紀さん、加奈子の夫・服部達郎を佐藤隆太さん、達郎の姉・服部陽子を吉田羊さんが演じる。
と言うことで、当blogとしては、1冊の小説としての感想と、連ドラの原作としての感想に分けて書いてみる。
完全犯罪の仕掛けがどうこう言う作品ではない
まず、1冊の小説として。438頁もある分厚い小説だが、文体が読み易くテンポも良く展開も速いから、2,3時間もあれば一気に読み終えられる。物語は完全犯罪を企てる女2人と彼女らの協力者(知らぬ間になっているのだが)と、真相に詰め寄る被害者の姉や警察らの攻防戦が、大きなどんでん返しもなく描かれる。
ただ、本作が読み所?は、完全犯罪の仕掛けがどうこうではないと思う。普通に暮らす人が犯罪に巻き込まれ、まるでのめり込んで行くように大罪への道を進んで行く恐ろしさ。
素人が実行する完全犯罪の世界が疑似体験できる
そして、実は誰しも平常と狂気が心の中に共存し、ある種の極限状態では実にふわふわと平常と狂気を行ったり来たりする犯罪者の日常が、時に凶悪に時に滑稽に描かれるのが面白い。
また、直美と加奈子に感情移入しやすいのも上手く書けてる。従って、読み手も完全犯罪を企む一味の気分になって、ハラハラドキドキが疑似体験できる。いくらDV夫とは言え殺すのはどうかと思うが、そんな現実では味わえない虚構の世界が気軽に楽しめる作品に仕上がっていると思う。
“結果的に主人公埋没の群像劇” になり難いと思う
次は、連ドラの原作として。まず、メインの登場人物が犯罪者の女2人と被害者であるDV夫とその姉の4人と少ない。これは、最近の連ドラで陥り易い “結果的に主人公埋没の群像劇” になり難いと思う。ただ、配役を見ると「W主人公」になる可能性は高い。しかし、本書では2人のキャラも立場も明確に違うから、脚本次第だろう。
原作が映像的だから、演出次第でよりリアルになる
また、本書全体は「ナオミの章」と「カナコの章」と前後2部構成で、1つの事象を各自の立場から描くために、実に映像的。また、主人公以外の登場人物たちの心理描写は詳細に描かれるが、置かれた環境や状況描写は東京近郊ならどこにでも当て嵌まるように汎用性が高い。従って、リアルさを如何に魅せるかは演出の腕の見せ所だと思う。
大人の女性が直美たちに共感できるように仕上げろ
で、私が気になったのは、冒頭で書いた「438頁もある分厚い小説だが、2,3時間もあれば一気に読み終えられる」点だ。そう、私の感覚では2時間ドラマでは少々物足りず、3時間は多過ぎてテンポが悪くなるプロットって感じ。これが連ドラでは全8~10話は必要になるから、場合によってはかなりの “薄味” になる可能性はある。
ただ、ここ最近の『木曜劇場』は、おとなの女性向けの社会派ドラマやミステリーが多いから、すべての女性に送る痛快なエンターテインメントとして、「もしかしたら、あなたがナオミかカナコだったかも!?」って視点で描けば、結構犯罪者に共感するドラマとして面白く仕上がると思う。
あとがき
本書を読み終えて、ふと思ったのが、映画『エイリアン』や映画『ブレードランナー』のリドリー・スコット監督作品、映画『テルマ&ルイーズ(1991年)』です。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの映画『明日に向って撃て! (1969年)』の女性ヒロイン版とも言える作品に似てるなと。物語は、こんな話…
レストランでウエイトレスとして働く独身女性のルイーズと専業主婦のテルマは、自分を家政婦同然に扱う夫から逃れるためにドライブ旅行へ出かけます。その途中のバーで店員の男にレイプされそうになったテルマを救うために、ルイーズは男を射殺してしまいます。2人の旅は一転して逃避行の旅になる…
と思ったら、こんな記事がありました。
広末涼子&内田有紀、犯罪サスペンスで初共演 日本版『テルマ&ルイーズ』? | ORICON STYLE:
すると、記事中に “長部聡介プロデューサーは「21世紀に甦る日本版『テルマ&ルイーズ』、今を生きるすべての女性に送る痛快なエンターテインメントです」とコメントしている。 ” と。これ、実に納得です。
長部Pがこの価値観なら、走り出したら止まらない、女2人の短絡的で刹那的だけど勇気ある自己実現の旅の物語として、ハラハラドキドキ楽しく描いてくれるかもしれません。と言いつつ、広末さんファンの私としては、ミーハー気分で楽しみたいと思います。テーマが似てる映画を挙げました。年末年始のビデオ鑑賞にいかがですか。
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