ノーベル経済学賞を受賞した経済の専門家は、トランプ第2次政権の誕生による世界経済の動向をどのように読み解くのか。「日本人はトランプ氏に幻想を抱いてはいけない」と警告する理由とは。(国際ジャーナリスト 大野和基)
トランプの高関税は
時代遅れでナンセンス
――2025年の世界経済で懸念点は?
トランプ氏が再び米大統領になることで、米中貿易戦争が激化するのは必至です。彼の志向する保護主義政策により、冷戦後の世界経済の均衡が崩壊する可能性すらあります。トランプ氏は中国からの輸入品には最大60%、その他の外国製品には10~20%の関税を課す方針ですが、これは大恐慌時代をほうふつさせる水準です。
――大恐慌時代をほうふつさせるとは、どういう意味ですか。
トランプ氏が望む高関税政策は、95年前に時計の針を巻き戻すもので、時代遅れ極まりない。1930年に、当時のフーヴァー政権下の世界恐慌対策で、高関税によって国内産業を保護しようとしました。が、結果的に、各国からの米国向け輸出が減少したことで、世界恐慌をさらに悪化させました。
――なるほど……時代遅れでナンセンスということですか。
トランプ氏は、米国の製造業を復活させ、インフレを抑制するにはそのような手段しかないと信じていますが、それが大問題です。高関税はインフレを悪化させ、消費者に負担を掛け、他国から報復貿易措置を引き起こすだけ。
彼は、法人税の大幅減税や、社会保障給付への課税の撤廃も主張する一方で、「台湾の半導体チップに課税する」と発言しています。1次政権でも、国家安全保障上の必需品として鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課しました。しかし、これらの動きはすぐに反発を引き起こしました。
カナダやEU(欧州連合】などの主要同盟国が、米国の農産物を対象とした報復関税で対抗したことで、米国の農業に特大カウンターパンチとなりました。もし、トランプ氏が輸入品に一律にかける関税の導入を進めれば、確実に新たな報復の波を招くでしょう。
さらにトランプ氏は、WTO(世界貿易機関)の枠組みに対しても疑問視していますが、これすらも無視してしまえば、世界的な緊張が高まるのは確実です。
次のページでは、トランプ関税で日本が大惨事となる三つの理由を解説します。さらにクルーグマン氏は、世界経済を統治するある機関が、トランプ氏の介入によって脅かされている非常に危険な状態だと指摘します。金融危機を引き起こしかねない重大な懸念点とは何でしょうか。