Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

昇進しました。


本日十一月一日付で昇進した。

 我社は大人の事情でほぼ全員が管理職。役職付。ノー残業、代。営業部だけでも、部長、次長×二名、副部長、部長代理、部長補佐、室長、課長×四名と、「長」の付く人間が、11人いる。そのため部長〜課長間の人類の序列が曖昧、不可解、奇々怪々になり混乱、九人の給与(年俸)が変わらないことがその混乱に拍車をかけ、業務に支障が出はじめていた。


 そんな営業部の現状を嘆いた社長が大英断を下した。人事制度を刷新して、部長以下の人間を全員課長とし(注/大人の事情でこの人事は行われなかった)、営業部をとりまとめる新リーダーとして営業二課、僕自身とぷーやん(事務パート/50代女性)計二名を立派にまとめあげていた僕を抜擢したのだ。


 先週末に社長に呼び出されその構想を打ち明けられた。社長室にはいるや否や「命拾いしたな」と言われた。「命拾いしたな」は社長の口癖。社員はただ、はい、助かりました、と答えればいい。 「いや本当に命拾いしました」「今日ここに来てもらったのは、来月から君に昇進してもらい営業部全体をまとめてもらおうと考えているからだ」「昇進ですか…」傷心の会社生活にわずかな希望の明かりが灯ろうとしていた。るるるんるんるん。ハミングが出そうになる。私は花の子、今週の花言葉はなにかしらん。


 「そうだ。君には営業部長の上から、営業二課だけでなく一課もみてもらう。もちろん部長会にも出て忌憚ない意見を聞かせてもらいたい。命拾いしたな…」ついに部長を超越するッ!「具体的は私の役職は?」「課長だ…」「…ええ、確かに今は課長ですが、あ〜う〜あ〜ですから私の…」社長の機嫌を損ねぬよう、故・大平元首相のモノマネを取り入れるなどして、やんわりと、マイルドに、尋ねようとしたが社長はきっぱりと「課長だ」と言い切った。


 「どういうこと、でしょうか」「君には課長という立場のままでいてもらう。なぜ課長のままなのか疑問だろう?」「はい」「周囲とのバランスだよ。年少の君が上役になったら、周りがおもしろくないだろう。君を妨害するかもしれない。だから見た目の役職は変えずに実質的な責任と仕事を変えることにした。君のことを考えてのことだ。命拾いしたな」「名を捨て実を取る、ですね。わかりました。具体的に私は何をすればいいのですか」「君には営業部長の仕事と責任を背負ってもらう。無論、業務上部長に指示を下すこともあるかもしれないが、彼の気分を損なわないよううまくやってくれ。ただし、営業部における最終的な決定権は部長がもつ


【 課長<部長< スーパー課長? 決定権なし】


 決定権がない…。僕の役職はいったい何なのだろう。「すごいパシリ」みたいなものか? 楽観的に考えれば僕は聖闘士星矢の青銅聖闘士みたいなものなのかもしれない。初期設定を無視して無理矢理、上に駆け上がっていく。『青銅聖闘士<白銀聖闘士<黄金聖闘士<青銅聖闘士』僕は腹を決めた。沙織お嬢様のような理解者はいないけれど、自分の出来ることをやろう。聖闘士星矢だって車田先生の無茶を乗り越えて戦ったんだ。


 目を閉じて、視覚を封じ、小宇宙(コスモ)を溜めている僕に社長が言う。口調が熱い。「もちろん仕事と責任が増すだけではない。相応の昇給もさせてもらう。それに昇進すれば給料以外にもいいことがひとつ、あるぞ」「なんですか?」僕は社長が、仕事のやりがいや、男の生き様を示してくれると祈るように信じていた。社長は息を深く吸ってから大きな声で言った。「威張れる!」僕、絶句。「来年三月実施の社員旅行の幹事も君に任せる。部長級の大役だ」追い討ちをかけるような社長の言葉が頭蓋骨にからから響いた。大役だ…大役だ…。


 これが先週末のこと。今朝、渡された辞令の役職は「課長」。「営業二課長」からソリッドな感じのただの「課長」になっていた。僕は昇進したのだ。さっき総務部長から昇給について知らされた。役職手当が仕事と責任相応に大幅増額される。一万八千円から二万四千円に。羨むことなかれ、嘘みたいだけど、これ、年額なんだ。