専門分野から上1層・下2層ぐらいに興味を持って、知識を仕入れている人と仕事をしたい

デジタルカメラの商品企画をやっている Aさんがいるとする。彼に期待されている仕事は市場分析をしてマーケティング戦略の策定ならびに商品の方向性を決めること。市場分析の手法や、マーケティングの知識はあるし、商品の方向性を決めるためにデジタルカメラの機能や仕組みなどについては良く知っている。でも、それはその道のプロとして「あたりまえ」のこと。

私が一緒に仕事したいな、と思う人は「もう1〜2レイヤー下まで興味を持って、ある程度の知識を能動的に仕入れてくる人」である。先のAさんを例に取ると、下のレイヤーとして、金型の知識やメカの知識、あるいは組み込みソフトウェアの知識に、興味を持ってほしいのだ。上のレイヤーの知識としては単品カメラの企画ではなく複数のモデルを通したロードマップやサポート費用などを含めた事業計画などの知識。

勿論、企画屋さんに金型やメカのプロになれというわけではない。自分のレイヤーのプロフェッショナルでありつつ、上下レイヤーの興味をきちんと持ち、それなりの知識を得ようと動くことを期待したいのだ。


大手メーカーのよさは、その筋のプロがそこらじゅうにゴロゴロいること。メカ屋しかり、組み込みソフト屋しかり、調達屋しかり、法務しかり、知財しかり。別レイヤーのプロフェッショナルから教えを請うシステムが整備されている会社はあまりないだろうが、大きなプロジェクトになれば顔見知りの別レイヤープロフェッショナルの一人や二人できるはず。

『今夜ちょっと一杯、いきません?』で同じ会社の社員ならではの(機密保持契約に縛られない)濃密な知識を仕入れることができるのは、大企業ならではのメリット。これを活用できていない大企業社員は損をしている、と言ってもよいだろう。


大企業に新卒入社すれば、この恩恵をより強く受けることができるネットワークがある。そう、"同期入社社員"ネットワークだ。まったく縁のない部署の情報を入手することができるこの仕組みは、絶対に遊ばせてはならない。研修終わってから同期とまったく連絡を取っていないなぁという諸氏は今すぐメールしよう。

『ひさしぶりー! 最近どうよ? 一杯いこうぜー』の一言で仕事上の上下関係のない、それでいて社内情報を話し合える間柄で会話ができるメリットは計り知れないのだから。

私もこの方法で、専門外の情報を色々仕入れさせてもらったもの。「最近MRAMの品質変動が大きくてさー。これ採用決めたデジカメプロジェクトは大変なのよ」「そういうときってどうするの?」「こうこうこういう契約条項にしてリスクヘッジしたりするんだよー」「へー」なんて他愛ない会話がかなりの勉強になるわけだ*1。


ひとつの商品を作り上げるにあたり、様々な職種の人が連携するのは常識。しかし単一のレイヤーしか見えない、或いは上下のレイヤーについて受動的にしか知識を仕入れていない人と仕事をすると、どうしても職種間で意思疎通がうまくいかなかったり、仲間意識が根付かなかったりとうまく前へ進まないことが多いように思う。そこで上下のレイヤーについて理解しているメンバーがいれば、びっくりするほどスムーズに話が進んだりする。

「MRAMを採用したい。なぜなら、今回のプロジェクトでは○○な理由があるためです。」と言われると(こいつ、わかってねぇくせにえらそーなことを....MRAMの品質変動がどれぐらい面倒なことになるか...(怒))なんてなってしまうところ、

「MRAMの採用が難しいのはわかる。品質変動が大きいと聞いているし。でも、契約条項を工夫してリスクヘッジする手法もあると聞いている。今回のプロジェクトでは○○な理由からどうしてもMRAMを使いたいんだ。デジカメプロジェクトの先行事例を調査して、同じような感じで頼みますよ」とお願いされると、うーん、理解した上でそこまで言うなら契約条項のスクリーニングを始めてやろうかな、とも思うわけだ。


こういう知識の広げ方ができていれば、転職や独立にものすごーーーく役立つので、今の会社に満足していない人でもトライしておいて損はないはずだ。もっとも、聞きかじりの知識をさもわかったかのように使うのはやり方を工夫しないとひどい嫌われ方をするので注意を!

技術者のケースでの具体例

家電の商品企画にとっての1〜2層下のレイヤー

ハードと組み込みソフトのアーキテクチャ、ざっくりとした工数感。ネット家電系の場合ははやりのネットサービスのアーキテクチャ。ATOM、RSS、XML、Flash、AIR、といった基本的なテクノロジの理解と必要なハードウェアスペック、ライセンスフィーあたり。BOMリストにおける主要部品の価格帯とプロセッサロードマップ。

家電の組み込みソフト技術者にとっての1〜2層下のレイヤー

生産技術、金型、デザイン...とか書き出したけど当事者じゃないのであまりでしゃばって書かないことにした。Professionalの方からフォローいただきたい(TBかコメントいただければここに反映します)

Webデザイナにとっての1〜2層下のレイヤー

絵が書けて、CSSがいじれてJSもちょいとできます、というWebデザイナーさん。UI設計論とかユーザーサポートの実情なんかを知っているとよし、かも。こういうUIだと結構問い合わせ多いんでこーしたほうがいいですよー、とか。こちらもProfessionalの方からフォローいただきたい(TBかコメントいただければここに反映します)

以下項目だけ。投稿あったものから反映していきたい。上のレイヤーについても歓迎。

Web系企画屋

taz8さんのコメントより。
本業に加えて...

−認知心理学の成果を正しく応用した具体的ユーザーインターフェースデザイン
−最新の脳科学を押さえた広告やPR活動(ニューロマーケティング)
−グラフィックデザインの基本をみっちり押さえた上での、デザインディレクション
−人間行動の背景を知るためのカルチュラルスタディー(特にサブカルチャーを中心に)
−ユーザーサポート部門のどろどろとした部分の効能を理解した商品ライフサイクル計画

組み込み系プログラマ

hkinamihkinamiさんからのコメントより。

  • ハードウェア関連技術(アーキテクチャ、コスト、最新デバイス動向など)
  • ユーザーインタフェースデザイン(インタラクティブデザイン、グラフィックデザイン、操作性、ユーザー中心設計など)
  • サーバーサイド、クライアントサイド、ネットワーク関連のソフトウェア技術(組み込みにはちょっと遅れて入って来る気が…)
  • メカニカル関連技術(ここは、あまりよくわかってませんが、必要そうですね)
  • ユーザーユーズ探索技術(企画、市場調査、経済など)
  • 語学力(メンタルブロックを外すこと)
  • 独自性(日本文化、オタク文化、組み込みソフト以外の得意分野。なんでも)
  • 法務関連の知識 (SWライセンス、ロイヤリティ、NDAなど)
家電系メカ屋

BookmarkCommnetに対して

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/wa-ren/20090201/p2

waverider:
この不快感の原因は、「他人を、己のリソースとしてしか見ていない」ように感じるからだろうか。ブローカーの如く知恵や知識を調達しようとする態度が癇に障るのかもしれない。

うーん、「情報クレクレ君」ぽく見えるエントリーだっただろうか? 実際のところは情報をもらうからには情報を提供しないと人的ネットワークが成立しないと思うのだが。前職のPanasonicでは社員が遵法すべき7精神の1つとして「力闘向上の精神」と掲げられていた。社訓だからというわけではないが、社員同士が力を合わせて知識を共有し、強い組織を作って行くことは個のためでもあり組織のためでもあり、誰も不快感を感じるところはないと思うのだが。

ya--mada:
こうゆうビジネス脳がキモいと思う人間になってしまった。向目的性で知識・人脈を増やそうとすることを軽薄だと思うようになってしまったのはなぜだろう?

んー。やっぱり自己の為という側面を強調しすぎたためか? 自己の知識を増やす目的で人と会って話しをする、という行為が嫌な人はそもそもそういう会合に出てこないだろうし、結果的にそれを目的にした人同士が出会い、交流し、相互に知識を増やしあう、というエコシステムが回るように思うのだが。

でも実際やってみると、そんなドライな関係じゃないですよ? というのが現実直面者からの個人的感想。

※たまに不幸にも何らかの理由で巻き込まれてしまったそうでない人にとっては迷惑・不快、という話なのかも

*1:あくまで例。実際の話ではないので念のため