『迷宮街クロニクル』の販売促進活動とついでにライトノベルの感想とか

kodamatsukimi2008-11-16


迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)

迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル? (GA文庫)

・現在Web上では本文が削除されているのですが
 『和風Wizardry純情派』(http://d.hatena.ne.jp/WizDiary/)という
 小説を書かれているサイトがありまして
 これが大変面白いものでありました。
 同人誌として書籍の形にまとめられたとき
 布教活動も兼ねて5セット、上下巻なので計10冊も買ってしまったほど。
 それがこのほど商業出版されました。
 ISBNコードを手に入れ全国の書店で気軽に購入可能。めでたい。

・「ウィザードリィ」の版権だか商標権だかの都合で
 題名は『迷宮街クロニクル』と変わっておりますが
 中身はそのままに、加筆修正が加えられております。
 上中下3巻構成の1巻が発売されたので、さっそく買って読み返しましたが
 やはり楽しい。読み始めると止まらない。
 ゲームを題材にしているから、という要素の影響も多いですが
 日記形式、「編日体」という縛りがありながら
 全体の構成に振れのない構成も素晴らしく、小説として良い出来です。

 Web版を読んだ4年前の感想 http://d.hatena.ne.jp/kodamatsukimi/20040923

・本編は5セットも買ったのに
 番外編の「最強トーナメント」編はうっかり買い逃してしまったので
 ぜひともこの3冊が売れて、番外編も出版されて欲しい。
 ゲーム好きなら、このサイトを読んでいただいているかたなら
 たぶんに楽しめるできであること受けあいでございます。
 是非ぜひ読んでない方は、読んである方も加筆部分を目的に、ご一読いただきたい。
 お勧めいたします。

・ちなみに1巻のサブタイトル「生還まで何マイル」は
 『ハウルの動く城』の原作で知られるダイアナ・ウィン・ジョーンズの
 『How many miles to Babylon?(バビロンまでは何マイル)』(ISBN:4488019412)から。
 たぶん。マンガのほうではないよな。




・ついでに今回は、最近読んで面白かったライトノベルも書いて項を埋めたいと思います。
 「なんにせよ9割はカスである」の法則通り
 ライトノベルにも良い本はたくさんありますのですよ。

・まずはこちら。『オペラ』シリーズ。女性向け区分で出ている作品。全8巻。
 ライトノベルはマンガと同じく男女向けにわかれているのですが
 女性向けの中にも、男性が読んで面白い作品がもちろんあります。
 『十二国記』とか『デルフィニア戦記』とか『流血女神伝』とか。
 このシリーズもそういう系の、恋愛が主体ではなく、古風なファンタジー的おはなし。

・主役は、剣士兼薬師にして病弱でいつも喀血している長身美形の男と
 超絶美形で口が良く回る詩人の男、
 元暗殺者で無口無表情、にして絶大な魔法力を持つことになった美少女の3人組。
 3人がいろいろな理由から旅をして回り、事件を引き起こしたり巻き込まれたり
 おもに機知と気転と口先で乗り越えたりして、舞台となる世界の謎に迫る。
 なぜ旅の身空で皆化粧ばっちりなのかというと、それが少女小説だからです。

・少女向け小説の常套として、この「編成」であれば
 当然視点は少女から、美形長身の男2人を侍らす展開となりそうですが
 この作品は喀血剣士視点。そのひねりが良い感じ。
 つまり、視点が女性主人公ではないゆえに
 読者の感情移入対象でありヒロインであるキャラクターの成長要素を
 仲間として助け合う位置から見るという構造が、面白いところなのです。
 異性関係から同性関係、さらにそれを裏返した見方もある。少年向けではない発想。
 こういうのもあり。面白い。



ライタークロイス (富士見ファンタジア文庫)

ライタークロイス (富士見ファンタジア文庫)

・いきなり最先端少女小説で十分に引いていただいたところで
 次は割とまともなのを。『ライタークロイス』シリーズ。既刊4巻。
 富士見ファンタジア文庫は男性向けの中でも
 割に低年齢向けであるのがはっきりしているところ。
 よって文章が悪い意味ではなくすかすかで読みやすいとか
 展開が単純であり素直に楽しみやすいものが多いのですが
 この作品もそういう傾向。
 文章簡潔。過不足なく要を得て抑制のきいた描写が素晴らしい。

・「ライタークロイス」とは「Ritter Klasse」。ドイツ語で「騎士勲章」。
 帝国騎士団は、神らしき存在との契約により「ライタークロイス」を授かり
 それにより戦場で絶大な力を発揮できるという設定。
 加護による帝国の軍事力は、大陸の他国を楽に粉砕征服できるほどなのだが
 契約の果たすべき義務として、東方海の彼方より襲来する強大な魔物軍撃退のため
 その戦力の殆どは割かなければならない。
 他国とて魔物軍にライタークロイスなしでは敵わないため
 協力して帝国を倒すわけにもいかず、勢力は均衡を保っている、というのが舞台。
 主人公はとくに優れた力があるわけではないが、主人公特権でいろいろ幸運に恵まれ
 仲間とともに帝国の皇女を助けていろいろ活躍する、というおはなし。

・文章が過剰でないので印象が地味なのですが
 舞台設定も話の運びも堅実で楽しい。キャラクターの描写も狙い澄まして適当。
 とても読みやすくて、これぞライトノベルの鑑といえる一品でございます。
 どなたにもお勧めできます。



鉄球姫エミリー (鉄球姫エミリーシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

鉄球姫エミリー (鉄球姫エミリーシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

・『鉄球姫エミリー』シリーズ既刊4巻。
 こちらは「ライタークロイス」と違って文章が饒舌。
 それでいてとても読みやすい。
 展開は単純ですが、描写が丁寧で、戦闘場面の味わいは出色。

・設定は同じような中世ヨーロッパ風。
 この世界では重装鎧に鋳込まれた「輝鉄」という金属により
 戦闘能力を高めることができ
 それにより姫が巨大鉄球を振り回し、敵を文字通り粉砕したりできる。
 舞台となる王国の姫である主人公は
 弟との後継者争いによる内乱の愚を避けるため
 少数の従者のみを従え、僻地の領地に隠遁していたが
 弟派の重臣は将来の芽を摘むため、なおも姫に刺客を差し向ける。

・わかりやすい悪者や愚か者がいるわけではないのに
 弱者同士が争いあうこととなり、戦場で兵士はあっさり倒れていく。
 そんな中、貴族としての義務、ノブレス・オブリージュを果たすため
 姫は血飛沫舞う過酷な戦場を生き抜いていくのであった。
 これがままならない現実よ、という素直なおはなし。

・つまりありそうでなかなかない、ヒロイックファンタジーに成り切らない戦場物語。
 好きなひとにはたまらない逸品。
 展開やキャラクターを楽しむより、文章を味わう風に読む小説。
 設定ではなく描写でファンタジーを構成する。これぞ物語。



円環少女 (角川スニーカー文庫)

円環少女 (角川スニーカー文庫)

・最後は『円環少女』。「サークリットガール(CircletGirl)」とついているので
 トーラスに、サークリットを付けた少女、とかけた題名と思われます。
 既刊8巻。ヒロインは小学6年生の少女。主人公と視点は二十代の小学校教師。
 とても偏った設定です。

・ヒロインの武器は魔法。本作の魔法は際限なく強く
 天災級の最強キャラクター達が戦うお話なのですが
 この作品の特長は、その何でもありなように見える魔法を
 理屈付けで描写するところにあります。
 ただのファンタジーではなくサイエンスファンタジー。SFです。

・舞台設定はゆえに凝っております。
 この世界に住む人間は、魔法を感覚するだけで消去してしまう力があるため
 魔法大系が自然大系にかわって成立している世界からきた魔法使いは
 特殊環境であるこの地を実験の舞台として得ようとし
 さまざまな世界からくる魔法使い達に、人間側の主人公たちが抗するというお話。

・魔法の大系も面白い。
 例えば「円環大系」であれば、回転や振動などの周期的な運動における物理量が
 観察によってではなく、自然に定まらない世界で成立したもの。
 その振れに力を見出し、魔法としてその力を使役する。
 例えば「完全大系」では、観察者の認識した値と現実の値が曖昧である世界で
 そのズレに力を見出し魔法として行使する。
 というように、それぞれの世界の法則を
 この地球から観測される世界の自然物理法則として認識すると
 どのように観察されるか、として魔法を描写している。
 なぜ、おのおのの大系世界の力が自然大系たるこの世界で行使できるのかの説明は
 いまのところなく、そこがファンタジーですが
 設定好きにはたまりません。

・キャラクター描写もなかなか極端。
 まさに世界が違うので魔法使いたちは常識が違い
 だから変態にしか見えなかったりする。
 それでいて生き汚いところは変わらず人間臭くあるようにも見える。
 ファンタジー設定とキャラクターが
 現実舞台の方法論で戦うと、どうなるかというフィクションとして面白い。
 初めはややとりつき難いところがありますが
 巻を重ねて文章も読みやすくなります。
 SF好きならおすすめ。以下の対談も参照。
 京都対談 京都SFフェスティバル本会第一部 長谷敏司×有川浩 対談 http://lanopa.sakura.ne.jp/kyoto_sf/



・という感じに、気に入ったものをいくつか挙げてみましたが
 ライトノベルにもいろいろあるものです。
 そしていろいろな作品があるからこそ、良いものもまたあり得る。
 ゲームもそうだしネットもそう。子供向けの小説であっても、やはりそうなのです。