おまえも俺もそうだったよ。
今夜、我が家はささやかながら近所の居酒屋で忘年会をした。隣席で赤ん坊が泣いていた。うちの長男(中1)が、うるさそうに両耳を指で耳をふさいでいるのを目にして、「こら、失礼だからそれはやめろ」と諭した。おまえもあぁだったんだぞ、と。あまりに月並みだね、これでは。
弟が合流することになり、場所を替わった。で、長男に語った。語りたかったので語った。「俺、小さい子供は嫌いなんよ」と彼が言うから、俺もそうだったよというところから始めた。
迷惑がられることを怖れて母親が外に出なくなることがある。迷惑そうな人目が気になり、家に赤子と閉じこもる、そういうことがままある。おまえもよく泣く子だったから、お母さんもそうなりかけたことがある。出れば気も晴れるものを、出ないからますますおまえに手を焼き疲れ果てる。そういうことがあった。
誰だって自分もそうだったのに、あるいは自分の子がそうだったのに、喉もと過ぎれば熱さ忘れるで、泣く赤ん坊を連れていると迷惑そうにする者がいる。情けない話だ。
場所によっては静かさを求められることもあるから、映画館や図書館など遠慮したほうがいい場所も確かにあるが、高級レストランでもあるまいし、大の大人も騒ぐにような居酒屋で赤ん坊が泣き喚いていても何の問題も無い。
以前、まだ幼いおまえを連れて入ったファミレスで、泣きじゃくる赤ん坊に手を焼いて済まなさそうにこちらを視る親御さんに、俺が笑顔で応じたことがある。その親御さんは、ホッとしたような顔をしていたよ。
お互い様なんだよ、順ぐりのめぐり合わせでしかない。「おまえもそうだったんだよ」と、さっき言ったのは、そういうことだよ。…そのように言うと、長男はわかったような、わからぬような顔をしていた。
今はわからぬで良い。わかるはずもなく、わからぬことをわかった気になってもらっても困る。将来、思い出してもらえば良い。そういえばあのとき、親父が言っていたのはこのことかと、そう思ってくれたら、それ以上のことは何もない。