無用の問答(その2):八方美人かダブスタか

第1回目からほぼ2ヵ月以上も経ってしまいましたが、なんとか掲載にこぎ着けることができました。このシリーズは五木寛之・帯津良一著 平凡社刊【健康問答−本当のところはどうなのか?本音で語る現代の「養生訓」。−】と謂う書籍を元に、帯津氏の考え方や代替療法のあり方など個人的に検討を行っていくというものであります。
殆どの方が前回の内容を覚えていないと思いますので、下記のリンク先を参照してやってください。

無用の問答(その1)http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110227/1298790723

あ、あと、目が痛くなるような長文エントリなので、お暇な方はどうぞな感じです。

今回と次回はどらねこが興味を覚えた問答について、本文を引用しながら発言内容を検討していこうと思います。そうして、検討の結果を【ねこの結論】として、どらねこの意見を表明します。最後に総括として、代替療法のあり方や帯津氏の姿勢について個人的意見をだせればなぁ、と思っております。では、しばらくお付き合いをお願いします。

■Q1 水はたくさん飲まなければいけないのか
−ここ最近、脳梗塞や病気の予防に水を飲むようにと色々なヒトが言い始めたけど実際の処はどうなんでしょう?という話題−

p18-19より
帯津 そうですね。しかし、水は飲めば飲むほどいいということは、ないと思いますよ。いまの人は、みんなペットボトルを持って歩いていますね。そして、ちょっとのどが渇いたと思うと、すぐ飲みます。知らず知らずのうちに、昔より摂取量が多いと思うんですよ。
<中略>
五木 運動中は絶対、飲ましてもらえませんでしたから、われわれの世代は。ところが最近は、マラソンでもテニスの試合でも、脱水症を恐れて、試合中もしょっちゅう水分補給をしている。あれが正しい飲み方だといわれて、ともかく、無理しても水を飲めといわれていますね。だけど、胃の悪い人にとって、生水は辛くて、そう飲めたものではないでしょう。


帯津 だから、なん度もいうようですが、飲めばいいとはいえないと思うんですね。ただ水を飲むことによって、たしかに血液の量は増えるし、循環も良くなるということはありますから、多少は効果があると思うんですけれど、あんまりたくさん、オーバーに飲むというのは、どうでしょうね。われわれの常識では、ちょっと賛成しかねますけれどね。

そうして、以下のような結論が導き出されます。

p23
【医者の結論】
やみくもに水を飲めばいいというものではない。体の欲求に応じて、のどが渇いたら飲む程度でいい。ただし、脳血栓の素因のある人は、少し多めに水をとる。

【ねこの結論】
何事も摂りすぎれば毒となる。妥当性の高い結論が示されたと思います。拙エントリ、『水はガブガブ飲めば良い?』も宜しくね。
(前編)http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100304/1267684616
(後編)http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100305/1267761502


■Q4 牛乳を飲むことは、いいことか悪いことか
−牛乳有害論と有用論、実際のところどうなのよ。そんな問いかけ−

p33
五木 牛乳ダメ説には、牛乳そのものがダメ、つまり牛を育てる乳を人間が飲むのはおかしいという原始的な説と、ホモジナイズという製法が問題であるという説がある。昔の牛乳は、三日たつと腐ってヨーグルトになったが、最近の牛乳は十日置いてもなんともないじゃあないか、それは不自然な牛乳だという説ですが、私には、後者の説のほうが説得力がありました。つまりホモジナイズ製法のものは生の牛乳のなかに本来はいっている細菌が、全部死滅して、化学製品のようになっている。そんなものは飲まない方がほうがいいんじゃないか、という説ですから、ちょっと説得力ありますよね。


帯津 そうですね。

ええと五木さん、ホモジナイズは別に殺菌法じゃなくて、脂肪球を分散させて均質化させたものなわけだけど・・・。あと、牛乳の成分企画に関しては乳等省令の中に細菌の残存数についてはこう書かれています。

細菌数(標準平板培養法で1mL当たり) 50,000以下
大腸菌群 陰性

ホモジナイズ製法でもノンホモであろうとも省令ではこれを満たさないとだめですよ、と示されており、ホモジナイズ製法であっても滅菌されているわけでは無いことが分かります。五木さんが説得力を感じたとしても、それは事実じゃないわけです。しかも、五木さんの問いかけの妥当性を判断する立場(?)の帯津先生が同意見では困ってしまいますね。

p34
帯津 ガンの予防にいいというから。牛乳すきだったし。ところが、『粗食のすすめ』の著者で、管理栄養士の幕内秀夫さんと仕事をするようになって、考えが変わりました。彼、牛乳は認めないんですよ。私の患者さんが、どうして牛乳だめなんですかというから、幕内さんに聞いてみたら、「だってあれ、牛が飲むものでしょう」って、さっきの説を力説するんです(笑)。それで私は、飲まなくなっちゃったんですね。それから全然飲まないんですよ。

食養系出身の管理栄養士幕内秀夫氏が登場しました。帯津医師はこの件と同様に、相反する考え方でも一度は受け入れる極めて柔軟な姿勢をお持ちのようです。

p35
帯津 だけど、牛乳が良くないという説も、体に良いという説も、ともにはっきりした科学的根拠(エビデンス)があるのではないと思います。日本古来の食習慣のなかにあったものではないので、多分に、その鯵が好きか嫌いかに左右されていると思います。おいしいカルシウムが補給されると実感する人は、飲んでもいいし、嫌な味だな、飲みたくないなと思う人は、飲まなければいいと思います。


五木 そう悪玉あつかいする必要もないし、過剰に効果を期待することもない、ということですね。

ところが流石は帯津医師、さんざん自分は飲まないと謂ったあげく、結論は意外と妥当なものだったり。これが、患者の心に寄り添う医療なのかも知れません。おそらく、帯津氏の病院を利用する方の中にも牛乳を愛好する人は少なからずいるとおもわれますので、それらの人に配慮するためにどっちつかずの両者に配慮する結論にしたんじゃないかな。どらねこはそんな感じがしてなりません。まぁ、それ以前に牛乳有害説については感情論を抜けば明確に反論できるモノばかりだから、有用論と同じ土俵にあげる類のモノではないのですけどね。

p35
【医者の結論】
牛乳は無理して飲まなくてもいい。好きな人は、適量を飲んでいても問題はない。

【ねこの結論】
牛乳を悪玉扱いする必要もないし、過剰に効果を期待して無理矢理飲むこともないけれど、閉経後の女性については骨折リスクを低くする事を示唆する日本人を対象とした疫学データが存在します。しかも、比較的安価で、十分な摂取が難しいカルシウムを手軽に補給できる食品であることは忘れちゃいけません。健康な生活を送る上での有用なアイテムの一つとして活用するのは良いと思いますよ。
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100508/1273295373


■Q5 肉は、ほんとうに体に悪いか
−牛乳有害論とくれば次は獣肉は?−

p 36
五木 牛乳のつづきで、つぎは肉について伺いたいと思います。
牛は、草を食べて筋肉をつくるわけでしょう。そうすると、菜食主義者の説も一理あるかなと思うのですが。つまり人間は、動物性タンパク質をとらなくてもいいんだという説ですが、これはどうでしょう。

自身の持つ消化酵素では分解できない植物のセルロースと謂う糖質を細菌のチカラを借りてエネルギー源に利用する反芻動物牛を引き合いにだして一理もあったものでもありません。さらに筋肉の合成に十分な量のアミノ酸を摂るために草食動物は大量の草*1を食べているわけです。そんな一理も無い話を同列に並べて語る事自体が馬鹿馬鹿しいので一蹴して欲しいのですが・・・。

p36
帯津 菜食主義によって、肉食の人よりも体力が劣るということは、ないと思うんですね。ですが、感覚的には、私は疲れたときに肉をたべますね。ステーキを食べると元気が出るんです。


五木 なんとなく元気がでますよね。不思議なもので、即効性があるんですよ。

え、感覚だけで説明しちゃうのですか?あと、ベジタリアンと一口にいっても、ラクトベジタリアン(乳製品はOK)と動物由来食品を一切排すベジタリアンは切り分けた説明が必要だと思うんですけど。

p38
五木 やはり、ものごとには、「適当」というのが大事なんだなあ。


帯津 ええ。偏るのが良くないんです。やっぱりね。

肉を食べる人に配慮しつつも、菜食主義の主張を尊重してまとめてしまう。中々上手なやり方ですね。

【ねこの結論】
獣肉は飽和脂肪酸が多いので、野菜中心の食生活をしているヒトには体に良い影響を与える可能性が高いですし、そればかり食べているヒトにとっては、健康の悪化が懸念される食材です。毎日1食は肉のおかずにしても問題は無いレベルなんですよ。


■Q9 コーヒーは、体にいいか悪いか
−コーヒーは健康によいと謂う説と、イヤ違ういう説とヒトによって評価は様々、実際はどうなの?という質問−

p55
五木 コーヒーは、体を冷やすから良くない。紅茶のほうがいい。生姜や黒砂糖を入れて飲むと、体が温まるから、紅茶を飲みなさいとすすめる人もいますね。私はときどき蜂蜜を入れて飲むんですけれど。コーヒーにレモンを入れると旨いですよ。私の勝手な飲み方ですが。


帯津 両極端がありますよね。それは、どんな研究でもありますから。コーヒーは長いあいだ、世界中で愛飲されていて、それほどの問題はないようですから、まずは安全な嗜好飲料と考えてよいでしょうね。もっとも大量にとれば、なんらかの害があるようですが、これは、どんなものにもいえることで、とりあえずは論外といってよいでしょう。

どのような物質も毒物と成りうる。極めって真っ当な主張ですね。

p56
帯津 ガン予防とか考えず、気分転換のため、嗜好品として飲むのがいいのではないでしょうか。


五木 そういうことなんでしょうね。

コーヒー療法の強烈な信奉者がまわりにいないのかも?いやあ、帯津氏結構イイコト謂うじゃん・・・なんて思っていると、次のQ10 ではコーヒーの話と同じように緑茶について言及をしていて、その中にはこんなやりとりがあります。

p59
帯津 だから、医者も患者も、断定出来ない世界があると思って、ちょうどいいんですよね。万能の療法というのは、いまのところないんですから。


五木 それを、みんなあまりにきっぱりと、テレビの健康番組なんかで断定するから、おかしなことが起こるんですね。

ええっ!!本書には健康番組でそのように断言をするようなヒトの名前*2が好意的な文脈で多数掲載されている気がするんですけど・・・
【ねこの結論】
安易な両論併記と中庸でお茶を濁す意見よりも、コーヒーの深淵を目指して潜り続けるy_tambeさんのツイートを参照した方がはるかに参考になる。
http://twitter.com/#!/y_tambe


■Q12 玄米菜食は究極の健康食か

p63より
五木 最近、白米を食べる人は、なにか野蛮人みたいな目でみられる感じがするんです。マクロビオティックとか、発芽玄米や、十穀米などを炊き合わせるのが健康に良いというわけで、一種のファッションのようになっています。<中略>
玄米はいいかもしれない。たしかにいいだろう。でも、これ一つではダメというのが、私の説なんですよ。


帯津 確かにそうです。いまガンの患者さんは玄米菜食党が多いんですよ。幕内秀夫さんも玄米菜食はすすめますから。でも、それだけだと、やっぱり息が詰まってくるというか、ときどき私は、肉を食べたり、カツ丼を食べたりしろというんですね。そこで、パッと喜ぶ気持ちが出てくる。それがいいんですよね。ずっとカツ丼を食べていると、喜びはないでしょう。

玄米は体に良いという前提がおかしいんですけど、ソレ一辺倒ではダメと謂うのはまさしくその通りですね。
それに続き、五木氏が今の日本人はすぐに色々なモノに飛びつきますよね、と話をふったところ、帯津氏は次のように答えます。

p64より
帯津 ええ、ほんとうですね。食というのは、一生の問題ですから、長いスパンで研究しないとだめでしょう。これが、なかなかむずかしいんですね。だから、ある集団を対象にして、病気の原因や発生条件、健康状態などを統計的に調べる、疫学的手法に頼ることになるんです。

極めて真っ当な考え方でビックリ。真っ当な考え方が出来るはずなのに、玄米菜食が有用であると謂う主張自体を疑わないのは何故でしょう?
このあと、五木氏が玄米菜食を真剣にやっている人は修行僧みたいな感じで人生楽しそうに見えない、と偏見(?)を述べ、帯津氏は例外を持ち出しつつも、五木氏に何故(?)か同調。そして導き出された結論が次の文です。

p66
【医者の結論】
玄米菜食は、一つの思想である。その思想に共鳴し、おいしく食べられる人がつづければいい。そして、飽きてきたら、ときどき休む。

この結論だと健康法じゃないと謂う意味になるのですけど、仲良しの玄米菜食実践者は何とも思わないのかしら。それを考えると帯津氏って結構凄いんじゃあないのかしら?そんな風に思ってしまいます。

【ねこの結論】
玄米菜食は一つの思想です。思想なので、健康法としては期待できないので、『体に良いよ』と薦めるのはやめましょう。


■Q14 抗菌・防菌対策は、ほんとうに病気を予防できるか
−ノロウイルスや新型インフルエンザの話題が世間を賑わせている中、うがいや手洗いの励行が盛んに謂われるけど、どんなものなのでしょう?−
五木氏の問いかけに、帯津氏は過剰反応なんじゃないの?と答えます。そして、自分が子どもの頃は手を洗わなかったよね、と尋ねると五木氏も、洗いませんでした、と即答します。

p72-73より
帯津 それで、なにも起こらなかったですよね(笑)。腐った饅頭なんか食べて下痢しても、そのままでだいたい治っていたんですよね。
<中略>
五木 汚いものでも、手で拾って食べるような子は、私たちの子どものころは、弁当くらいで中毒しないといわれた。


帯津 ええ、ほんとに、そう。

極端な清潔環境に身を置けば、病原菌などから身を守るシステムが働きにくくなる、という主張自体はそれなりにもっともな話でしょう。でもね、敢えて危険に手を突っ込むのとは別の話ですよね。あと、論じている話題は公衆衛生的な話だから、個別の事例を引き合いに出しても根拠にも何にもなりませんよね。
では、こんな場合には何を見ればよいのでしょうか?衛生に関する統計などを参考に考えてみます。帯津氏らは食中毒がおこっても昔は何ともなく治っていたと述べておりますので、食中毒統計*3を調べてみました。


これを見ると一目瞭然ですが、五木氏と帯津氏の子ども時代(昭和10年から20年代かな?)と比べると食中毒による死者が激減している事がわかります。衛生状態が悪ければやはり食中毒により死亡するヒトは当然多いのでしょう。
これは余談なのですが、腐った饅頭については難しいところがあるかなー、と思います。どうやって腐っているか腐っていないかを判別するのか?一般のイメージでは臭いとか味とか見た目の変化があると腐っていると判断するのですが、この腐った状態は必ずしも食中毒とは結びつかないんです。食中毒をおこす微生物が繁殖していても、大抵は食品の見た目や臭いに影響を与えないんです。寧ろ、酸っぱい臭いが強くしていれば、乳酸発酵が優勢になっているので、食中毒菌が繁殖していないかも知れないのです。腐敗菌と謂われるヤツらが蔓延っていれば、その分食中毒菌には住みにくい環境になっている可能性があるからです。なので、お腹が痛くなって終わりと謂うのは腐った食べ物と食中毒菌の繁殖との関係の一面を現しているような気もするんですね。

ええと余談が炸裂スミマセン。さらに話は続きます。

p76より
五木 私は、高校の修学旅行で同級生に、「あ、歯ブラシ忘れた、貸してくれ」といったら、「えーっ、きったない。絶対貸せない」といわれて、「そんなこときって、君、子どものときに、チューインガムの貸しっこしてなかった?」といったら、「あ、それはやっていた」といってましたよ(笑)。
<中略>
そういう風にして、戦後は育ってきて、別に病気がうつったりしなかったのですから。

この五木のエピソードに対し、帯津氏笑ってすませているのですが、それで良いのでしょうか?
例えば口の中にはミュータンス菌が棲んでおりまして、この菌が虫歯の原因になると謂うのはよく知られた話だと思います。この虫歯の原因菌は生まれたばかりの子どもの口の中にはまだ存在しません。親が子どもに消化が良くなるようにと噛んで与える、食器を共有するなどして子どもの口に移行することが指摘されております。そういう風にして、戦後は育ってきて、虫歯がうつったりしてきたのですから。

さて、上記のエピソードについては個人の判断で他者を巻き込まないのであれば、やってもらって結構*4なのですが、話が個人から集団にうつれば事情は大きく違ってきます。

p73より
帯津 そうですね。いま、抗菌グッズといわれるものが出まわっていますが、私はおかしいと思うんですよね。O−157*5のテレビ報道のときも、防衛策として学校給食のおばさんがマスクをして、ビニールの手袋をはめて給食をつくっているのが映されたでしょう。


五木 そう、そう。


帯津 私は、ビニールの手袋はやり過ぎだと思うんですよね。料理するのに手袋をしてつくったら、旨いものができないでしょう。

これが病院を経営しているヒトの発言なのでしょうか・・・。集団調理などで手袋を着用して料理を作るのは、体に重大な影響を与える病原微生物を誤って混入させ、集団食中毒を起こさない為に必要不可欠な作業です。これは旨いものを提供する以前に守られなければならないものです。勿論、美味しいものを提供したい・・・でも、安全を優先した結果、必要があり行われているわけです。コレを怠った結果、抵抗力が落ちている患者が食中毒になり命を落とした場合が冗談でなく起こりうる話なのです。

【ねこの結論】
中には意味の無い抗菌があると思いますが、食品の衛生管理対策は公衆衛生的に非常に重要です。やり過ぎと揶揄するモノがいたとしても、その結果は食中毒で失われる命は格段に減らすことが出来たのです。


■Q20 便秘をすると、大腸ガンになりやすいか
−実は便秘は大腸ガンのリスクファクターでは無い?−

p95より
五木 便秘というと、反射的に大腸ガンと結びつけてしまいますが、最近、衝撃的な記事が新聞に載りました。大腸ガンと便秘との因果関係はなかったという発表が、厚生労働省の研究班からだされたんです。
 六万人を対象にした、疫学調査の結果ということですが、これには驚きました。
<中略>
私はなにか、狐につままれたような気持ちなんですよ。


帯津 便秘と大腸ガンの関連性を求めた研究論文が、どのくらいあるか知りませんが、便秘の人がガンになりやすいというのは、定説にはなっておりませんね。


五木 ああ、そうですか。定説ではなかったんですか。


帯津 ただ、発ガン物質をふくんだ大便が、長く大腸のなかにとどまっていれば、大腸ガンになるリスクが高まることは、容易に想像できますよね。

ええっ!!、疫学データを印象で否定してしまうの?p64で疫学で見ることの重要性を述べていませんでしたか?同じ理屈だと、食物の中にはガンを抑制される事が示唆される物質が含まれているから長く大腸のなかにとどまっていれば、ガンのリスクを低減させる事も想像できますよね?疫学調査のなんたるかを理解(おそらく)していて、その結論はいただけません。

【ねこの結論】
分からないんだったら、便秘すると苦しいから、QOLの向上のために便秘予防しましょうね。その程度で良いにゃん?ダメ?


■Q24 インフルエンザの予防注射は、ほんとうに必要か

p113より
帯津 私は、お年寄りの方は、やったほうがいいといっているんです。


五木 お年寄りは、やったほうがいい。


帯津 ええ。若い人はやらない。
 何歳からという年齢で切るのではなく、その人の、生来の強さというのがあるのなら、若い人はやっぱり、いろんな免疫力を高めていかないといけないから、ある程度、ウイルスとか、毒性のものにさらされたほうが、いいと思います。

病気の体験が人を強くするとでも考えているのかしら・・・。いやさ、予防接種の意義はさ体の弱い人やなんらかの理由で予防接種が出来ない人の為に流行を防ぐと謂った意味もあると思うんですよ。医師が公衆衛生の意義を否定しちゃダメでしょ。やっぱりこの方は公衆という視点よりも個人を見る人なんだよね。

【ねこの結論】
公衆衛生的視点を持って、健康なヒトも受けるようにしましょう。でも、予防接種を受けたことで過信しないで、手洗いなどの対策もキッチリ行いましょうね。


■Q29 O−リングテスト診断は有効か
−体は極めて敏感なセンサーなの?O−リングテストについて−

p131より
帯津 ほんとうのところをいいますと、私も三十年くらい前に、O−リングテストを考えたアメリカ在住の医師・大村恵昭さんが日本に来て講演会をやったとき、何回か出たんです。やってみたんですけど、結局は良くないなと思った。良くないなという理由の一つは、こっちの意念がはいっちゃうんですよ。自分がこうだと思うところに、合わせたくなっちゃうんです。指を開けるのがね。
 たとえば、この食べ物は嫌いだなと思うと、無意識のうちに指を開いてしまうんです。私が未熟といえばそれまでなのでしょうが。

表面上は自分の問題にしながらも色々とにじませている感じの文章で上手いなぁと思いました。で、帯津氏の結論は以下の通りです。

p133より
【医者の結論】
O-リングにかぎらず、ひとつの診断、療法を盲信するのは危険。いろいろな方法、あるいは自分の直観(感)をいかして、納得することが大切。

【ねこの結論】
なんでもかんでも手を出すのもどうかと思うし、直観を頼るのはさらに危ういよね。O−リングテストに見た帯津氏の謂う『こっちの意念』こそ自分の直観の正体である可能性が高いと思います。直観よりも治療ガイドラインに沿った診断を希望します。


■Q30 プラシーボ効果は、本当にあるか
−薬効成分は入っていない筈なのに苦痛が改善した?不思議なプラシーボ効果について−

p134
五木 プラシーボ効果、というのがありますね。単なる粉でも、なにかの特効薬だとか、開発されたばかりの新薬だといって患者さんに飲ませると、ときには絶大なる効果をもたらすという……。こういうことは、まったく意味がないんでしょうか。


帯津 そんなことはありません。プラシーボ(Placebo)については、きちんと認識しておかなければならないと思います。大事な効果で、昔は偽薬なんていって、ネガティブに考えていましたけれど、ほんとうは医療にとって、いちばん大事なはたらきなんですよね。
 プラシーボ効果というのは、患者さんと医療者との信頼関係の上に、出てくるものなのです。

この問答での帯津氏は鷹揚に構えていた今までとはうって変わり、身を乗り出して、これは譲らないぞという気構えが文面から伝わってくるようです。

p134-135より
帯津 信頼関係がないところには、出てこないわけですね。いかに、信頼関係が大事か。それから、プラシーボ効果の大きさは、元の薬の、ほんとうの効果に比例するというんですね。


五木 それは意外ですね。


帯津 効く薬のほうが、プラシーボ効果も大きくなる。歯磨き粉でプラシーボなんていっているのはダメなので、ビタミンCで痛み止めとか、元来あったんですけれど、それはまったくナンセンスなんです。やっぱり、効き目のあるものの上に、信頼関係がはいって、育つわけです。
<中略>
帯津 ええ。出すほうも「効きますよ」と、薬を信頼していないと。それで患者さんに対する信頼感があって、患者さんも、ああ、大好きな先生が出してくれるこの薬は効きそうだ、これで成り立つわけです。どれが掛けてもダメなんですね。

なんと、元の薬の本当の効果が大事だと謂う・・・この事はしっかりメモをしておくことにしましょう。
さらに帯津氏は熱く続けます。

p136
五木 なるほど。だけれども一般に西洋医学の医師たちは、プラシーボというものを、親の敵みたいに毛嫌いしますよね。やはり、エビデンスがないというか、生化学的なメカニズムが立証されていないという視点から、プラシーボ効果を認めないんでしょうか。


帯津 それは、アンドルー・ワイルもいっているように、実際に治った、よくなったという患者さんの声を信じないんでしょうね。この薬には、科学的根拠がないから効くわけがない、と頭から決めつけてしまい、アンドルー・ワイルの言葉をかりると、「素人の治療体験記をクズかごに捨てて」いるんですね。

一般の医師はプラシーボ効果を親の敵みたいに毛嫌いする?それ、何の藁人形でしょうか?プラシーボ効果の存在を認め、それが無視できない程の影響を持つことを理解しているからこそ、薬の治験には偽薬を用いる工程が加えられているはずなんです。帯津氏は本文中でも疫学への言及があり、知らないはずは無いのですが、五木氏の発言に対し肯定的に返事をしております。そうして出てきたのが素人の治療体験記をクズカゴにと謂う台詞です。コレも読者に意図的に誤解を与えようとしていると受け取られても仕方のない表現です。
疫学的研究では個人の体験談は根拠として採用されるモノではありませんが、実際の治療の現場では患者個々人のエピソードは大切に扱われている場合が多いと思うからです。病院内での患者に対する配慮や薬の投与法などの工夫は患者の声から拾い上げて出来たモノが多いと思います。ましてやナラティブベーストメディシン*6はEBMと矛盾するモノではありません。西洋医学*7の医師は患者の声を拾わない、そんな印象をこの記事から受けても不思議はないと思います。

【ねこの結論】
プラシーボ効果は現代医療でもその存在は認められているけど、自由自在に使えるような便利なモノではありません。また、薬効の認められる普通の薬にもプラシーボ効果は発生します。


【次回に続く】


この先は帯津氏の専門である『ガン』やチカラを入れているホメオパシーへの言及が随所に見られます。5月中にアップできればなぁ、と思っていますのでどうか見捨てないでくださいね。

*1:もう一つ、これは余談なんだけど、草地を歩いているとムシをなどの動物が結構住んでいるのに気がつきますよね。アレを完全により分けて草を食べるのって難しいと思いますね。

*2:安保徹氏とか新谷弘実氏とか・・・

*3:昭和13年までは内務省、以後厚生省→厚生労働省の調査。昭和22年より医師による届出が義務づけられるなど、集計されるまでの条件が違うことについては注視する必要があります。

*4:でもないか・・・びみょ〜

*5:原文ママ

*6:物語に基づいた医療とも。患者との対話を通じ、病気になった背景、どのように病気を捉えているのか、抱えている問題点などヒトとヒトの繋がりを重視する医療。EBMと対立するモノではない

*7:この言葉の使われ方にも対立を煽るようなニュアンスが含まれていてどらねこは嫌いである。参考→http://d.hatena.ne.jp/doramao/20090910/1252588990