若き天才CMディレクターの肖像


8月28日の「テレビCMの日」を記念して、あるCMディレクターの生涯を描いたドラマが藤木直人を主演に放送されるという。
そのCMディレクターとは、現代の日本のCMを“つくった”一人といっても過言ではない杉山登志である。現在第一線で活躍しているCMクリエイターのほとんどが、彼に影響を受けたと口をそろえる。
彼の代表作は、ファッションベイル、チェリーピンク、ビューティケイク、前田美波里に始まるサンオイル、団次郎から草刈正雄へと渡るMG5、秋川リサの資生堂石鹸、そして、カンヌCM映画祭で銅賞を受賞した、図書館で少年が美しい年上の女と出会うシフォネットなど、挙げていけばキリがない。

ディテールをゆるがせなにしない緊張感のある映像美と、品のいいユーモアが、その世界には同居している。広告はものを売るための道具であるだけでなく、それ自体が一つの独立した表現として観賞に耐えるものであることを、彼の送り出すCMは私たちに印象づけた。と同時に、匿名性に依っていたCM製作者の中で、その作品を通じて、自ずと作者の存在を意識させた広告クリエイターのはしりでもあった。カンヌCM映画祭での日本人受賞第一号でもある。
                           (「広告批評 No.229」より)

しかし彼は、その最盛期に37歳の若さで、突然この世を去った。
自殺だった。
当代一の売れっ子CMディレクターの死は、それだけでもスキャンダラスだが、自室に残された一枚の遺書がさらに彼の死を衝撃的なものにした。

リッチでないのにリッチな世界などわかりません。
ハッピーでないのにハッピーな世界などえがけません。
夢がないのに、夢をうることなどは……とても。
嘘をついてもばれるものです。

“ウソ”を“ウソ”とバラしてしまうテレビというメディアの本質を熟知していたはずの彼が、一体何故、自ら死を選んだのだろうか?


「ファインダーから覗いた散歩道など」によると、彼のCMの出演者の一人秋川リサは彼の死にこんな言葉を寄せている。

彼は確かに天才だったのでしょう。彼のまわりの人たちもそう思っていたし、そう扱ってきました。
でも、そんな中で、「なにが天才よっ」と言ってくれる人が必要だったのかもしれません。
「なにが天才よっ」
それで彼が生き返るなら、百万回でも言いたい。そんな気持ちです。