子供からおみやげを買わないという教育支援

ラオスは ASEAN のメンバーではあるものの、いまだアジアで最も貧しい国のひとつです。

このため日本や中国、そして国際機関から NPO まで様々な人や組織が支援を行っています。

今日はそれらのうち、「商品企画&デザインの支援」と「観光客にもできる教育支援」のふたつについて書いておきます。



<メコン河を望むレストランにて>


ラオスの名産品のひとつが、少数民族を含むラオスの人達が昔から手作りしてきた伝統的な織物です。

シルクが多いですがコットンもあります。民族により織機で複雑な模様を作る場合と、刺繍して作る場合があります。


もともと自分達の祭りや風習、日常生活のために作っていた布なので、昔はそれらが商品として、広く販売されたりはしていませんでした。

しかしある時点で先進国の人達がそのすばらしさに気づき、ラオスで買ってきた布を自国で売り始めます。

しかし、そこにはふたつの問題がありました。


ひとつが、商取引に疎い少数民族が(事実上、騙され)あまりに低い報酬で商品を売り渡してしまうこと。

もうひとつが、伝統的なデザインでは必ずしも先進国顧客のニーズに合わず、市場が限定的で産業として成りたたない、ということです。


前者の問題はあきらかですが、後者も重要です。

たとえばこちらは伝統的な模様の商品↓


すばらしいと思いますが、日本で日常的に使えるかといえば“ちょっと違う感”が漂いますよね。

しかも布全体にこれだけ細かい文様を作るにはベテラン女性でも数ヶ月から半年が必要で、

その作業に適正な価格を支払った上で先進国に持ってきて売ろうとすると、商品価格が数万円にもなってしまいます。

それが下記のようなモダンでかわいい柄になると、
↓


日本や欧州でもスカーフなどとして日常的に使いやすくなる上、伝統柄と比べて柄部分の面積が少なく単純。

だから制作期間も短く、お土産品としてまとめ買いしてもらえる価格で売れるようになる。

結果として市場規模がどーんと拡大し、多くのラオス女性がこの仕事で現金収入を得られるようになるんです。


それにしてもこの新柄とか「なんとなく日本的」って思いません?
↓


そうなんです。

実は日本の着物生地のデザイナーなどがラオスまで指導に訪れ、「こういう柄なら作りやすく、日本人に売れやすいですよ」って教えてるんです。


同じような支援(マーケティング支援、商品開発支援)は、欧州からもたくさん入っていて、たとえば私が今回ラオスで買ったこのネックレス。
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丸玉部分の技法はラオスに古くから伝わるものですが、デザインや企画にはヨーロッパの NPO が関わってます。

このため値段も 12ドル(1500円)とふつーに先進国値段ですが、おかげで日本に戻ってからでも十分に使える商品となっています。

こういった「伝統技術+モダンデザイン」での商品開発は、日本では最近、金沢で急増しており、このネックレスなんかもその一例です。
↓


金箔・金細工や螺鈿は金沢伝統の工芸技術ですが、今時それで重箱やお椀を作っても、誰も買ってくれません。

でも、こういうアクセサリーにしたらぐっと売れやすくなる。

金沢では民間コラボで行われている「伝統技術+モダンデザイン」の試みが、ラオスでは先進国が支援として行い、伝統技術をもつ少数民族の女性達の「稼ぐ力」創出に貢献しているのです。



<こちらは自然の草花を使った紙作り>


このように最近は「寄付や援助」ではなく、現地の人に稼ぐ力を付けてもらうという経済支援が増えているのですが、

その中でもうひとつ、今回、話を聞いて「ほんとそうだな」と思った支援について書いておきます。

それはガイドの T さんから聞いたこの話。


Tさん 「観光地や少数民族の村に行くと、おみやげを売る子供たちが寄ってきます。でも子供からは、お土産を買わないでください」

ちきりん 「なんで?」

Tさん 「親が子供を学校にやらなくなるからです」

ちきりん 「??」

Tさん 「大人達は、大人が売ってたら買わない商品でも、子供が売りにいけば外国からの観光客は簡単に買ってくれると知っています。

だから土産物を売る行商に、わざわざ子供を連れて行くんです」



<梳いた紙を乾かしてるところ>


「ラオスの義務教育は無料ですが、それでも文具や活動代など最低でも年間 20 ドルはかかります。

つまり子供が 3 人いると 60 ドルかかるってことです。

でも、土産物を売りに連れていけば、子供一人が一日一ドル売るだけで、年間で 900 ドル以上の売り上げになります。

ブローカーがいるので全額手に入るわけじゃないけど、 3 割もらえるだけで 270ドルもの稼ぎです」

ちきりん 「学校に行かせるのと比べると、年間差し引き 300 ドルもの違いになるんですね!」


Tさん 「すると親はこう考えるんです。

政府は子供を学校にやれとうるさいけど、文字なんて読めても稼げない。

土産物の売り方を学んだほうが、よほど我が子の将来のためになる、と。

そして子供を学校にやるのを止め、毎日働かせるようになるんです」

ちきりん 「親もそのほうが子供のためになると信じてるんだね」

Tさん 「親は自分自身も学校に行った経験がないし、世の中の動きについても知識が無いため、教育の意義が理解できないのです」



<手作りの紙からできたグリーティングカード いい味わいです>


Tさん 「文字も読めないまま大人になってしまうのは、本人にも親にも、そして国にも大きな損失であり不幸です。

夜市でも、子供がかわいいからこの店で買う、という素振りを見せないでください。

そういう客が多いと、隣で店を開いている人が「次からは自分も子供を連れてこよう」と考えてしまいます。


ラオス政府も、子供からお土産を買わないよう呼びかけています。

ラオスでは人口の 15%が文字を読めないと言われていますが、実際にはもっと多い。基礎教育の普及は国家の最優先政策なんです。


政府がクチをすっぱくして「子供を学校に!」と言っているので、1週間、子供からお土産が売れなければ、親は「これでは将来が心配だ。やっぱり学校に行かせたほうがいいかもしれない」と考え始めます。

なのに一日にたったひとりの観光客が子供からお土産を買い、一緒に写真をとって 1ドルを渡してしまうことで、その子が教育を受けるチャンスは消えてしまうんです」


Tさん 「物乞いも同じです。

一日中 路上をウロウロして、手のひらを外国人に差し出してニッコリ笑い、一ドルもらうということが商売として成り立つのだと、子供達に教えないでください。

彼らが裸足なのは、サンダルが買えないからじゃありません。裸足のほうが儲かるから、ただそれだけです。

彼らは市場に野菜や魚を売りに来る親についてきて、親が働いている間、市場の周りで遊びのように物乞いをします。

サンダルは親の店で脱いでしまい、わざわざ裸足で出掛けるのです」


なんと・・・そんなことをしていたら、ケガや感染症のリスクだって高くなります。

そもそもそんなことしてる時間に、学校に行かなくちゃいけないのに。


ラオスだけの話ではありません。

私達は途上国で裸足の子供達がお土産物を売りにくると、大人が売ってたら買わないものでも、ついつい買って「あげたり」しそうになります。

「一緒に写真を撮ってもいいから 1ドルちょうだい」とねだる子供に応じてしまう観光客も少なくありません。

でもその行為が、子供の教育機会を(ひいては子供の将来の可能性を)奪ってしまう。


もし日本の街中でそんな子供が寄ってきても、私たちは彼らから安易にモノを買ったりはしませんよね? 
「子供にこんなことをさせて・・・いったい親はどこにいるんだ?」と憤慨するでしょ?
だったら世界の子供たちにも同じように接することが、大人の義務ではないでしょうか?


子供からお土産を買わないという教育支援

モノは大人から“日本でも使えるもの”を買うという経済支援
(これにより彼らは売上げから利益を得られるだけでなく、「こういうデザインが売れやすいのね」と気付くことができます)


旅行中から、「この話だけは必ずブログに書かなくちゃ。多くの人に伝えなくちゃ」と思っていました。
みなさまもぜひ、周りの方にお伝えください。



そんじゃーね

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※ 2016年の慶應義塾大学の入試問題がこちらの書籍より出題されました。子供に国際感覚を身に付けさせるにも最適な一冊です。
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