自分以外は、みんな金で動いてるに違いない史観

先日、「自分以外はみんな恵まれているに違いない史観」 に触れましたが、今日は、「自分以外は、みんな金で動いてるに違いない史観」のご紹介です。


私が最初の本である『ゆるく考えよう』に堀江貴文さんの推薦文(帯)を頂いた時、「幾ら払えば、堀江さんに帯を書いてもらえるんですか?」と聞いてきた人がいて、びっくりしました。

(ちきりんの初著。キンドル版なら 598円です!)

普通に考えて、「10万円なら推薦するけど、3万円なら推薦しない」みたいな意思決定を、堀江さんみたいな人がすると思います??


帯の推薦を頼まれるような人は皆、自分の名前に“クレジット=信用”があるんです。その名前の信用で、稼ぐことのできるレベルの人なんです。

あなたがもし、そういう立場にいたら、それを「お金で売る」みたいなことをしますか?

「幾らで書いてもらえるのか?」と聞いてきた人は、「自分ならこの額以上を払って貰えば推薦するけど、それ以下ならやらない。堀江さんの場合はいくらなのか?」と考えているのでしょうか?


それとも、「オレは金でそんな判断はしないけど、堀江さんは金で判断する人だ」と思っているのでしょうか? だとしたら、それはまさに「自分以外は、みんな金で動いてるに違いない史観」です。

一方、もし「自分ならお金を貰えば推薦するけど、タダならしない。だから堀江さんも同じはずだ」と思っているなら、単に世界が狭いだけです。世の中には、お金より信用が大事な人もたくさんいることを、理解したほうがいい。


本の推薦を貰ったら、謝礼としてお金が支払われる場合はあります。でも、謝礼の有無や額によって、その意思決定をしてる人など、私にはいるとは思えません。

もちろん、私自身もそんな判断はしません。当たり前のことです。その当たり前のことがわからなくなるのが、「自分以外は、みんな金で動いてるに違いない史観」の怖いところです。


★★★


外資系の金融業界という、給与の高い業界で働いていると、「お金のために働いているんでしょ」と言われることが多々あります。

給与水準が低い霞が関やメーカーから転職してきた場合は特に、元の職場の同僚から「お金に目がくらんで転職した」みたいに言われます。

そういうこと言う人って、「自分はお金で仕事を選んだりしない。でも、あいつは金に惑わされたから転職した」と思っているのでしょうか? それってモロに「自分以外は、みんな金で動いてるに違いない史観」です。


それとも「自分はもちろん仕事を金で選んでいる。だから、アイツも金のために転職したのだ。自分が転職していないのは、高給な業界や企業から誘われないからであって、自分だって誘われたなら、金で職場を決めるに決まってる!」と思ってるの?

だとしたら世界が狭すぎます。世の中には、お金で仕事を選んだりしない人も、たくさんいるんです。


私の場合、報酬額で仕事を選ぶことは非常に少ないです。転職をするとなれば、さらに大きな決断です。人生がかかってます。それを決める理由が「お金」だなんて人が、多いはずがありません。

だから誰かが高給な仕事に転職しても、「お金のための就職先選びだろう」とは思いません。自分がしないことは、他人もしないと思うからです。


当然に、本田圭佑選手が ACミランを選んだことについて、高額な報酬が決め手だったとは思わないし、田中将大投手が大リーグを目指すのも、楽天ではもらえない年収を得るためだとは思いません。

そして、スポーツ選手は金では動かないが、ビジネスパーソンは金で動いている、とも思いません。繰り返しますが、そんなことで仕事や勤め先企業を選ぶ人は、分野に関わらず、ほとんどいないんです。


そういえばソニーやシャープからサムソンに転職した技術者についても、「金のために国を売った」みたいに言う人がいますが、マジですか? 彼らが金のために転職したなんて、私には到底、思えないです。

先ほどと同じです。自分がしないことは、他の人もしないと思うからです。たとえ給与やボーナスがカットされても、そこに「技術者としてやりがいのある仕事」があったなら、彼らは転職なんてしないでしょう。


★★★


芸能人が、自分が使ってもいない商品をブログで勧めて報酬を貰ったり、詐欺まがいのビジネスを紹介してお金をもらっていた事件がありました。

あの時も多くの人が「金のためにファンを騙した」と言っていました。


でも、私にはそうとも思えません。もし私がタレントだったら、一番大事なのはファンが増えることであり、自分のタレントとしての価値が上がることです。

その結果としてギャラが上がり、お金がもうかるのは嬉しいけど、それを毀損してまで金儲けに走る意味はありません。

だって、なんのためにわざわざタレントになったのよ? お金のためではなく、タレントとして成功したい、多くのファンを抱えて、人気を得たいからでしょ?


だから、彼らがお金のためにああいうことをしたとは私は思っていません。自分ならしないことは、他の人もやっていないと思います。

自分はやらないけど、他の人は「金のためにはなんでもやるだろう」と思うのは、「自分以外はみんな・・・史観」に汚染されすぎです。


じゃあ、なんであんなことにって?


タレントっていうのは人気商売です。現時点で売れている人でも、みんな常に(いつ、人気が無くなるか、選んでもらえなくなるか)不安に思っています。

私がもしその立場にいたら、仕事をくれる可能性のある人には、どこまでも気を遣うと思います。頼まれごとがあれば、サインでも飲み会のお相手でもするでしょう。

そしてある時、そういう人から「この商品、ブログで紹介してくれない?」って言われたら?


もしくは、タレントとして頑張ってはいるのに、なかなかブレークできない状態が続いていたとしましょう。事務所からはそれなりの支援をしてもらってるのに、仕事が増えない。後から入ってきた後輩のほうが、先に売れ始めてる。

そんな状況になったら、申し訳ない気持ち、そして焦りや情けなさでいっぱいになりますよね。そんな時、「いいお金になるから、コレ、ブログで紹介してくれない?」と言われたら?

自分の食い扶持くらいは稼がなくちゃと思いませんか? 「本業で稼げない自分が、これを断るなんてできない」という気持ちになったりしませんか?

それって「お金のためにやっている」ってことだと思います? 


★★★


ブログにも、「あいつは金のためにあんなことをやっている」と書いている人がたくさんいます。

そういう人は、「自分なら、金のためなら何でもする」のでしょうか? それとも、「自分は金では動かないが、あいつは金で動いているはずだ」と思ってる?

もし後者だとしたら、さすがにちょっと傲慢すぎるでしょう。


もちろん世の中には、「金のために・・・」何かをやってる人もいます。ゼロではありません。そういう人もいます。でも大半の人は「あなたと同じように」考えてるはずなんです。

「自分以外は、みんな金で動いてるに違いない史観」にかからないよう、気を付けましょう。


「あいつは金で動いたに違いない!」「金のために、あんなことをしてるに違いない!」と思った時は、まず、「自分も同じように、金のためにああいうことをするだろうか?」と考えてみましょう。

そうやって自分のアタマでちょっとだけ考えるだけで、この恐ろしい史観にかからずに済むのですから。


そんじゃーね