連載03) 新人議員、大災害の衝撃!

<日本の地方と若者の政治参加を考える特別連作エントリ>
連載初回) 新宮市に行ってきた!  
連載02)   並河哲次 新宮市議 26才

今回より、並河哲次氏とのインタビューをトピック毎に再構成してお送りします。(並河氏の発言についてはご本人のご確認を頂いての掲載です。)


★★★

ちきりん「新宮市の市議になって1年ですが、どんな1年でしたか?」

並河氏「台風被害に尽きますね。2011年9月、超大型の台風12号が停滞して5日間くらい大量の雨が降り、河川氾濫、土砂崩れで、死者13名・行方不明者1名を含む大きな被害がでました。

市内はもちろん、全国からボランティアや物資、義援金など様々な形で助けていただきました。今も支援してくださっている方々も多く、心からお礼を言いたいと思います。

議員になって5ヶ月くらいで、まだ助走期間だったのですが、災害で一気に自分がやるべきことが見えたし、行政の機能や政治について学ぶ機会としても貴重でした。

ただ、災害時を含め、議員として自分がこの一年、何か具体的に成果を上げたのかと言われたら、ほとんど何もできなかったのかもしれないとも思います。」


水位に注目! ↓

写真:2011年、台風12号の被害 新宮市 本人提供


ちきりん「ものすごく大きな災害でしたよね。驚かれたでしょう?」

並河氏「災害はもちろんですが、立場上、それよりも行政の動き方に何度も衝撃を受けました。」

ちきりん「と言うと?」

並河氏「行政は混乱していて、避難判断水位や氾濫危険水位をとっくに過ぎてから遅れて避難指示を出したり、そもそも避難指示を出せなかったりしていたんです。

災害派遣で自衛隊が来てくれましたが、市役所はきちんと情報収集&統括ができていない様子で、来てくれた自衛隊の方の力を最大限引き出せているのか疑問でした。

実際自衛隊の隊員の方から、できることはたくさんある、もっと要請をしてほしいという話を聞きました。とてももどかしかったです。自衛隊が主導権をもって動いて欲しい、と何度も思いました。

市は、平常時には市の人達だけで仕事をしているので、他の組織と協力して何かを行うというのは苦手だったように思います。」


ちきりん「聞いていると、原発事故が起こった時の原子力保安院とか経産省、官邸でもそんな感じだったんじゃないかと思えます。他にも驚いたことが?」

並河氏「熊野川町では災害後の数週間、固定電話・携帯電話ともにつながらない集落がほとんどでした。NTT西日本やドコモが衛星電話を設置してくれましたが、横の連絡がないから同じ集落に複数の電話が設置され、一方で全然ない場所もある。

電話が通じないと常時やりとりができず、支援や復旧も遅れます。まず情報伝達が大事なのに、そこが考えられていなかったんです。

それで私が「あそこの集落にない、こっちはある」と騒いでいたら、「じゃあ、並河さん配ってください」ということで、手元に何台も衛星電話が集まってきたりしました。」

ちきりん「NTT西日本やドコモは市役所に問い合わせたのでは? でもまともな返事が返ってこなかったか、集落のリストだけもらって、居住者の多いところから順に配ったのかもしれませんね。」

並河氏「そうかもしれません」


ちきりん「他にもそういった混乱が?」

並河氏「社会福祉協議会は早くからボランティアセンターを立ち上げてボランティアを受け入れていました。熊野川町には宿泊施設として作られた建物がほとんどなく、ボランティアさんの多くはテントで生活していました。後に区長さんの協力で、ボランティアの方も区の集会所や廃校となった学校に宿泊できることになったのですが、これらは元はといえば市の建物です。

市が社会福祉協議会と情報共有しておけば、ボランティアの方はもちろん被災者のためにも、もっと早くこれらの建物を有効に使えた可能性もあります。他にも、市はなぜ他の組織ともっとうまく連携しないのか、というシーンがありました。」


写真:2011年、台風12号の被害 新宮市 本人提供


ちきりん「通常業務なら、各組織は分担通りの仕事だけをやればいい。でも緊急時には『市の仕事は市、他組織の仕事はその組織』ではなく、お互いが持っている資源を、市民のために総動員して使おうという機転が利く意思決定者が必要、そういうことですか?」

並河氏「そうです」


ちきりん「『緊急時におけるリーダーシップの圧倒的な欠如』ということでしょうか?

並河氏「そうだと思います」


ちきりん「原発事故と全く同じですね。この国の公務員って緊急時でも粛々と平常時のプロセスを続ける。その場の状況に合わせて柔軟に判断するとか、変えるとかはできない。変える時は“上からの命令”が必要な人達ばっかりですよね」

並河氏「日常業務も非常時対応もどちらのもできる人を雇うべきだと思います」


ちきりん「でも、そんな人いるんでしょうか? 新宮市だけじゃなく、超優秀な人がいるはずの東電にも経産省にもいない、もちろん民主党にもそんな人はいない、とわかったのが311だったんじゃないでしょうか?

私としては、公務員は平常のオペレーションが得意な人ばかりの集団でいいと思ってるんです。代わりに、広域で自衛隊的な「緊急時対応のプロ組織」を作るほうがいいのかなと。

だって緊急対応なんて勉強しても学べません。経験して初めて知見が身につくんです。各市が緊急対応の担当者を雇っても、大災害は100年に一度しか来ません。大災害の経験が積めないと、どんな優秀な人でも対応が学べないでしょ。でも、広域で備えていれば、毎年日本のどこかで災害が起こるからノウハウも蓄積されるのではないかと思います。」


並河氏「自衛隊はまさにそういう災害時、緊急時のノウハウを持っているのに、ルール上市長など行政のリーダーシップの下に動かなければならない。ところが、緊急時に行政のリーダーシップが機能しないと有効に動けないんです。」

ちきりん「それもまさに、原発事故後の政府の対応と同じですね・・。スタッフレベルの人はともかく、リーダーはきちんとした人がやってないと、イザという時に国が滅びますね。

この国の「緊急時リーダーシップの欠如」は本当に深刻な問題で、私は最近、日本が滅びるとしたら、財政破綻じゃなくて、こっちの理由なんじゃないかなという気さえします」

★★★

おっと、インタビューなのに、私がしゃべりすぎですね!
それにしても、聞けば聞くほど、「緊急時におけるリーダーシップの欠如問題」は原発事故対応のドタバタと重なる部分が多いと感じました。

次回はこういった点について、並河さんがどう改善すべきと考えているのか、伺っていきたいと思います。

そんじゃーね! (続く)