食料自給率100%の世界

<アメリカにて>

オバマ氏「ヒラリー、何を読んでるんだい?」
ヒラリー氏「日本のミンシュトウの資料よ。もうすぐ政権をとりそうな党なの」


オ氏「そうか。ヒラリーはいつも勉強熱心だね。で、なにか大事なことが書いてあるかい?」
ヒ氏「それがね、“食料自給率100%を目指す”って書いてあるの。」


オ氏「えっ? それって食料の輸入禁止”を目指すってことかい?」

ヒ氏「そおねえ、日本には輸出競争力のある農産物なんてないから、自給率100%を目指すってことは輸入ゼロを目指すってことよね。

でも今時“食料禁輸”なんて本気かしら?それとも印刷ミス?」


オ氏「うーん、普通に考えれば印刷ミスだと思うけど、あの国は時々意味不明なことをするからなあ。」

ヒ氏「日本が本気で食料禁輸を目指したら、農業大国の米国としては対策が必要ね。」


オ氏「そうだね。牛肉の輸入を再開させるのも大変だったのに、食料全部とは大変だ。我が国としてはどうすればいい?」

ヒ氏「そうね、じゃあ“うちはハイブリッドカー自給率100%を目指す!”と主張するのはどうかしら?“エコカー自給率100%でもいいわ」


オ氏「おお、それはいい案だ。国有会社GMの再建にもすごく役に立つし!」

ヒ氏「でしょ! じゃあもし日本が“食料自給率100%”なんて言うなら、米国もエコカー自給率100%を目指しましょう!」



<中国にて>

胡錦涛主席「温家宝君、ニーハオ、熱心に何を読んでるんだい?」
温家宝首相「主席、日本の民主党の資料を読んでるんですよ。」


主席「おお、そうか。いつも勉強熱心だね。で、なにか大事なことが書いてあるかい?」
首相「それが・・・“食料自給率100%を目指す”って書いてあるんですよ」


主席「えっ? それは“食料の輸入禁止”をめざすってことか?」

首相「日本には輸出競争力のある農産物はひとつもないですから、自給率100%を目指すってことは輸入を極力減らすってことですよねえ。

しかし今時、食料禁輸なんて本気でしょうか?それとも印刷ミスでしょうか。」


主席「うーん、普通に考えれば印刷ミスだと思うけど、あの国は時々意味不明なことをするからなあ。」

首相「日本が本気で食料禁輸を目指したら、日本へ野菜や冷凍食品、食料加工品にうなぎまで大量に輸出している我が国としては対策が必要になりますね。」


主席「そうだな。ぎょうざ事件がようやく下火になったのに。我が国としてはどうすべきかね?」

首相「では我が国としては、“薄型テレビ自給率100%”を打ち出すのはどうでしょう?

日本の薄型テレビの自給率は200%を超えてるんじゃないですかね。あの国は電気製品の自給率は全然計算しないくせに、食糧だけ自給率を計算して問題視するんですよ。あまりに身勝手です。

日本がこんなこと言いだすなら、我が国も“自国に国際競争力のない分野での自給率100%”を目標に掲げるのは問題ないと思います。」


主席「なるほど。薄型テレビは国内メーカーも育成したい分野だ。それに“自給率100%”という言い方は国民のナショナリズムにも訴えることができる。これはまた巧みな言い方だな。」

首相「そういう小ずるい言い方を編み出すのは日本の霞ヶ関のお家芸ですから。

では、日本が“食料自給率100%”を主張するなら、我が国は薄型テレビの自給率100%を主張しましょう。」



<フランスにて>(←農業大国)

サルコジ大統領「ボンジュール、フィヨン、何を読んでるんだい?」
フィヨン首相「ああ大統領、実はにっぽんのみんしゅとう・・ (以下略)



★★★


30年後の霞ヶ関

農水省A課長「次官、こちらにいらっしゃったのですね。」
農水省B次官「うむ。ちょっと胸がいっぱいになってな。」


A課長「そうですね。日本もすっかり変わりました。」
B次官「うむ。見てみろ、まるで原始時代のような風景にもどっただろう?」


A課長「はい。思えば30年前に民主党が自給率100%をうたって以来、東京にも自然が戻ってきましたよね。」

B次官「うむ。対抗策としてとられたアメリカの“エコカー自給率100%政策”で自動車会社が潰れ、中国の“薄型テレビ自給率100%”政策で電機メーカーが全部やられたからな。最後まで牛肉の輸入をやめようとしなかった吉野屋はじめ牛丼屋もみんな潰れてしまった。

おかげで今は都会でも田舎でも皆、ベランダや庭に野菜を作るようになったし、朝昼晩と米飯を食べるようになった。これこそ、我が国の有るべき姿なのだよ。」


A課長「その通りです。あれ以来、多くの国の政権が次々と“○○自給率100%”という政策を導入して鎖国政策が蔓延、世界貿易は一気に縮小しました。もちろん日本も何も輸出できなくなり、外貨がないから石油が入らなくなった・・」

B次官「トラクターも田植機も動かなくなって、年寄りに農業を任せておくことができなくなった。で、派遣社員やワープアが農業に戻ってきたというわけだ。」


A課長「はい。おかげで日本はすっかり農業国に戻りました。ほら、あっちの田んぼでも若者が田植えを。それから、向こうの畑では若者がキャベツを収穫しているようです。みんな安い給料できつい仕事なのによく頑張りますよね。」

B次官「うむ、第二次産業が壊滅してから若い奴らには他にできる仕事もないしな。若者が額に汗して一生懸命肉体労働をしているのを見ると、昔のようなすばらしい日本に戻った気がして感激するよ。」


A課長「それに第二次、第三次産業がなくなりましたから、官庁も減りましたし。」

B次官「うむ、経済産業省とか外務省とか“FTA, FTA”とうるさかった役所がなくなったのはまことに喜ばしい。なんせ、自動車会社も電機メーカーも潰れてなくなったのに、経済産業省だけあっても仕方ないしな。わはははは。」


A課長「はい。おかげで、農水省は今や日本で最も重要な官庁になりました。昨日も就職希望者が列をなしていました。」

B次官「うむ。今や日本をリードしているのは農水省とJAだからな。大学生の就職ランキング一位もJAとうちが争っているらしいぞ。ははは。」


A課長「感激ですね・・・」
B次官「うむ。私の目の黒いうちに日本を農業国に戻すのが、農水省の夢だったのだからな!」


A課長「次官!」
B次官「うむ。  うむ。  うむ。」(左手で課長の肩を叩きながら、自分もそっと感激の涙を拭う)



<完>




<食料自給率について書いた過去のエントリ>
・いいじゃん 食料自給率40%で http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20070810
・米の自給と安全保障論の欺瞞 http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20071015