E1384 – タイのミャンマー難民キャンプにおける図書館のいま

カレントアウェアネス-E

No.230 2013.01.24

 

 E1384

タイのミャンマー難民キャンプにおける図書館のいま

 

 昨年来,ミャンマーの民主化が加速し,国際的な関心を呼んでいる。日本政府も新年早々に麻生副総理兼財務相を派遣し,500億円規模の円借款再開を約束した。一方,諸外国からの華々しい援助や投資の傍ら,少数民族武装勢力との停戦合意と和平交渉という大きな課題を抱えている。現在も北部のカチン州では戦闘が続き,10万人規模の難民が避難生活を余儀なくされていることは日本でも報じられている。

 1948年,英国からの独立を契機にビルマ族とカレン族の間で民族闘争が起きた。当時の政府軍は自治権を主張したカレン民族同盟の拠点に軍事侵攻し,多くの民間人が人権侵害,財産没収などの犠牲となり,村を追われタイに逃れた。タイに初めて難民キャンプが設置されたのは1984年だが,世界的にはあまり知られていないため「忘れられた難民」とも言われる。現在でも 14万人が9か所の難民キャンプに滞留している。しかしタイ政府の方針により正式な登録難民は全体の6割であり,残り4割はタイ政府の審査もされず,非常に不安定な状態に置かれている。

 公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)は,まだこの国が軍事政権であった2000年当時から,一貫してタイのミャンマー難民キャンプにおける公共図書館の設置・運営を行っている。

 SVAが住民の基本的なニーズととらえたのは,情報,余暇,文化というキーワードであった。そこで7か所の難民キャンプの中に21館の図書館を設置し,運営している。電気も通じずテレビやラジオもない難民キャンプでは住民たちはニュースなどの情報に飢えており,たとえ遅れて届いた新聞・雑誌であってもたいへん喜ばれる。労働や教育にも限界がある中,大人,子どもの余暇時間を図書館で有意義に過ごせることも大きな魅力となっている。更に,カレンという少数民族の言語で民話や絵本を出版することも,祖国を知らない子どもたちへ伝統や文化を継承してもらいたいという大人たちの思いに合致していた。

 最近のミャンマー国内の民主化傾向は,難民キャンプに大きな影響を与えている。軍事政権下では不可能だった「本国帰還」が現実化しそうなのである。タイは自国に定住させる方針は取らないとしており,これまでは諸外国への「第三国定住政策」の門戸だけが開かれて来たが,受け入れ国の動向をみると今後は下火になっていく傾向がみられる。

 このようなシフトの中で,国際NGOの役割についても,難民キャンプにおける社会サービスの提供に留まらず,例えば,ミャンマーの多方面の地域開発現場で活躍する人材の育成,ミャンマー・タイ両国側の行政,難民キャンプの図書館委員会,NGOの関係者のネットワーキング,など発展的に思考することが求められている。

 これらを公共図書館の意義に重ねてみると,人材育成に関しては,図書館委員会や図書館員,あるいは熱心な利用者たちが,祖国に帰還した後でも地元の図書館活動の担い手になれるよう,研修活動や信頼醸成を進めていくことが重要になる。またキャンプ内の様々な教育訓練機関と公共図書館のリソースを有機的に結ぶことで,他分野の人材育成にも貢献できるはずだ。

 ネットワーキングに関しては,とりわけこれまで全く関われなかったミャンマー国内に対して,官民合わせたレンジの広い関係を構築していくべきだろう。SVAも昨年10月にミャンマーで第1回事業形成調査を実施,今年2月には第2回を実施する予定である。現在難民キャンプにいる図書館関係者が,将来ミャンマーに戻り,そこで待っていたSVAとまた一緒に図書館を始めることも決して夢ではない。かつて,カンボジア難民,ラオス難民の帰還を見守る一方で,それぞれの国に事業拠点を創ったSVAの歴史が示すように,「図書館は,国境をこえる」。

(シャンティ国際ボランティア会・鎌倉幸子)

Ref:
http://sva.or.jp/myanmar/
http://www.rhq.gr.jp/japanese/hotnews/data/pdf/65.pdf
http://reliefweb.int/map/thailand/thailand-refugee-and-idp-camp-populations-november-2012
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011185944-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000008072053-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I024059129-00

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