今回翻訳するのは、海外の人たちによる「となりのトトロ」のレビューです。
実は以前にも「となりのトトロ」のレビュー翻訳をしたことはあります。前回は米アマゾンのレビュー翻訳でしたが、今回翻訳したのはIMDb(The Internet Movie Database)に投稿されたレビューです。この記事をアップする7月13日はトトロ初のHD放送(午後9時の金曜ロードショー)ということで、記念にもう一度やってみました。
なお、記事後半には、昨年翻訳したアマゾンのレビューも載せておきます。すでにお読みになった方は飛ばしてくださいね。
※ なお、IMDbの採点は、満点が星10個となります。また、少々ネタバレを含んでますので、作品未見の方はご注意下さい。
↓では、レビュー翻訳をどうぞ。 翻訳元: IMDb
● 「最もチャーミングな映画」 スコットランド 評価:★★★★★★★★★★
この作品は宮崎監督自身が語っているように、小さな子供向けに作られたものです。私がこの作品を観たのは36歳の時でした。私はまるで魔法にかけられたように、この作品の虜になってしまいました。2度目は77歳の父と一緒に観たのですが、彼もまた虜になり、4歳の孫にも見せるべきだと力説しています。
私は、「となりのトトロ」よりスリリングな映画を観たこともありますし、もっと笑える作品を観たこともあります。でも、この作品ほど、私を純粋に喜ばせてくれた映画を観たことはありませんでした。観終えた後は、現実の世界がこの映画の世界ほど素敵な所でない事が、本当に残念に思えてきます。あなたも、少なくともメイやサツキくらいの年齢の時には、大人はみんな信頼できて、物事は最後に全てうまく行く世界であって欲しいと思ってましたよね?
メイと同じ年頃の子供がいますので、バケツの底の穴から何かを覗き見ることに夢中になったり、不機嫌になったりといった彼女の行動に関しては、本当にあんな感じである事を保証できますよ。リアリティ十分です。
私にとって一番感動的だったのは、猫バスの行き先が「メイ」に変わった瞬間でしたね。猫バスがメイの居場所を知っていることをサツキに分からせた上で、まっすぐメイの元に連れて行ってあげた、あのシーンです。
批判らしきものがあるとすれば、このDVDには「となりのトトロ」の伝説的な続編「めいとこねこバス」が収録されていないことでしょうか。
それと、私自身が猫バスに乗れないこともね。私は大の猫好きですし、ときおりバスにも乗ります。まさに猫バスに乗るために生まれてきたようなものなのに、猫バスが宮崎監督のイマジネーションの中にしか存在しないなんて!
● 「稀に見る傑作」 アメリカ 評価:★★★★★★★★★★
「となりのトトロ」を最初に観たのは、まだ子供の頃だった。その当時はこの作品を、他の商業作品と同列に捉えていたのだろう。特に興味を惹かれることもなかった。だが、目立たなくて微かなものではあるが、実は長年にわたって私に影響を与えていた作品だったのだ。
映画を観た後、時折この作品のことが頭に思い浮かんでくることがあったのだが、それが何故なのかは自分でも分からない。だが、大人になってから再び「となりのトトロ」を観た後、どうしてこの作品がずっと私の心に残り続けているか、その理由がハッキリと理解できた。「トトロ」は子供の気持ちの核になる部分を形あるものに変えた作品だったからだ。そして、そこに自分の意見を述べてやろうとしたり、道徳的な良し悪しを教えてやろうとしたり、うわべをよく見せようとしたりといった、大人の意図によるフィルターがまるで見当たらないのだ。
メイの振る舞いはありのままで、喜びも怒りも感じたままを表現する。彼女の動きは力強く、声は大きい。自分は制約なんてない世界に住んでいると思っているし、大人の世界の観念に縛られることもない。一方、サツキは無垢さを残した子供と成長した大人の岐路に立っている。おかげで、大人の観客にも彼女の感じる不安が理解できるし、彼女の目を通して、映画の世界と自らの住む世界を重ね合わせる事ができるのだ。
トトロは身体的特徴だけで判断すれば、異世界から現れた恐ろしげな存在にも思える。観客がトトロを見て感じる(少女の目を通した)最初の印象は、怖さと驚きの入り混じったものだ。異質なものに出くわした人間なら誰でも同じ反応を示すだろう。
しかし、ここで思いもよらないことが起こる。トトロの動きや振る舞いは、まるでメイとそっくりなのだ。ここで観客はトトロに親近感を抱き、トトロの感じる素朴な喜びを自分のものとして感じることができるようになる。
以上のことを、スタジオジブリはビジュアルだけで成し遂げてみせた。キャラクターデザインやアニメーションを駆使し、極めて稀で特別な偉業を達成したのだ。マーケティング担当者で構成された委員会の会議からは、けっしてこのような効果をもたらす脚本は生まれない。
典型的なアメリカのスタジオであれば、メインキャラクターが子供の観客を怖がらせてしまうリスクを考え、トトロをもっと可愛らしいキャラクターにするという安全策を選ぶはずだ。さらに、ドラマを盛り上げるために、お父さんを典型的な「理解のない大人」として描くことも間違いないだろう。
この作品を一番象徴している箇所は、かなり初期の段階で登場する。少女たちが家の腐った柱で遊ぶシーンだ。彼女らは最初、何も考えずに柱で遊んでいるのだが、どうやら柱を倒してしまいかねないことに気づく。しかし、結局倒れない。柱が倒れないのを確認すると、彼女らは別の遊びに移ってしまう。
この出来事が全体のトーンや、物語の世界がどんなものであるかを示してくれているのだ。つまり、日々の暮らしは何が起こるか予測できない。だから大人たちは現実に対処し、最悪の事態を防ぐ術を学ばなければならない。ただし、子供たちは、まだそうした術を学ぶ必要はない。
この映画の世界は、そんな子供たちの目を通して描かれているということだ。「となりのトトロ」は私たちがかつてそうだった物の見方で、かつて大事だったものを見せてくれる。長い間、意識の底に埋もれていたが、決して忘れてはいない遠い日の思いを見せてくれる作品なのだ。
子供たちには、底の浅い主流のエンターテイメントの代わりにこの作品を見せるべきだ。彼らがこれを気に入るかどうかは重要ではない。この作品の影響力は永遠に持続する。ひととき楽しめるだけのおもちゃより、よほど価値あるものなのだ。そして、大人たちは自分がかつてどうだったか、今はどうなのか、これからどうなりたいのか、自分の姿を見つめなおすためにこの作品を観るべきだと思う。説教臭さは微塵もない。ストーリーもシンプルだ。
少し立ち止まって、あなた自身やあなたが大切に思う人のために時間を割けるようになったら、その時は、どうかこの作品を楽しみながら鑑賞して頂きたい。
● 「Go トトロ! Go ハヤオ!」 アメリカ 評価:なし
この作品は1歳4ヶ月になる私の息子が大好きな映画です。もちろん、私もね! 息子は絶えずこの映画を観たいとせがんできます。なので1日に1~2回観せていますが、暴力シーンの全くない映画ですから、問題無いと思ってます。
おかげで、私もかれこれ100回は観たことになるでしょうね。でも、まだまだ楽しんで観ていますよ。鑑賞するたびに新たなディテールに気付かされたりしますから。目まぐるしく変わっていく子供の気持ち、こちらの予期せぬ物の感じ方、そして秘密の世界への探検などを、丁寧に子供への敬意を込めて描いてくれています。
息子が「となりのトトロ」を好きなのは、彼が今後どんなふうに成長していったらいいかを、この作品が教えてくれるからなのかもしれませんね。息子はこの作品の音楽、木々、メイ、お父さん、猫バス、そして中でもトトロが大好きです。(もっとも、最初はトトロのシーンを一番怖がっていたんですけどね。)
あらゆる人達に、この映画を強くお薦めさせてもらいます。ただし、思春期の人たちは別ですね。彼らにとってはキャラクターが「いい子」過ぎて退屈に感じるかもしれませんから。
● 「繊細かつ美しい作品」 アメリカ 評価:★★★★★★★★★★
これは私が知る限り、最も美しく、最も丹念に作られた作品だ。 作品の大半は、ユーモラスな森の精と子供たち、日本の田園風景、幸福な家族など、可愛らしく心温まる要素で占められている。しかし同時に、母親の病気のような、ディズニーがでっち上げた悪役キャラクターなどより、子供にとってはるかに恐ろしく現実感を伴う要素も含まれている。
メインキャラクターは本当に存在していそうな2人の子供だ。そして、観客は彼女たちの目を通して映画の世界を見ることになる。それはイマジネーション溢れる不思議な自然の世界だ。ただ、それだけではなく、世の中には死というものも存在し、幸せは儚いものだということも感じさせられるようになっている。
誤解しないで頂きたいのだが、これは非常にハッピーな気持ちになる作品だ。私が言いたいのはこういうことだ。これだけファンタジー要素が満載されている作品でありながら、ここで表現されている喜びが現実のもののように感じられるのは、やはり、それ以外の要素がしっかり描かれているからこそなのだ、と。
そして、もう一つ言わせてほしい。これほど子供が喜びそうな作品でありながら、芸術性に関しては、これほど妥協を許さない作品はお目にかかった事がない、と。
注意:英語吹き替え版は観ないようにした方がいい。英語音声の子供たちは泣き言を繰り返すばかりの、典型的なハリウッド映画の子供だ。日本語音声の子供たちは知性や深みを表現しており、非常に素晴らしかったのだが、こうした部分が英語版では失われてしまっている。
一般的には、字幕で観るより吹き替えの方が好ましいと思う。映画のビジュアルに集中できるからだ。ただ、この作品に関しては当てはまらない。
● 「全ての人にお薦めできる美しい作品」 ニュージーランド 評価:★★★★★★★★★
最近開催された映画祭で、6歳になる息子と一緒に「となりのトトロ」を鑑賞しました。映画が半ばを過ぎたところで、息子が「この映画、最高だよ!」と満員の観客みなに聞こえるくらいの大声で叫んでしまったんです。おかげで、私は少々気恥ずかしい思いをさせられました。ただ、息子の主張に反対の人は、500人を超える観客の中にも殆どいなかっただろうとは思っています。
そのくらい素晴らしい作品で、アニメーションで表現できる芸術としては頂点に位置するものと考えて間違いありません。各シーンの背景は見事なまでに細部まで描き込まれており、キャラクターの動きは私たちが見慣れた本物の人間のようで、そこから全く境界線の存在を感じさせずにファンタジーの世界も描かれます。
美しいアートワークのみならず、音楽も全編を通じて映画をサポートし続けており、映画の中に取り込まれた別の楽しいエピソードを聞くような気持ちになれます。
私が観たのは見事に翻訳された英語の字幕版でした。幼い観客に字幕を読みながらの鑑賞は少し難しいかもしれませんが、それでも、きっと「となりのトトロ」が素晴らしい作品であることは分かってくれることでしょう。
● 「この作品を愛せない人は薄情な人」 カナダ 評価:★★★★★★★★★
「となりのトトロ」は、私が3番目に観た宮崎作品になります。まだ、一度もガッカリさせられたことはありません。ただ一つ後悔することがあるとすれば、この作品を子供の時に観られなかったことですね。千と千尋でも同じ事を感じました。丁寧に美しく作り上げられた映画です。
(ストーリー解説部分省略)
私としては、どうしてもウォルト・ディズニーと宮崎監督を比較してしまいます。実際、彼は日本のディズニーと評されることも多いのです。私はディズニーを観て育った人間ですが、その私から見ても、明らかにディズニー作品のほうが単純で、かつ人を見下ろすようなところがあるように思えます。
型にはまった筋や表現(例えば、大人たちは子供たちの空想を信じないといったようなこと)は、ほとんど見受けられません。子供たちは実在する子供たちより、さらにリアリティがあるのではないかと思えるほどです。彼女らはいつも楽しそうに笑ってはいますが、ときに面倒をかけます。
この映画は文化とも密接に関わっていて、東洋と西洋の文化の違いが垣間見えるのも興味深いところです。特に、自然や神話に対する態度の違いを面白く感じました。
喜びもあれば悲しい要素もあり、大人も子供も楽しめる素敵な作品です。多くの子供向け映画のように悪人が登場し、大人対子供という図式があり…というような典型的な筋書きは、ありがたいことに採用されていません。
減点ポイントは、少し緊張感に乏しい作品であることでしょう。希望の喪失や恐怖といった要素があまり見受けられず、むしろそれを避けて作られた映画です。
ただ、作品の殆どは驚くほど丁寧に描きこまれたアニメーションで占められ、それは呆然とするほどの美しさです。きっとあなたの心を捉えると思います。特に水彩で描かれた背景はたまらなく見事で、それだけでも素晴らしい映画になりうるほどのものでした。
● 「アニメーションの傑作 - 失われた子供時代の思いを呼び覚ましてくれる作品」 評価:★★★★★★★★★★
子供たちには、非常に大きな障害に自力で立ち向かわなければならないことがある。私自身は幸いにも、幼い頃に死や孤独といった、非常に辛い事には向き合わずに済んできた。だが、「となりのトトロ」を観終えた今、子供には困難に打ち勝つ力が備わっていること、そして私自身も、自分なりの困難な状況を克服するために、イマジネーションの力にずいぶん助けられたことを改めて実感できた。「となりのトトロ」とは、そんな作品だ。
ストーリーは2人の幼い姉妹が父親とともに田舎に引っ越してくるところから始まる。母親は病気で、姉妹は母の回復を待ち望んでいる。ただ、画面を見ている限り、決して憂鬱そうには見えない。
むしろ、私が観た中で最も気持ちを高揚させ、人生を肯定している映画といっていいくらいだ。なぜ、このような作品になったのか?それは宮崎駿というアニメーターが、子供の気持ちを深く理解しているからだ。
子供たちは、自分なりの世界を空想することで、自分ではどうにもならない感情に対処する。空想の世界に浸ることで、自分で処理できない感情を明るくポジティブに表現するものなのだ。
この作品に登場する二人の姉妹も、そんな風にして、母親が死んでしまうかもしれないという不安を乗り越えようとしている。自分たちの抱える問題を森で遭遇する穴に託して、森の動物たちが住む世界を空想で作り上げてしまうのだ。動物たちは遊び相手にもなってくれ、守護者にもなってくれる。そして、彼らの存在を信じる力が、動物たちを実在のものにしてしまうわけだ。
私は「となりのトトロ」のビデオを、新しい街に引っ越していく幼い甥と姪の兄弟にプレゼントした。もちろん、彼らはトトロに出てくるキャクターのようなトラウマを抱えているわけではなかったが、新しい家に引越して、慣れない周囲の環境に馴染んでいなかければならないという点では同じだ。
彼らは引越し先の生け垣付近に穴を見つけて、それをトトロの穴と名付けたそうだ。数週間後には、彼らは新しい友だちとなった近所の子供達全員にトトロの穴のことを教え、トトロの映画も一緒に観る関係になったらしい。トトロは新しい友達の間でも人気者になったとのことだ。
大人であれば、この映画を鑑賞して、心の奥底に沈んでいた昔の気持ちを思い出せるかもしれない。障害を克服するためにイマジネーションの力を活用できなくなってしまったことは悲しくもある。しかし、この映画が、長く埋もれていた昔の想いを引き出してくれるきっかけになるかもしれない。ディズニー作品では決して成し遂げられないことだ。
↓ここからは、米アマゾンレビューを翻訳した過去の記事と同じ内容になります。すでにお読みになった方は飛ばしてくださいね。なお、アマゾンレビューは星5つで満点になります。
● 「子供も親も魔法にかけられてしまう作品」 女性 (カリフォルニア州 コロナド) 評価:★★★★★
何年も前になりますが、私は交換留学生として日本に行き、そこでトトロを観て大好きになったんです。そんなわけで、2歳と4歳になる娘のためのDVDを探していた時、迷わずトトロを買いました。トトロは子供たちをとりこにしてしまう作品ですが、娘たちの横に座って観ている私と夫も、トトロには魔法にかけられてしまいます。普通の子供向け作品では、なかなか大人が楽しむ事はできないものですけどね。
娘たちは、まだ映画を観るには幼すぎて、ディズニーの映画を見せても、たいていは怖がってしまいます。ただ、トトロを見せた時は反応が違いました。娘たちは、メイがトトロの胸に乗るシーンと猫バスのシーンが大好きですし、トトロと姉妹がドングリの芽を出させようと頑張るシーンでは、娘たちも同じように2人並んで頑張っています。作中で、サツキとメイのお母さんがずっと入院している事を娘たちが悲しむかなと心配しましたけど、それは全然問題ありませんでした。
あと、子供達の親という立場から見ると、お姉さんのサツキがみんなのためにお弁当を作ってあげたり、バス停でメイをおんぶしたりと、妹やお父さんの面倒を見てあげているシーンは素晴らしいですね。映画を見終わると、上の娘は毎回、「サツキみたいになる」と言い出して家の手伝いをしてくれたり、妹の面倒をみたりしてくれます。あと、我が家ではプレゼント用としても、何度もこのDVDを買いました。
● 「宮崎監督におじぎしましょう」(カリフォルニア州 カーソン) 評価:★★★★★
個人的意見ですが、アニメーションのファンなら、宮崎監督には敬意を払わなければならないと思っています。アニメファンに限らず、映画や芸術の愛好家なら彼に敬意を表して当然でしょう。私も、過去に「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」を観て、畏敬の念に打たれたものでした。
この人物は天才で、今も精力的に作品を作り続けています。宮崎監督の描くイメージは、職人としての技と魂の深い部分が溶け合ったもので、際だって注目に値するものです。彼のファンとなった私は、彼の作品にのめり込んでいくうちに、過去の作品も鑑賞し始めたのですが、その最初の作品が、1988年に公開された、この「となりのトトロ」でした。言うまでもない事でしょうが、この作品も大いに楽しめるものでした。
もちろん、すでに多くの人々が「となりのトトロ」を傑作だと考えていますし、誰もそれに異論はないでしょう。より壮大なスケールを持つ、彼の他の作品に比べれば、親しみやすいスケールの作品ですし、同時に最高のファミリー映画になっています。家族間の関係を表現した映像作品としても素晴らしいものです。特に、2人の姉妹の間柄は微笑ましく、清々しい喜びをもたらしてくれるものです。 また、彼女たちの父親が不在でないのも良い点だと感じました。たいていのアメリカの家族映画では、父親が忙しくて家族と仲が良くなかったり、子供を疑いがちであったりするのですが、本作の父親がそうでないところは好ましく思えます。
妹のメイがトトロに出会った事を話した時も、お父さんは軽々しくはねつけたりはしません。ちゃんと話を聞いて説明してあげます。それも、上から見下ろすような話し方ではありません。姉妹が「まっくろくろすけ」に出会った時も同じです。カッコいいお父さんだと思わされますね。
これは、悪役も登場しなければ、暴力も出てこないという珍しい映画です。宮崎監督は超自然的な世界を、身震いさせるようなものではなく、楽しく微笑ましい、善意あふれるものとして表現しています。ただ、その代わりに、少女の感じる恐怖が描かれます。それは病気の母親がもう元気にならないんじゃないだろうか、死んでしまうんじゃないだろうかという、子供達にとっての本当の恐怖です。キャラクターが細部までこだわって作られているおかげで、映画を観ている私たちにとっても、彼女の恐怖は、私たち自身のものであるかのように感じらてくるのです。 ビジュアル的にも技術的にも、そして感情の表現においても、「となりのトトロ」は美しい作品です。ただ、宮崎監督が脚本を書き、監督し、自ら絵を描いた映画なのですから、驚くべき事ではないでしょう。この映画は物語の進行を急いだりしませんし、急展開もありません。しかし、心を奪われるような純粋さがあります。 ここでもう一度、宮崎監督の作品細部へのこだわりに敬意を表したいと思います。そのおかげで、多くの日本文化を学ぶ事ができますから。具体的に言えば、日本の農業が日々どのように営まれているか、あるいは農民たちの見せる環境への一体感などです。 この映画においても、これまでの作品と同様、宮崎監督は彼の産み出す創造物に、自然への感謝と敬意を表現させます。そして、自然は森の精であるトトロという形をもって、そのお返しをしてくれるというわけです。それに、トトロ自身の見せる喜びの表情にも注目すべきものがありますよ。午後のお昼寝もそうですし、傘に落ちる雨粒に大喜びする所などは私たちにも覚えがあるものですしね。 映画を見終わった後で一つ気になるのは、今後、サツキとメイはもうトトロに会えなくなってしまうんじゃないか?という事です。でも、スタジオジブリは「メイとこねこバス」(ジブリ美術館のみで公開)という13分の作品を作りました。少なくとも、メイは別世界の友人と再び会う事が出来たようです。私たちにも見せてもらえればいいんですけどね。 私にはうまく説明できないんですが、この映画で一番素晴らしいのは、人間性に対する宮崎監督の洞察力だと思います。この映画には魅力的な生き物が登場するか?と聞かれれば、答えはイエスです。魅力的なシーンもたくさんあります。でも、私が一番魅力を感じたのは、ケンカすることがあっても、結局はお互いを大切に思うサツキとメイ、彼女たち姉妹の関わり方でした。 サツキとメイは好きにならずにいられない素晴らしいキャラクターです。自分の事は何でも自分で出来て、心優しいサツキ。トウモロコシがお母さんの病気を治すと信じている、かわいい頑固者のメイ。温かくて風変わりで素敵な「となりのトトロ」を若い人たち、気持ちの若い人たち、そして、今、落ち込んでる最中の人にお勧めします。どうか観て下さい。私もすっかりトトロにとりつかれてしまっています。部屋には、ニヤリと笑った猫バスであふれてるんですから!
● 「20世紀中頃の真の日本文化」 (フロリダ) 評価:★★★★★
私はこのアニメを愛している。ディズニーから出る日本語収録版も心待ちにしていた。私は1960年代の前半、子供だった頃、日本に住んでいていたのだが、その時に見ていた日本の姿が、この映画の中にはたくさんあふれているのだ。親子が一緒に風呂に入るシーンについて心配していたレビュアーがいたが、私はこれを実際に経験した事がある。もちろん、なんの問題もない。祖父や祖母、時には両親とも風呂に入った。
それはただ、変に気取ったりしないというだけの事だ。だから、私はトトロの入浴シーンを見た時、心配する事も動揺する事もなく、むしろ懐かしく温かい思い出がよみがえってきたものだ。あの当時は普通の事で、何もおかしな事はない。 そして、その頃の日本は、本当にトトロの背景で描かれたような場所だったのだ。作品中のおばあさんが着ていたようなエプロンは、私の祖母も料理をする時に着ていたものだ。私はよく、自分の子供時代と昔の日本を思い出すためだけに、この映画を観る事にしている。 子供だった頃の私の喜び、そして心の痛みをここまで見事に形あるものとして残してくれたのは、この「となりのトトロ」だけだからだ。
● 「森の精」(メリーランド州) 評価:★★★★★
子供時代の魔法のようなひとときを切り取り、映画の形で表現するという仕事を、これほど見事にやってのけるのは、宮崎駿以外には存在しないだろう。この素敵な「となりのトトロ」は、2人の少女が森の中で、不思議な驚くべき生き物に出会う話だ。込み入ったストーリーがあるわけではないが、真に愛すべき物語で、豪華なアニメーションがあり、奇妙な生き物(猫バス!)が登場し、完璧な結末で締めくくられる。
(ストーリー説明部分省略)
「となりのトトロ」はファンタジーであり、同時に日常の一部を描いた話だ。物語で描かれるのは、2人の元気な少女たちに起こる数日間の出来事に過ぎない。彼女たちが暮らすのは、不思議な出来事が起きる日本の田舎だ。物語の中盤まで目立った展開が無いにもかかわらず、それが全く気にならないのは宮崎の手腕によるものだろう。この映画を観るあなたは田舎の子供達の無垢さを大いに楽しみ、そして、作中の事件がただ無事に解決するのを見届けたいという気持ちになるはずだ。
そして、明るい色づかいで細部まで丁寧に書き込まれた絵は、なんでもない日常の一コマを鮮やかに浮かびあがらせてくれる。そして宮崎監督は、実在しそうなキャラクターと空想上のキャラクターを実にうまく交わらせてくれるのだ。 しかし、宮崎監督は、現実の暮らしには小さな問題が起きることも忘れてはいない。主人公の少女が、母親の病状が悪化したことを告げられるシーンがある。子供にとっては根源的かつ本物の恐怖だろう。
本作の登場人物は皆シンプルかつ好ましいキャラクターだ。大声で笑うような、陽気な個性を備えている。特にサツキは本当に存在していそうな少女だ。私が唯一理解できなかったキャラクターはキャップを被った少年だ。彼はシャイで少々問題を抱えているようだが、さほど掘り下げられる事なく終わってしまう。
「となりのトトロ」は、宮崎作品の中では明らかに子供向けではあるが、無垢な子供時代を完璧に描ききった心温まる魅力的な映画だ。それに加えて、フワフワしてニヤニヤ笑う大きなバスも登場するのだ!
● 「気持ちを高揚させてくれる素晴らしい映画」 評価:★★★★★
このアニメーションは2人の少女が森の精と出会うお話です。子供たちから信頼される幸せなお父さんの物語でもあります。
私はこの映画を13人の大人達のグループに見せた事があります。その中には、映画を分析しながら見るタイプの批評好きな人も含まれていたのですが、見終わると、彼らは目に涙を浮かべて私の所にやってきたものです。そして、この映画がどれほど素晴らしいか、熱っぽく話して聞かせてくれました。 この映画に登場するキャラクターたちは、本当にリアルなものに感じられますよ。子供らは実際に私が知っている子供たちと同じで、たいていはしっかりしているのだけど、時として失敗をやらかしてくれます。そのおかげで、キャラクターたちが作り物である事は簡単に忘れられます。まるで実在するように思えてくるんです。
アニメーションも私の大好きなスタイルで、初期のディズニーアニメーションを思い出させてくれる所があります。キャラクターが笑う時には非常に大きく口を開けますし、歩く時の歩幅も非常に大きく、オーバーアクション気味に行動します。
「となりのトトロ」は登場するキャラクターと一緒になって、見ているあなたもすごく悲しい気分にさせ、すごく幸せな気分にもさせてくれる、そんな映画です。
● 「この作品は本のようだ」(アメリカ ミシガン州) 評価:★★★★★
最初、私はこの映画を子供向けのカトゥーンだと思っていましたし、宮崎監督の以前の作品にも、さほど興味はありませんでした。授業での発表のために観ざるを得なかった映画なんです。ようやく、昨日観終えたのですが、この映画はほんとうに素晴らしかったですね。 この映画はある意味、書籍のようでした。読む人の気分や年齢に応じて、全く感じ方が変わってしまう作品なんです。実は、私はこの作品を小学校の頃、すでに観ていました。とても可愛らしい映画で、実際にトトロに会いたいと思ったことを覚えています。 でも、今回観たときは、はるかに感動させられました。この作品には、いくつもの隠れたメッセージがあります。ただ、小さな子供だった私にとっては、アイデンティティや環境などについてのメッセージを理解するのが少し難しかったのでしょう。
この作品には、他にも隠れたメッセージがあります。例えば、自然と共生することの重要性ですね。なんといっても、もし、あんな自然がなければ、あの姉妹はトトロに会えなかったわけですから。それから、先生のような存在でもある、あのお父さんですね。彼は夢を持つことの大事さと、眼に見えないものを信じることの大事さも教えてくれます。 私たちはテクノロジーに囲まれた世界で暮らしています。夢をみることよりも、テクノロジーこそが至上のものだと思いがちです。でも、このお父さんは「トトロなんて、この世にいないんだ。」とは決して言いません(悲しいことに、こんな事を言う大人はたくさんいますね)。むしろ、「会えたらいいね」と言ってくれます。他にも隠れたメッセージはたくさんあるでしょう。どの部分からどんなメッセージを受け取るかは、あなた次第ですよ!
● 「素晴らしいファンタジー」 評価:★★★★★
この映画は私の31歳の誕生日に注文したもので、大いに気に入ってますね。ヒロインは力強くてハッピーで、優しいキャラクターです。3歳になる私の娘もこの映画が大好きなのですが、彼女はハートで理解しているようですね。娘に見せるために、これ以上素敵な映画はちょっと思いつきません。ただ、「魔女の宅急便」だけは例外かな?
他のジブリ映画を見せるのは、彼女がもう少し大きくなるまでお預けにしています。待つだけの値打ちは十分にある作品だらけですからね。この「となりのトトロ」は誰にでもお薦めできる作品です。この映画の美しさは呆然とするほどのものですよ。
● 「世界最高のアニメーターによるもう一つの傑作」 (アメリカ シカゴ) 評価:★★★★★
私はここ20年近くの間、宮崎監督の大ファンだ。ただ、この「となりのトトロ」を観たのは、恥ずかしながら今回が初めてになる。信じてもらえないかもしれないが、その理由はこういう事だ。私は「トトロ」を最後の大切な宮崎映画だと考え、特別な機会に観ようと、とっておいたからだ。私は好きな映画は繰り返し観るのだが、やはり最初の鑑賞には格別の魅力がある。
不幸なことに、「トトロ」を観てしまったことによって、私が鑑賞していない宮崎映画は、もう無くなってしまった。そして幸運な事に、「となりのトトロ」は十分に待った甲斐があるものだった。 この作品は、宮崎の最高の作品と言えるほどのものだろうか、と聞かれたら、答えるのは難しい。なんとか答えるとすれば、他の作品と比べて良いとも悪いとも言える、という答え方になってしまうだろう。宮崎の作品は、どれも秀逸なものばかりだからだ。ただ、どの作品もムードや傾向によって、他の作品と区別することはできる。「となりのトトロ」は最も優しく、最も穏やかな映画と言えるかもしれない。
この作品には、「もののけ姫」や「風の谷のナウシカ」のような環境保護の強いメッセージは存在しない。また、「千と千尋の神隠し」のように両親が豚に変えられてしまうこともない。「天空の城ラピュタ」のように、武器を使った戦いに巻き込まれることもない。「トトロ」に出てくる世界は端から端まで全て愛すべき場所で、ルイス・キャロルのチェシャーキャットとスクールバスの中間に位置するような、注目すべき生き物まで暮らしているのだ。
宮崎のアニメーションの力量は、彼だけがまさに別のリーグにいるかのようだ。私はかなり真剣にそう思う。ディズニーが今より野心的に絵を描いていた頃から、もう何十年も経ってしまった。宮崎はその頃のディズニーレベルの絵をたやすく描いてしまう。
例えば、姉妹が新しい家に引っ越してきた夜に襲ってきた突風のシーンだ。ディズニーは「バンビ」以来、こういう絵を描こうとしてこなかった。突風が木々の頂きに向かって吹き抜けていく様子、うっすらとモヤのかかるさま、草の上を波が走っていくように描かれる風の表現、そして強風にさらされ雨戸を閉めた家の描写、全てが注目に値する芸術性を備えている。
そして、それにもまして注目すべきことがある。 宮崎はこのシーンで自然の猛威を表現するために、強い嵐や激しい雷を描かなった。むしろ、弱めの風と月明かりの空を描くことで目的を達成してしまったのだ。見事な熟達ぶりだ。
アニメーター、そしてストーリーテラーとして桁外れの能力を持つ宮崎ではあるが、実際、あらゆる能力のうち、彼が最も優れているのは忍耐力なのかもしれない。これは日本のアニメーターたちが共通して持つものでもある。アメリカのアニメーション映画は、ほとんどが、活発な動きが画面いっぱいに展開される大騒ぎの事件になってしまいがちだ。そして、大急ぎで次のシーンに移ってしまう。 こうなってしまう理由の一つは、アメリカの映画業界が観客を信頼していないからだ。ストーリーがどんどん展開していかないと、小さな子供たちは退屈して落ち着きがなくなってしまうものだと恐れている。一方、宮崎は観客に敬意を払っている。ストーリーの進み方がゆっくりしているというだけの理由で、席を立つ観客はいないと信じているのだ。 多くのアメリカ映画であれば、単に子供が部屋に入っていって何かを見つけるという場面でも、「となりのトトロ」なら、女の子が部屋に一歩入り、ドアの方から反対側の壁のほうを見つめ、もう一歩進んで部屋の中を見渡し、ゆっくり部屋の中に進んでいき、部屋の中で何かを見つける、といった感じになるはずだ。その結果として、映画のどの瞬間も不思議で素晴らしい発見がある。
「となりのトトロ」は特別な映画監督によって作られた、特別な映画だと言えるだろう。ただ、宮崎監督にとっては、「特別」が、ごく普通の事であるという点を考慮に入れなければ、だが。
(翻訳終わり)
| 角野 栄子 Amazonで詳細を見る by AmaGrea
多くの方に愛されてきた映画「魔女の宅急便」原作シリーズの6冊セット。シリーズ完結を記念して刊行。13歳の満月の夜に、ひとり立ちの旅に出た魔女の子キキ。多くの旅立ちを経て、遂にあこがれのとんぼさんと結婚。そして、お母さんになります。まだ読んでない方も、このシリーズを読みながらキキと一緒に大きくなった方も、「魔女の宅急便」の世界を丸ごとお楽しみ下さい。 |
管理人より: 最後まで読んで下さった方、どうもお疲れ様でした。 ジブリの鈴木プロデューサーと糸井重里さんの対談によると、宮崎監督が書いた「となりのトトロ」の原案では、「ファーストカットからトトロがいきなり登場し、全編、大活躍だった。」そうです。個人的には今の形で正解だったと思いますけど、原案通りならどんな作品になったのかも気になります…。
なお、過去の宮崎監督作品レビュー翻訳記事は以下の通りです。よかったら、こちらもご一読下さい。
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