試乗記

シトロエン、4代目に進化した新型「C3ハイブリッド」はスムーズで心地のいい乗り味が真骨頂!

2025年10月5日 発表
PULS:339万円
MAX:364万円
シトロエンから新型「C3ハイブリッド」が登場した

4代目に進化したシトロエン「C3」は何が変わったのか?

「クルマは走れば何でもいい」「クルマは単なる移動手段」……そう考えている人にとって、もしかしたらシトロエンC3は響かないクルマかもしれない。C3は、その特別なデザインや使い心地によって、日常をワクワクさせてくれる相棒のようなクルマだからだ。

 筆者は、シトロエンC3を2代目、3代目と試乗した経験がある。2代目は、コロンとした丸いフォルムの小さなハッチバックで、当時は軽自動車やリッターカーと並ぶような親しみやすいモデルだった。3代目になり、C3はコンパクトSUVへと進化し、C3エアクロスSUVと名前を変え、よりデザイン性の高いモデルになった。

シトロエン新型「C3ハイブリッド」を試乗する機会を得た。試乗車は上級グレードの「MAX」だ
ボディサイズは、4015×1755×1590mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2540mm。従来モデルから全長+20mm、全幅+5mm、全高+95mmで、ホイールベースは同じ

 シトロエンと聞くと、ハイドロニューマチック・サスペンションの魔法のじゅうたんのような足まわりを思い起こす人もいるかもしれないが、このC3あたりからは、ややコシがありつつ、しっかり地面を捉えるフランス車らしい猫足を備えるようになったと感じる。そして、4代目となった新型C3は、この3代目を上手く引き継ぎ進化させている。

 近年のシトロエンは、創業当時のロゴマークをリデザインして採用するなど、ブランドのデザインを一新し始めている。C3もその類に漏れず、3代目のデザインから大胆なブラッシュアップが行なわれた。新型C3は、最近のカーデザインのトレンドである水平基調のほか、垂直基調も同時に取り入れている。

前後とも新世代シトロエンデザインが取り入れられ、シトロエンのエンブレムも新デザインとなっている
前後のフェンダーアーチにはダブルシェブロンの斜めのラインがあしらわれている

 ヘッドライトがまさにその代表で、フロントのダブルシェブロンのロゴマークから垂直に伸びたラインが、ヘッドライトで二手に分かれて、さらにそれを垂直なライトでつなげている。3代目のポップでキュートなイメージから、よりスタイリッシュになり、幅広いユーザーに受け入れられそうなスタイリングとなった。

 先に写真で見た印象では「だいぶタフでゴツゴツした雰囲気になったな」と感じていたが、実物を見てみると、もっとフレンドリーでシトロエンらしくおしゃれで茶目っけのあるデザインだ。

 エクステリアには、カラークリップと呼ばれるパーツが付いており、これはボディカラーに合わせてデザイナーがコーディネートしたものだそう。フロントまわりと、Cピラー付近に目を引くラインが入っていて、これがちょっとしたアクセントになっている。

ヘッドライトとテールランプともに印象的なコの字型を採用
ボディカラーに合わせてデザイナーがコーディネートしたという「カラークリップ」

 ボディカラーとの組み合わせは最初から決まっているらしいが、デザイナーいわく「自分の好きなカラーペンで塗ってもらってもいい」とのこと。もちろん、それはデザイナーのジョークかもしれないが、そのくらいのフレンドリーさや気軽さがC3にはピッタリだと感じた。その他にも、ダブルシェブロンの斜めのラインが様々なところに使われていて、その個性豊かなデザインやモチーフに惹きつけられる。

試乗した上級グレード「MAX」は、17インチのダイヤモンドカットアロイホイール「アタカマイト:チリのアタカマ砂漠で発見された鉱物に由来)」を標準装備。装着タイヤはグッドイヤーのエフィシェントグリップで、サイズは前後とも205/50R17

 インテリアを見ると、ダッシュボードは端から端までまっすぐなラインが使われていて、実にスッキリとした印象。たださまざまなところにおしゃれな気遣いがあり、ダッシュボードの下部にはストレッチされたファブリックが使われていて、その生地の模様が微妙に変化しているところは、これまでにない発想で感心してしまった。

端から端までまっすぐなダッシュボードを採用
ステアリングは楕円形をチョイス
ギヤセレクターは前後に動かすタイプ
メーターは横に細長く、必要最低限の情報を表示。ステアリング右側のレバーの先端にボタンがあり表示内容を切り替えられる
エアコンなどのスイッチはセンターコンソールに配置
メインの始動キーは、物理的な鍵を採用していてちょっと懐かしい
グローブボックスには、1919年以降のシトロエンを象徴するモデルが描かれている

 さらにドアの内側には赤色の小さなタグが付いていて、まるで好きな服を着こなしている気分になる。また、グローブボックスを開けると、シトロエンを象徴するモデルが立体的に浮かび出るような加工がしてあって、こういったさまざまなギミックを発見するのもC3の楽しみだと感じた。

 ステアリングは独特の楕円形で、一見不思議な印象を受けるかもしれないが、形状が上手く作り込まれていて、とても握りやすく、操作性は何も変わらない。シフトセレクターはダイヤルを上下に押し込むタイプで、シフトノブがない分スッキリとした空間にはなっているが、ドライブからリバースに切り替える際、慣れていないとうまく入れられないかもしれない。

シートはディップレザー(合成皮革)にライトグレーのファブリック素材を組み合わせ、室内を明るく彩る「アドバンストコンフォートシート」を採用
コンパクトな車体だけど、後席の居住空間もしっかり確保されている
後席は6;4の可倒式。両方とも倒せばフルフラットではないが、大きな荷物も積載可能
後席を倒さなくても十分なラゲッジスペースを確保している

 新形C3は、シトロエンの中では“もっともコンパクトで庶民的なモデル”という位置づけで、コストカットの工夫がさまざまなところに現れている。例えばドアパネルの内張りは樹脂になっているし、高速道路などで前車に追従するACCは付いていないし(一定速度で走行するだけのCC:クルーズコントロール機能は付いている)。さらに、なんと近年の新車ではほとんど見なくなったキーをシリンダーに挿して回すことでエンジンがかける機構も採用している。

 ACCは欲しいという人もいるかもしれないが、その他のコストカット部分に付いては「むしろC3の味」と喜ばれそうなところもニクい演出だ。しかも、真っ先にコストカットの対象になりそうなバックカメラやスマホの置くだけ充電、座り心地のよいシート、シートヒーター、ステアリングヒーターなど、快適性を高める機能はきちんと装備しているからうれしい。

ガソリンターボエンジンと電動モーターに、6速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)を組み合わせた48Vマイルドハイブリッドを搭載。C4ハイブリッドとハードウェアを共用そつつ、C3の軽量ボディに最適なセッティングを施しているという。

 筆者自身がフランス車を好きな理由は、ウキウキさせてくれるデザインやしなやかな乗り味はもちろんだが、シートがいいことも大きな要素として挙げられる。昔のシトロエンは、それこそマシュマロのようにフカフカのシートだったが、近年のシートは低反発のようにコシがありながら、お尻が痛くならない程度の柔らかさで、長時間乗っていても腰に負担が少ないところがとても気に入っている。新型のC3もファブリックと合成皮革の組み合わせのツートーンカラーになっていて、心地よい座り心地に加えてデザインも可愛らしかった。

フランス車を好きな理由はシートがいいことも大きい要素

生活をより豊かにしてくれる

 久しぶりにキーシリンダーに鍵を差し込んで、エンジンをかける。この行為だけでも気持ちが少しワクワクするのはなぜだろう。新型C3は、初めてのハイブリッドを採用しており、直列3気筒1.2リッターターボエンジン(101PS/205Nm)と、モーター(20PS/51Nm)を組み合わせている。

低回転からトルクがしっかりあるし、モーターのアシストもあるから乗りやすい

 3気筒エンジンということもあって、走り出すとポロポロと軽快で元気な音がした。エンジンは低回転からトルクがしっかりあるのに加えて、モーターのアシストもあるため、ストップアンドゴーの多い街中でも出だしがスムーズでスイスイと走っていける。また、ステアリングがとても軽いので、筆者でも力を入れすぎずに操舵ができた。

 コンパクトSUVながら、自分が欲しい時にしっかりとパワーを出してくれるし、とにかく取りまわしがいいので、「運転が苦手だと思っている人でも楽しく運転できそう」と感じた。ハンドリングはとても軽やかなのに、高速道路を走っているとステアリングのセンターがどっしりとしているので、高速走行でも不安定になることなく安心して走れた。

ハンドリングはとても軽やか。でも高速道路を走っているとステアリングのセンターがどっしりとしていたのが印象的

 ただし、回生ブレーキは強めに利くので、初めてモーターが付いたモデルに乗る人は、アクセルをオフにした時、自分が思っているよりも強い減速を感じるかもしれない。筆者も最初は「おっと!」とつんのめるような感覚になったが、試乗中には慣れてしまい、アクセルのペダルを上手くコントロールすることで、コーナー手前や信号で停止する時なども思い通りに減速して運転できるようになった。

回生ブレーキは強めに利く感じがしたが、慣れれば快適に感じられる

 後席にも乗ってみたところ、前席よりは少しヒョコヒョコ跳ねるような感覚はあった。しかし、シートは後席だからといってコストカットされることはなく、前席と同じようにしっかりと体を支えてくれる設えのいいシートが備えられているところは好印象。ただ、背もたれはやや立ち気味で、リクライニング機構がないので、後席に長く座って遠出する機会がある人にとっては、やや気になる点かもしれない。

 どんな道でもスイスイと走れて、路面の凹凸を上手くいなす独特の乗り心地のよさは、なかなか日本のコンパクトカーには感じられない乗り味で、このスムーズで心地いい乗り味こそC3の真骨頂だと感じた。

日本のコンパクトカーには感じられない乗り味だった

 価格は、エントリーグレードの「PLUS」が339万円から、上級グレードの「MAX」が364万円からと、同様の日本車と比較すると安くはないが、特別な1台が欲しい人にとってはいい買い物になるはず。

 乗り込む前にいつもの愛車を駐車場で見る時、運転席に座ってキーを回す時、そしてアクセルを踏んで自在にステアリングを操作する時。C3は、日常のさまざまな瞬間にワクワクするスパイスを与えてくれる。C3で街に繰り出せば、気分を弾ませる乗り味があなたの生活をより豊かにしてくれるだろう。

日常にワクワクするスパイスを与えてくれるC3、ぜひ試乗してみていただきたい
伊藤梓

クルマ好きが高じて、2014年にグラフィックデザイナーから自動車雑誌カーグラフィックの編集者へと転身。より幅広くクルマの魅力を伝えるため、2018年に独立してフリーランスに。現在は、自動車ライターのほか、イラストレーターとしても活動中。ラジオパーソナリティを務めた経験を活かし、自動車関連の動画やイベントなどにも出演している。若い世代やクルマに興味がない方にも魅力を伝えられるような発信を心がけている。

Photo:編集部