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ダイハツ、再生可能エネルギーを活用したマイクログリッドシステムの実証実験を開始

ダイハツ、豊田中研、トヨタ九州のトヨタグループ3社が連携

2025年10月7日 発表
マイクログリッドシステムのイメージ

ダイハツと豊田中研が共同開発した「SPH」をトヨタ九州・小倉工場で活用

 ダイハツ工業と豊田中央研究所(豊田中研)、トヨタ自動車九州(トヨタ九州)は10月7日、トヨタ九州・小倉工場で再生可能エネルギーを活用したマイクログリッドシステムの実証実験を2025年10月から開始したと発表した。

 今回の実証実験は、トヨタグループの仲間である3社の強みを融合したプロジェクトで、ダイハツの良品廉価な車づくりの技術・ノウハウ、豊田中研の要素技術開発力、トヨタ九州の再生可能エネルギー利活用の知見を合わせたものとなる。

 具体的には、再生可能エネルギーの活用が進んでいるトヨタ九州・小倉工場で、豊田中研とダイハツが共同開発した高効率な電力変換器の「SPH」(Smart Power Hub:スマートパワーハブ)を活用し、太陽光発電で作られた電気を「ロッキー」「ライズ」といった車種のモーターに使用する部品の製造ラインに供給するとともに、余った電気は蓄電池にためることで、効率的に電力を活用するマイクログリッドシステムを構築。実際に稼働している製造ラインでの実証を通じて、システムの有効性ならびに信頼性を確認し、将来的にはエネルギーの地産地消や、日中に蓄電した電気を夜間に使用するピークシフトを実現することで、CO2排出量の削減につなげていくとした。

 マイクログリッドシステムとは、太陽光やバイオガス発電機など再生可能エネルギー由来の電源と蓄電池を組み合わせ、地域や施設単位で独立した電力供給網を構築し、エネルギーの地産地消を行なうシステムのこと。小規模なエリアのため、送電時の電力ロスを最小限に抑えられ、電力会社からの電力と適切に組み合わせることで効率よく利用できるという。

マイクログリッドシステムとは

 今回の実証実験で活用されるSPHは、ダイハツと豊田中研の共同開発となり、「発電」「蓄電」「使用」の3方向接続を新開発し、効率的な「直流主体のマイクログリッドシステム」を実現。従来システムでは、太陽光や蓄電池を個別に接続する必要があるなど構成が複雑だったものの、今回開発した3ポート電力変換器のSPHは複数のプロセスを一体的に統合し、「高効率化」「設備のコンパクト化」「超高速制御」の3つの観点から、直流マイクログリッドに必要な性能を実現した。

 マイクログリッドシステムで再生可能エネルギーの電力を最大限活用するには、無駄な電力変換を減らすことが重要で、従来は太陽光から蓄電池へ送る際に6回、さらに蓄電池から負荷へ送る際に3回、計9回の電力変換が必要だったものの、SPHは変換回数が3回にまで削減され、これにより45%のエネルギー損失削減を見込んでいる。

 さらに、これまでは外部通信による協調制御を行なうため、遅延が発生する可能性があったものの、SPHでは3ポート接続の利点を活かし、外部通信を使わずに自己完結で制御することで、マイクロ秒レベルの応答を実現。超高速制御(1000回以上/秒)により、再生可能エネルギーからの発電量が低下した場合でも蓄電池からの電力を瞬時に充当できるため、瞬間的な停電時でも寸断することなく電力供給が継続でき、生産活動の中断やデータ損失などのリスクを防げるとしている。

 また、従来は複数の変換器を組み合わせる必要があり、大きく複雑なシステムとなっていたものの、SPHでは既存の小型電動車用のインバータなどの自動車用部品を活用して低コストで改良を実施。インバータを用いた高周波絶縁技術を活用し、従来必要だった商用変圧器を不要にしたほか、独自の統合回路技術によってDC-DC電力変換をなくしたり、インバータの高速制御によって基板の発熱を抑制して冷却面積を小さくしたりすることで、装置全体の体積を約10分の1にコンパクト化。小規模な事業所などへの導入も可能となっている。

世界初3ポート電力変換器「SPH」(Smart Power Hub)は、「高効率化」「設備のコンパクト化」「超高速制御化」を達成

 今回の実証実験の背景には、太陽光やバイオマスなどの再エネを有効活用することがカーボンニュートラル達成に向けて必要不可欠となっていることがあり、ダイハツでは2021年に滋賀県竜王町でのバイオガスプロジェクトをきっかけに、マイクログリッドシステムの検討を開始。2022年に小規模システムに適した電力変換器を探していたときに豊田中研が開発していることを知り、共同開発がスタートした。試作ベースに自動車部品を用いて改良を重ね、2023年にはダイハツグループ 九州開発センターの事務等に導入して、技術検証が行なわれた。その結果が良好であったため、さらなる技術確立に向けた実証実験を計画したものの、設備の整った施設がなかなか見つからなかったという。

 その中で、トヨタ九州は工場内に太陽光発電や蓄電池はあるものの有効活用できていない、再生可能エネルギーを製造ラインで使うための電力変換器がないという課題を抱えていると知り、互いの課題解決に向けて、今回新開発したSPHをトヨタ九州の小倉工場に導入し、マイクログリッドシステムを構築するに至ったとのこと。

 このマイクログリッドシステムの構成とハイブリッド車の構造は非常に似ているため、今回の共同開発では自動車部品や電動車関連技術のノウハウをふんだんに活用しており、特にインバータ技術の応用は非常に有効で、基板回路の単純化などによって低コスト化とコンパクト化が実現できたとしている。

マイクログリッドシステムとハイブリッド車の構造は似ているといい、自動車部品や技術ノウハウがふんだんに活用された

 発表と同日に行なわれた取材会では、ダイハツ工業 取締役副社長の桑田正規氏があいさつ。「ダイハツにとって、このマイクログリッドシステムは滋賀県竜王町で進めているバイオガスプロジェクトに続く、エネルギーの地産地消に向けた取り組みの1つです。3社で力を合わせ、しっかりと進めてまいります」と述べるとともに、「トヨタグループは2035年までにグローバルで工場から排出するCO2を実質ゼロにするという高い目標に向けてチャレンジしております。ダイハツは九州にも拠点がございますので、今後も仲間の一員として地域社会の発展に貢献するとともに、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを加速させ、持続可能な社会の実現を目指してまいります」と、今後の抱負を述べた。

 豊田中央研究所 執行職 アドミニストレーション部門 部門長の田辺稔貴氏は、「この技術は、弊社において2020年から研究開発を始め、2022年からダイハツ工業と協業を進めてきたものです。今回の実証実験が各社のご尽力により実現し、社会実装に向けた一歩を踏み出せたことを、当社としても非常に喜ばしく思っております」とコメントした。

 また、トヨタ自動車九州 取締役副社長の岩原信隆氏は「弊社でも2035年までに工場カーボンニュートラルを目指し、『省エネ改善』『再生可能エネルギーの導入』『ガスのCO2フリー化』の3つの柱で取り組みを推進しております。ここ小倉工場でも、太陽光発電や蓄電設備、水素を活用した燃料電池などの実証、購入電力の再エネプランの活用などを進めております。弊社の再生可能エネルギー利活用の知見を活かし、グループ連携による技術実証に参画させていただけることは大変ありがたく、成果を生み出すことで地域の皆さまへの貢献にもつながっていくものと考えております。これからも2035年の工場カーボンニュートラル実現を目指し、地域の皆さま、トヨタグループの仲間と連携しながら持続可能な社会の実現に貢献し、『町いちばんの会社』を目指してまいります」と今後のカーボンニュートラル化に向けた期待を語った。

左から、トヨタ自動車九州株式会社 取締役副社長 岩原信隆氏、ダイハツ工業株式会社 取締役副社長 桑田正規氏、株式会社豊田中央研究所 執行職 アドミニストレーション部門 部門長 田辺稔貴氏