擬似環境の向こう側

(旧brighthelmerの日記) 学問や政治、コミュニケーションに関する思いつきを記録しているブログです。堅苦しい話が苦手な人には雑想カテゴリーの記事がおすすめです。

ネットで炎上しないために

 一時は沈静化していたようにも思うのですが、最近になってまたネットの炎上が相次いでいます。そこで、以前、学生に配布するために作ったマニュアルの簡易版をアップすることにします。2年ぐらい前に作ったものなので、内容的には古くなっている部分もありますが、現在でもだいたいは妥当するのではないかと思います。

 炎上を引き起こすような人自身がこの過疎ブログを見る可能性は皆無に近いと思うのですが、教員等の方が学生に指導なされるさいに参考にしていただければ幸いです。

どのような書き込みが炎上するのか

炎上するきっかけは、大きくわけて以下の4つのパターンに分類できる。

(1)悪事の告白

 飲酒運転、キセル乗車、バイト先でのいたずら、未成年の喫煙・飲酒、違法ダウンロード、他人の写真のアップロード、カンニングなどの違法行為/反社会的行為の書き込み。これらのケースでは、炎上した後に「冗談だった」という言い訳がなされることが多いが、そうした言い訳は通用しない。

(2)ネット内の「空気」からの逸脱

 多くのネットユーザーから愛好されているものに対する批判、それを愛好している人たちへの中傷、ネット内で盛り上がっている運動などへの批判を行うと炎上しやすい。また、オリンピック、ワールドカップなど世間で大きく扱われている出来事に水を差すような書き込みも炎上するケースが目立つ。

(3)悪事の擁護

 書き込んだ本人が悪事をしていなかったとしても、悪事を擁護するような発言をしただけで炎上することがある。また、炎上している知人を擁護しようとする行為自体が「悪事」と見なされるために連帯責任として炎上するケースも目立つ。

(4)内部情報の暴露

 企業の内部情報、バイト先で偶然に知った有名人のプライベートを暴露する行為。

炎上すると何が起きるか

(1)証拠の差し押さえ

 炎上しそうな書き込みを発見した場合、発見者はすぐには炎上させずに当該サイトや書き込みの「魚拓」をとる。そうした魚拓には2ちゃんねる等からのリンクが貼られ、たとえ書き込みの当事者が炎上元のサイトや書き込みを削除したとしても誰でも閲覧できる状態が続く。

 また、たとえばTwitter のアカウントを持っている人は、mixi やfacebook など他のSNS にもアカウントを持っていることが多いため、Twitter から得られた情報をもとにそれらSNS のアカウントの探索が行われる。そこでアカウントが発見されたときには、それらについても魚拓がとられる。

(2)当事者の特定

 たとえ匿名のアカウントではあっても、炎上した場合には様々なアプローチによって当事者の特定が試みられ、多くの場合に成功する。友人同士でTwitter をやっている場合、友人が当事者に本名で呼びかけていたケースなどもあることから、当事者が特定される可能性は高い。

(3)過去の検証

 ブログ、mixi、Twitter などで炎上しそうなエントリやツイートが発見されると、それに関するスレッドが2ちゃんねる等に立てられ、URL(魚拓のものも含む)が貼りつけられる。普段であればその書き込みを見ないはずの人たちまでもが殺到する。その結果、仲間内では問題なく見過ごされていたような書き込みが外部からの厳しい視点で検証されることになり、過去の「問題発言」まで発見されることになる。

 ブログへの書き込みによって炎上した場合、コメント欄に批判的なコメントが数多く書き込まれる。Twitter の場合であれば、その発言が数多くリツイートされるとともに、批判的なコメントが当事者宛てに寄せられる。

(4)住所の特定

 批判コメントが殺到するだけであれば、アカウントを削除すれば話は済む。しかし、実際には当事者が特定されることが多いため、プライバシーに関わる情報が数多くネット上に流布されることになる。とりわけ、当事者が実家に住んでいる場合、Twitter やmixi に書き込んだ生活に関する様々な情報の断片から、住所の割り出しは比較的容易に行われる。大まかな地域さえ割り出すことができれば世帯主名の記入された地図などから住所を特定することができる。そうして住所や通学先などが判明した場合には、「張り込み」によって当事者の行動の監視が行われることすらある。また、ターゲットが成人の場合、資産内容を明らかにするために登記簿まで取得され、ネット上で公開されるケースもある。

(5)関係先への抗議

 当事者が学生であれば、その学生が通っている学校に対してメールや電話で問い合わせや抗議が行われることが多い。当事者の書き込みをプリントアウトしたものが郵便で学校に送りつけられることもある。当事者が企業の内定を得ており、企業名までもが特定された場合には、その企業にも問い合わせや抗議が行われる。

(6)延焼の拡大

 炎上が発生した場合、書き込みをした当事者のプライバシーのみならず、周囲の人びとのプライバシーもネット上に流布することになる。当人が所属していた大学のサークルやゼミの名簿、あるいは当人がネットにアップしていた写真も掲示板に貼り付けられる。当事者が既婚者の場合、配偶者の勤務先にまで電話がかかってくることがあるという。

 また、当事者のみならずその友人についても詳細な調査が行われ、その悪事や過去が暴露されることがある。結果として、炎上の対象が周囲へと拡大していく可能性もある。あるいは、当事者の周囲にいたというだけで全く無関係の人びとに対する誹謗中傷が行われることも珍しくない。とりわけ、炎上の当事者がアカウント削除によって逃亡した場合、炎上させる側は「お前が出てきて謝罪しないと、周囲の人間が巻き込まれることになる」という威嚇を行うために、延焼はより一層拡大しがちである。

 内定先の企業に問い合わせが電話で行われる場合、企業の担当者と電話主とのやりとりがネット上に詳細に紹介され、「企業の対応が不誠実だ」といった批判が生まれることも多い。

なぜ炎上するようなことを書き込むのか

(1)「仲間しか見ていない」という思い込み

 炎上の原因となるような書き込みをするユーザーに共通するのが、「この書き込みは自分と友人しか見ていない」という根拠の薄い思い込みである。実際には、Twitter のフォロワーがたとえ少なくとも、検索などを通じて書き込みを読む人もいる。しかし、SNS は友人とチャットをしているような感覚で書き込めてしまうために、自分たちがコミュニケーションをしているのは「全世界からアクセス可能なインターネット上なのだ」ということを往々にして忘れてしまいがちである。

(2)自己顕示欲の発露

 また、バイト先の内部事情や有名人のプライベートを暴露してしまう心理の背後にあるのは、自己顕示欲である。「自分だけが知っているこの情報をツイートして、みんなにいいところを見せたい」「自慢したい」という願望が、本来は公表すべきではない情報を書きこませてしまう。

(3)チャット感覚

 加えて、チャット感覚で書き込んでいる場合には、ついついその場のノリで不適切な言葉を書き込んでしまう可能性も生じる。とりわけ、Twitter は前後の文脈から特定の発言だけが切り取られて一人歩きしやすいツールであることに注意しよう。

なぜ炎上は増えたのか

(1)ユーザー数の増加

 まず挙げられるのが、Twitter のユーザーが純粋に増加したということである。ユーザーの増加はそれ自体で不適切な書き込みがなされる可能性を上げていく。

(2)不祥事検索のトレンド化

 次に指摘されるのが、不祥事検索のトレンド化である。Yahoo!のリアルタイム検索など、Twitter の検索が容易になったことも手伝い、「飲酒運転」や「カンニング」といったキーワードで検索し、炎上のターゲットを常時探している層が存在する可能性が高い。
また、ある「不祥事」が発覚すると、それと同様のことをしているTwitter やブログのユーザーが新たに捜索され、炎上がさらに拡大していくケースも見られる。

(3)プロフ文化の影響

 加えて、プロフ文化の影響で実名やプライベートを公開するユーザーが増加していることも挙げられよう。外部からは見られにくい携帯でのコミュニケーションの延長線上でネットを捉えているために、プライベートを公開することに抵抗のない若い世代が大量にSNS に参入し、「世界中から見られている」という意識がないままにネットに書き込みをしたり、写真をアップしたりしている。自身のセミヌードや免許証の写真をアップするなど、通常では考えられない事態も発生している。

炎上すると何が問題か

(1)関係団体への被害

 炎上が発生すると、バイト先や学校、内定先に多大な迷惑をかけることになる。バイト先が閉店に追い込まれたり、膨大な損害が生じるケースが相次いでいる。学校や企業の公報が大量の抗議の電話によって機能しなくなるケースもある。

(2)ネット上で実名が流通することの弊害

 ネット上での実名を出しての書き込みは、必ずしも悪いことではない。匿名での発言にはどうしても信頼性に乏しい部分があるため、発言内容に責任を持たせたいのであれば、実名を出して書きこむことは一つの手段ではある。場合によっては、それがポジティブな評価や、新たな人間関係の形成につながることもある。たとえば、企業によっては「興味深いブログを書いている学生」を優先的に採用するケースもあるという。

 ただし、先に見た炎上のようにネガティブなかたちで実名がネット上で流布した場合、その被害は決して小さくない。ネット上で実名が検索されると、過去の問題発言や問題行動とのセットで検索結果が表示されるという事態は、将来のキャリアにとって大きなダメージとなる可能性もある。しかも、ネット上で拡散してしまった情報を全て消去することは困難であり、検索エンジンは過去の情報も効率的に収集してしまうため、そうした事態を解消することは極めて難しいと言わざるをえない。

(3)就職活動への悪影響

 近年のインターネットの普及によって、企業によっては新規採用で候補者が絞りこまれてきた段階で、残っている候補者の名前を検索にかけるケースもあると言われる。そこで過去にネット上でトラブルを起こしていたことが判明した場合、選考に悪影響を及ぼす可能性は少なくないだろう。

 あるいは、トラブルとまでは行かずとも、実名を出しながら過去の恋愛経験や第一志望の業界について発言していた場合も、人事採用者にそれが見られた場合には不採用という結果につながる可能性も指摘されている。

 特に就職掲示板への書き込みは、企業の人事担当者が内容をチェックしていることも多く、就活生のネットでの現状が企業側に筒抜けになっているケースも珍しくない。

 数多くの新卒社員が入社する大企業ではそこまで細かな情報収集は行わないだろうとの指摘もあるが、とりわけ規模の小さなIT 系の企業ではそうしたチェックが行われる可能性もあるという。

(4)精神面への悪影響

 自らの書き込みによって炎上が発生し、実名や顔写真、住所などが広く拡散した場合、書き込みをした当事者にはかなりの精神的負担が生じることが予想される。単なるネット上での調査のみならず、直接に電話をしたり、当事者の家の近所で「張り込み」をする者が現れることもあるため、特に当事者が女性の場合には恐怖感すら生じることがありうる。実際、炎上によって実名や住所がネット上で暴露されたある主婦は「本当に怖くて外も歩けませんでした」と語っている(『毎日新聞』2007年1月1日)。

 しかも、炎上が発生した場合、本人の身近にいると思しき人物からの「内部リーク」が頻発することがある。このような場合には、周囲の人間に対する不信感が高まり、結果として大きな精神的苦痛を負うことになる。

もし炎上が発生したら

(1)個人情報の削除

 既に述べたように、炎上が発生した段階ですでに大量の「魚拓」が取られており、個人情報を削除しても手遅れなことが多い。しかし、膨大な書き込みの魚拓を取ることは容易ではないため、個人情報が詳細に分析され、プライベートがさらに暴露される事態を避けるためには、ただちにネット上の個人情報を削除したほうがよい。

 また、Google 等でエゴサーチ(自分の名前で検索すること)を行い、自分の名前がネット上に出ていないかどうかをチェックする。昔のブログなどが放置されている場合には、その書き込みも削除する。それ以外のページ(大学のサークルのページなど)に自分の名前があれば、そのページの管理者に連絡して名前を削除する等の措置をお願いする。これは関連団体に迷惑をかけないための措置でもある。

(2)アカウントは消去すべきか?

 アカウントを消去すべきか否かは判断が分かれる。謝罪するチャンネルを開いておくためにアカウントを残すというのも一つの判断である。Twitter の場合ならアカウントに鍵をかけるのも一つの手である。ただし、鍵をかけた場合でも、フォロワーを通じて書き込みが外部に流出する可能性もあるので発言には注意すること。

 また、アカウントを消去する場合には、それに先だってtwipic やyfrog 等にアップした画像を消しておくこと。先にTwitter のアカウントを消去してしまった場合には、それらのサイトの画像を消すまでに時間がかかるため、画像の流出を抑えることができなくなる。

(3)謝罪はすべきか?

 これも判断が分かれるポイントである。下手な謝罪をしたことにより、かえって炎上が拡大する可能性も否定できない。ただし、それでも現行アカウントをもってネット上に留まりたいのであれば、謝罪をすることも一つの選択肢ではある。

 謝罪をする場合には、徹底した謝罪が求められる。炎上させたネットユーザーに対する憤りを抑制しつつ、いかに自分が間違っていたのか、批判の声を聞いてどのように考えを改めたのかを、一切の自己弁護を抜きにして謝罪文に記す必要がある。そこまでの覚悟がないなら、謝罪をせずに速やかにアカウントを消去したほうが、結果的には早く沈静化する。

(4)周囲への注意喚起

 これまで繰り返し述べてきたように、炎上が発生すると周囲に「延焼」していく。この延焼を食い止めるためには、江戸時代の火消しのように燃えている部分を隔離するしかない。つまり、炎上したアカウントとそうでないアカウントとの繋がりを断つことが求められる。

 そのための一つの方策としては、周囲への注意喚起がある。友人に「擁護も含めて、ネット上で炎上の件に関して言及しないでくれ」と連絡する。Twitter の場合なら、アカウントに鍵をかけるようお願いするのも一つの手である。

 また、ネット上で自分と周囲との繋がりを切り離すことも必要になる。Twitter でのフォロー、フォロワーの関係を解消し、過去に送ったリプライを削除するなどして、炎上したアカウントを孤立させる。

 周囲の人達もプロフィール欄から余計な個人情報(当事者と同じゼミやサークル、居住地など)を消去することが望ましい。既に炎上してしまったアカウントと救済可能なアカウントとを見分けることが必要になる。

 また、炎上を引き起こした以上、影響が周囲に大なり小なり及ぶことは避けられないので、周囲の人達には謝罪をしておいたほうがよい。

それでもネットを楽しむために

(1)「違法行為をした」ことを書き込まない

 言うまでもなく、最初から「違法行為をしない」ということが大前提である。しかし、たとえ実際には違法行為をしていなくとも、「違法行為をした」とネットに書き込むだけでそれはトラブルの原因になる。したがって、たとえ冗談であっても違法行為をしたということをネットには書き込むべきではない。特にTwitter は前後の文脈を無視して発言を一部だけを切り取られやすいメディアである。そのため、全体的な流れからすれば冗談として片付けられるものであっても炎上の原因となりうることに気をつけるべきだろう。

 また、ここで言う「違法行為」とは、飲酒運転や違法ダウンロードのほか、カンニングなどの反社会的行為も含まれる。

(2)「明確な違法行為」を擁護しない

 冒頭で述べたように、明確な違法行為を擁護することにも大きなリスクが伴う。ただし、行為の違法性の判断をめぐって最高裁で争われるような事件については、その限りではないこともある。実際、違法性をめぐって社会の内部でも大きく意見が分かれるようなケースについては、意見の多様性は維持されるべきであり、ネット上にもそれぞれ異なる意見が存在してしかるべきだろう。ただ、そうしたケースでも炎上する可能性は皆無ではなく、そのリスクは個々人が慎重に判断していくしかない。

(3)「他人の気分を害する」ことのリスクを認識する

 書き込みの内容が「非常識」だと判断されたり、多くの人びとが盛り上がっている事柄を批判するさいに炎上は発生しやすい。後者については、多くの人から愛好されているマンガやアイドル歌手を批判したり、ワールドカップやオリンピックなどの盛り上がりに水をさすような発言がそれに該当する。

 そうした発言を抑制していくことは結果としてネットでの発言の幅を狭めていくことになってしまうが、炎上したさいの精神的負担はそれなりに大きいので、そのリスクを認識したうえで発言することが必要になるだろう。

(4)アルバイト先の情報を書き込まない

 アルバイト先に迷惑をかけるようなことは最初からしないのが前提ではあるが、とにかくアルバイト中に知り得た情報などを書き込まないことには注意をする必要がある。そうした書き込みはアルバイト先のみならず、顧客の側にも大きな迷惑になりうることを認識しておかねばならない。

(5)個人情報をうかつにアップしない

 炎上が発生した場合、個人情報はほぼ丸裸にされるが、それでも普段から不必要な情報をネットに書きこんでいなければ住所の特定などは避けられる。免許証のアップなど論外である。ここで言う不必要な情報とは、自宅近辺で撮影した写真、自宅の窓からの景色を写した写真など挙げられる。

 これらの写真が画像編集ソフトによって解析され、車の窓ガラスに反射した景色から自宅が割り出されたケースも存在する。また、近所にある店の名前(チェーン店であっても特定の手助けになる)、近所で行われた行事(祭りなど)に関しても言及は避けたほうが無難である。

(6)書き込みは冷静に

 繰り返しのべてきたように、Twitter やmixi は友人間でのコミュニケーションに用いられることが多く、そのために仲間内で話しているような錯覚に陥りやすいツールである。だが、それは錯覚でしかなく、実際には世界中からアクセス可能なインターネット上でのやり取りであることを常に頭の片隅に置いておく必要がある。

 したがって、書き込みをする際には、「ツイート」や「送信」ボタンをクリックする前に一呼吸置くことをお勧めしたい。あるいは、メモ帳などにまずは書きこんでみて、それを書き込み欄にコピーするやり方でもよい。コピーの際に改めて読み返すことで、冷静さを少し取り戻すことができるからだ。

 作家の村上春樹はメールを書くさい、書いた文章を一晩寝かせてから送信するのだという。寝かせることでより冷静な文章を送ることができるというのが、その理由である。Twitter などの場合、さすがに一晩置くのは難しいかもしれないが、勢いにまかせて書き込みをすることのリスクは認識しておくべきだろう。