ドナルド・トランプ大統領がアメリカのパリ協定離脱を表明しました。
(※他にも政治と科学に関する重要な論文が掲載されておりましたので、もし興味を持っていただいた方は、雑誌の方もご購入いただければ幸いです)
19日(土)の午後、AAASからは独立しているものの、併催するという形で、トランプ政権に抗議する野外集会"Stand Up For Science" ラリーが開かれた。
これに参加するため、千人を超える人々が、思い思いのプラカードを掲げて、AAAS会場近くのコプリー広場に集まってきており、この情景は日本も含めたアメリカ内外で広く報道されたようである。
当初の案内では短距離ながらデモも行われるのだと思っていたが、この時は10人ほどがスピーチする野外集会だけで終了した。
基本的な視点は、科学者が真実と(AAASのテーマでもある)公共善のために立ち上がるべきだ、というものである。
主催団体は、主に気候変動に関わる社会運動である climatetruth.org (これはAAASの全体講演でも講演し、またこの時もスピーチを行ったナオミ・オレスケスも顧問に名を連ねているNPOである)と、カナダの著名な社会運動家(日本でも『ブランドなんか、いらない』や『ショック・ドクトリン』などの著作で知られる)ナオミ・クラインが顧問を務める thenaturalhistorymuseum.org であり、この他に「憂慮する科学者同盟」やグリーンピース、地域の環境問題などを扱う学生団体が呼びかけている。
AAAS年次総会(2007)、二日目の全体講演は科学史研究者のナオミ・オレスケスによる「科学者は衛視の役割を努めるべきか?」 Should Scientists Serve as Sentinels? 。
オレスケスはハーバード大学の科学史、および地球・惑星科学の教授である。
「気候変動は嘘だ」や「タバコの健康被害はない」と言った「学説」がどのような科学者たちによって繰り返されているかと言ったことを論じた『世界を騙しつづける科学者たち』(上・下)という本を出版しているが、AAASでの講演もそれをなぞる話であった。
科学者の二つのあり方として「科学的に言えることしか言わない」という人と、気候学者のジム・ヘンソンのように逮捕されることも厭わず社会的価値を訴える科学者がいる、とオレスケスは述べる。
オレスケスによれば、ヘンソンまで行かなくても、その中間形態として「責任ある科学者」モデルが必要である。
少なくとも「科学的なことだけ言っていればいい」わけではない。なぜなら、そう言った科学者はしばしば「事実をして自らを語らしめる」と言いたがるが、実際は、事実が自らを語ることは期待できないからである。
温暖化否定論やタバコの害はない、と言った議論に実績ある科学者がコミットするのはなぜだろうか?
一つには産業界からの金、ということがあるが、それだけでは十分な説明ではない。むしろ彼らは自らの価値観のために事実を捻じ曲げている。
一般に、これら否定論者は政府の規制が増大することを嫌うリバータリアンである。
この思想は通常ハイエクに起源を求められるが、レーガンがそれを都合よく利用した。
否定論者の多くはこのレーガン人脈にいるのであり、彼らの目的は規制を緩和し、企業活動の自由度を上げることであり、そのために環境や健康規制の根拠となる研究に否定的な態度を示すわけである。
結論として
「我々の反対者は価値に動機付けられており、その価値は独立独歩であることを尚び、福祉的な問題であっても中央政府の介入を嫌うアメリカの草の根に広がる価値観と共鳴している。
なので、我々(科学者)も価値を語らなければいけない」
のである、とオレスケスは述べる。
その(科学の)価値とはフェアネスやアカウンタンビリティ、現実主義、創造性、と言ったことで、これらが「市場」の価値に対抗できるのだ、というのがオレスケスの結論。
お行儀のよいAAASの講演では珍しく、多くの人がスタンディング・オヴェーションで講演を讃えていた。
NHKでAAASの分科会の一つの様子が「米の科学者たちがトランプ政権への対応話し合う」として報道されているようです。
これは、「憂慮する科学者同盟」が組織した”Defending Science and Scientific Integrity in the Age of Trump” (トランプ時代に、科学と科学の健全性を守る)と題する分科会で、オバマ政権下でアメリカ合衆国科学技術政策局のトップだったジョン・ホルドレン氏らが講演しました。
司会者は「憂慮する科学者同盟」として過去何度もAAASのワークショップを主催しているが、開始15分前には全ての椅子が座っていた、なんていう経験はしたことがない、と会場を笑わせていましたが、これもトランプ政権への危機感の表れでしょう。
ホルドレンのコメントはニュースでは「科学者自身が社会での科学の役割についてわかりやすく伝えるべきだ」というふうにまとめられていますが、この部分をもうちょっと細かく追うと、だいたい次のようなことを言っていました(他の分科会でもだいたい同じようなことを言っていた)。
一つ、決して絶望したり怖気付いたりしないこと
二つ、いつもの通り研究を続ける、ファンディングなどのコミュニケーションも続けること
三つ、それに加えて、いつも以上に幅広く科学と社会の問題に関する情報を入れるようにすること
四つ、何故、どのように科学が重要なのか、科学がどのように機能するのか、なるべく沢山の人に語り続けること
五つ、時間の10パーセントをパブリック・サービスに使うこと。政策決定者への働きかけとか、政治参加といったことから学べることもある。
ところで、大きな会議なので(最近時々見ますが)モバイルアプリが配られています。
気になったイベントはどんどんお気に入りに入れて行くと、勝手に自分のスケジュール帳ができて行く、という感じです。
プログラムやもらった資料の束を抱えて移動することを考えると大変便利。
でも、調子に乗ってお気に入りを増やして行くと、こんな感じになってしまって、あまり意味がなくなる、という↓
アメリカ大統領選、共和党の候補がドナルド・トランプというのがほぼ確定という報道にふれて、ふと思い出したこと。2008年にAAAS(全米科学振興協会)の総会を見に行ったのであるが、その年はブッシュ Jrの二期目が終わった次の大統領を選ぶ選挙の年であった。ところが、共和党は2月初頭の最初のスーパー・チューズデイで早々にジョン・マケインに決定。一方、民主党側はクリントンとオバマが激しい選挙戦を繰り広げることになる(この時のマケインの敗因の一つは、決定が早すぎて、その後の全米の関心が「クリントン対オバマ」に持って行かれてしまったことではないか、という気もするわけである)。
そこで、アメリカだなぁ、と思ったのは、さっそくAAASの総会の臨時企画でクリントン陣営とオバマ陣営の政策討論会を開いたことである。
その時のことは以前ブログに書いたが以下のような感じ。