杜の里から

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EMへの疑問(17) ~プール排水で松島湾はきれいになるの?~

2017å¹´05月07æ—¥ | ï¼¥ï¼­

 

(「はてなブログ」に引っ越しました。該当エントリーはこちらです。)

 

新学期が始まり、いくつかの学校では夏のプール開きに備え、掃除用にプールにEM活性液を投入する姿が話題となる季節となりました。
毎年この活動を見る度自分はいつも気になっているのですが、あの掃除後のプール排水はその後どうなっているのでしょうか。
学校のプールは通常は下水道と繋がれているものですが、中にはプール排水が直接河川に流されるという地域も少なくありません。
そしてその様な所では生徒達が、EMが河川を浄化するなどと教え込まれている事例を見かけます(こことかここやここなど、探してみればすぐ見つかります)。

このプールへのEM活性液投入に関して、非常に気になる事があります。
昨年2016年の11月19日のEM講演で、比嘉照夫氏(以下比嘉さんと呼称)は東京湾がEMで綺麗になったと述べ、その事については比嘉さんの思い違いである事を以前紹介しましたが、その後に比嘉さんはこう続けていたのです(以下強調は引用者によります。)。

で、今度は来春から、松島湾を始めます。
こういう風になってくるとですね、そんなしょぼしょぼの話じゃダメだから、学校のプールを借りてですね、プールにEMを入れますよ。だから学校側も好意的です。
そうすると、上から蓋もしないでもですね、さっきの整流技術をもって、プール一杯で大体400トンから500トンのEM活性液ができる。
石巻から松島湾のこのラインはですね、10何校か協力してくれるという約束になりました。なら10校やったとしても、いきなり5000トンくらい出来ちゃうんです。
あっと言う間に、松島湾きれいになりますね。
で、これはもうEM以外何もしないという漁協との我々との約束があります。
だから、我々がきれいにしたら、皆さん東京湾を我々がきれいにしたというのを信用してくれるかもしれません。

この内容については今年1月発行のEM機関紙「U-net通信Vol.93」の表紙中でも次の様に述べられています。

②新たな水環境改善対策
これまで三河湾や東京湾の浄化は望ましいレベルを達成しましたが、今年は昨年にスタートした諏訪湖、児島湖に続いて松島湾の浄化プロジェクトの支援に取り組みます。海外で行っている500~1000トン単位の活性液培養法を参考に、学校のプールを活用し数年で成果が上がるような取り組みを目指します。

これらの内容から伺えるのは、学校のプールでEM活性液を大量に培養し、それを一気に河川に投入すると受け止められるのですが、法的にも技術的にも果たしてこんな事が本当に可能なのでしょうか?

活性液というのは以前紹介した様に、pH3~3.5ほどの酸性溶液であり、それを培養するためには微生物のエサとなる大量の糖蜜などの栄養素が必要となります。そんな事が学校のプールで出来るのでしょうか?
またその量についても、あの日本橋川でも投入しているのは週に1回、10トンほどで、比嘉さんが講演の中で5000トンと語っているのはあくまで10年間の総量です。
それは東京湾という巨大な量に比べると大海の中に一滴を投入する様なものですが、でもそれが一気に500~1000トン単位で自然の河川に投入されるとしたら、その環境影響は決して無視出来るものではありません。

それが松島湾浄化という名目で湾に流れ込む河川に大量に投入するという計画の様なのですが、ではこんな活動は法的には何も問題はないのでしょうか。
それにまた、講演の中で比嘉さんはこんな気になる事を言っています。

だから、我々がきれいにしたら、皆さん東京湾を我々がきれいにしたというのを信用してくれるかもしれません。

この発言は、東京湾が綺麗になったのは皆が掃除をしたからというEM否定説に対し、あくまでEMの力だと皆に信用してもらうため、つまりEMを宣伝するために松島湾浄化プロジェクトを行うという事を意味しています。
またプールでEM活性液を培養するというのは、そもそも学校プール本来の目的外使用に当たるのではないでしょうか。
つまりこの活動は、一業者の商品の宣伝のために学校プールが目的外使用されるという構図となっている訳です。
果たして学校活動として、これは問題ないのでしょうか。

これらの疑問を宮城県の以下の担当部署に尋ねてみました。
・宮城県土木部河川課
・宮城県環境生活部 自然保護課
・宮城県環境生活部 食と暮らしの安全推進課環境水道班
・宮城県環境生活部 環境対策課 水環境班
・宮城県保険環境センター 水環境部
・宮城県教育委員会 義務教育課
・国土交通省 東北地方整備局 塩釜港湾・空港整備事務所

そして宮城県義務教育課と宮城県環境生活部環境対策課水環境班から以下の回答がありました。
(宮城県義務教育課より)
・ プール排水については,防火用水になっていることもあることから,各学校が各市町村教育委員会に排水の時期等を報告し,消防法との関係から消防署と連絡を取って実施していること,また,下水道の容量等の関係から水道課とも連携し,一度に排水するのではなく,地域と連絡を密に排水していることが多いと聞いております。
・ 学校の設置者は市町村教育委員会であり,各学校はその指示,指導の下,対応していると捉えております。
(宮城県環境対策課水環境班)
・学校のプール由来の排水について、直接的に規制できる法令については確認できませんでした。

学校のプール排水については、そもそも学校は事業者ではありませんから、水質汚濁防止法の対象外となっている事は以前から確認していました。
しかしそれは、元々浄化設備が完備されているプール排水の水質は、そもそも下水よりもはるかに綺麗であるという前提があるからで、まさか環境基準以下の汚水が放流されるとはだれも想定していなかった訳です。
しかし現在、環境のためという名目の元で微生物資材の投入活動が広がるにつれ、極端な投入活動が何の疑問もなく行われようとしています。
この様な活動に関しては、行政としても何らかの規制が必要ではないのかと思わざるを得ません。
たとえ国の法律には明記されていなくても、せめて県や市の条例として、放流出来るのは河川環境基準値内などとという制限ぐらいは設けるべきではないか、そんな思いを強く抱きます。

またこの様な活動に対して環境の専門家はどう思っているのか、それは自治体のみならず各学校単位でも確認する事は可能です。
今回プール排水でEM活性液を培養するなどという活動を行っている学校は、まずはその活動が妥当なものであるか否か、専門家に伺いを立ててみる事を強く要望するものです。

参考までに関係団体へのリンクを貼っておきます(五十音順)。
 ・環境科学会
 ・国立環境研究所
 ・日本環境学会
 ・日本生態学会
 ・日本微生物生態学会
 ・日本ベントス学会
 ・日本水環境学会
 ・日本水処理生物学会
 ・日本陸水学会
 ・松島湾アマモ場再生会議

プール掃除のためにEM活性液を投入した時、その排水中に微生物がどれぐらい存在するか観察した学校や、その排水が果たしてどれほど環境に負荷を与えるかなどを検証した学校を私は知りません。
またプール掃除に投入する微生物資材は別にEMばかりではなく、マイエンザなど他の資材でも行われています(→一例)。
ただ掃除が楽になるからというばかりではなく、微生物資材を入れる前のプールの水質データを記録し、投入後から排水までの期間、そのCODやpHなどの水質の変化を観察していくというのも立派な環境学習になるはずです。
また、公益財団法人日本学校保健会が発行した「学校における水泳プールの保険衛生管理 平成28年度改訂版」のp.62にも、微生物資材によるプール掃除についての注意書きが書かれています。
教師の方々は、ぜひじっくり読んでいただきたいと思います。

環境問題を考えるなら、まずは自分達の足元の環境をしっかり観察して把握するという考え方を、学校側にはぜひとも望むものです。

(参考)
・EMへの疑問(14)~活性液って何?~
・EMへの疑問(15)~活性液はどれぐらい汚いの?~
・EMへの疑問(16)~東京湾はEMで浄化されたの?~
・学会はもっと吠えるべし



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ものは言いよう (たろう)
2018-12-17 08:55:40
EM活性液と言えば何となく良いものの様なイメージが湧きます。しかし、EM汚染液と言えば何となく悪いものの様なイメージが湧きます。プールを洗浄するなら、そのEM活性液とやらがどんな洗浄力があるのかを検証する必要があります。
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イメージ先行 (OSATO)
2018-12-17 23:19:21
いらっしゃいませたろうさん、ご無沙汰しております。

EMの問題点の一つに「イメージ先行」というのがあり、他で使ってるから多分効くだろうとか、皆がやってるから良いものと思い、良い結果が出たらそれはすべてEMが効いたのだと思い込んでしまうという問題があります。
この「思い込み」こそが、EMを教育現場に浸透させてしまった一因でもあり、また「検証する」という科学の一番の基本を忘れさせてしまう、一番困った問題でもあるのですね。
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