世の中の出来事が、ひとの心を打ち、そのひとの考え方や行動を変えてしまうとき、そこには、単なる事実ではない、「真実」が存在する。

それを、マーケティングでは、インサイトと呼びます。

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おにぎらず
昨年からおにぎらずが流行っています。 ブームはもう過ぎたのかと思ったら、ネット上からレシピ本に移行し、おにぎらずの本が何種類も平積みされている!!!!


えっ、おにぎらずを知らない??? それはいけません。 妖怪ウォッチを知らないのと同じくらい、いけません。 知らない方はいますぐ調べましょう。


さて、なぜ、おにぎらずがここまで流行っているのでしょうか。そのインサイトについて、考えてみます。

とある食品メーカーQさんが、おにぎらずのヒットを受けて、おにぎらずがなぜ流行っているのか、そこに何かヒントが無いか探ろうと、主婦の皆さん3名に集まっていただき、座談会・グルインを開くことになりました。 (この時点で失敗は、ほぼ確定ですが・・・、ちょっと聞いてみましょう。)

Q.  皆さん、おにぎらずを作ったことはありますか?

A.  (1~3、全員)ありますよ~!(全員)

Q.  おにぎらずって、どんな感じなんですか?

A.  1.すごい簡単ですよ!

   2.海苔に乗っけて包むだけだから楽だしね。

   3.そうそう、おかずの残りを包んじゃう、っていうのもありなんですよ~

Q.  なぜおにぎらずを作ってみようと思ったんですか?

A.  1.今、流行っているじゃないですか。面白そうだから、って。

   2、おにぎらず、っていう名前も面白いですよね。

   3.友達が作ったら簡単だった、って言っていたんで。

Q.  なぜおにぎらずって流行っているんでしょうかね?

A.  1.お弁当毎日作るの大変だから、やっぱり楽だからですかね~。

   2.おにぎりとおかずを一度に作れる感じ?手間がかからない。

   3.COOKPADにたくさん載っているんで、それ見たらすぐできるんですよ。

Q.  ほかにもおにぎらずがいいなあ、と思う理由ってありますか?

A.  1.見た目がきれい。半分に切って入れるとカラフルになってお弁当向き!

   2.子どもも食べやすいみたいですよ。

   3.あ、あとは手が汚れない!握らないんだもん(笑)

Q.  これからも作ろうと思いますか?
A.  (全員)そうですね。

さて、おにぎらずはなぜ流行っているのでしょうか。

Qさんの結論。

  手間がかからず、簡単にできる。

  彩りがよく、お弁当に向いている。

  ネーミングの面白さなど、話題性がある。


おそらく、誰に聞いても、手間なし、簡単、といった答えが返ってくると思います。 これらを満たす商品を作ったら果たして売れるんでしょうか。 …売れない気がします。


実は、これらは重要なことではないからです。 インサイトは別のところにあります。


だって、そう思いませんか? 毎日お弁当を作っているような主婦にとって、おにぎりが手間なはずがない。 ご飯に、例えば昆布でも入れて握って海苔まけば終わりなわけです。 それが手間ならギュギュっと詰めてパカッとあける、おにぎり作る専用道具、ありますよね。 なんなら日の丸弁当でもいいわけです。 私からすると、おにぎらずも十分手間がかかっている気がします。


では、本当に重要なことは何でしょうか。

主婦のインタビュー、やり直してみます。

毎日お弁当を作っている幼稚園ママのご自宅に行って、個別インタビューをします。

(座談会はダメです。その理由は後で述べます)


Q.  (過去1週間の毎日のお弁当を、写真にとっておいてもらい、見ながら。)

   毎日のお弁当作りはどうですか?

A.  いやー、大変です。何を入れるか、考えるのが大変。

   毎日同じようなのになっちゃいますよね。

Q.  どうやって決めるんですか?

A.  前の日の夕ご飯の残りを入れちゃうときもあるし、冷蔵庫開けて、材料見て作れるもの考えたり。 あ、時々子どもからリクエストがあるので、それは逆に助かるかな。

Q.  どうして助かるんですか?

A.  悩まなくてすむんです。 子どもが絶対喜ぶし。

Q.  お子さんが喜ぶのは大事なんですか?

A.  やっぱり全部きれいに食べてきてくれるとうれしいですね。 おいしかった日は「おいしかったよ~お弁当箱見て~」っていうんです。

Q.  へー、それはうれしいですね。

A.  あとは、女の子なんで、本当はキャラ弁がいいみたいなんですけど、そういうの苦手なんで、せめてこんなのを使って可愛くしてあげようと思って。(と、クマやウサギの型抜きを見せてくれる。)

Q.  やっぱり喜ばれますか?

A.  朝、内緒にしておくんです。 お弁当開けた時に喜んでもらいたいなと思って。それを想像しながら作ります。 毎日は無理ですけどね。 時々。

Q.  さっき、毎日同じようなものになっちゃう、っておっしゃいましたが、同じようなお弁当だとダメなんですか?

A.  飽きると思うし、幼稚園で言うみたいなんですよね。 ○○ちゃんのお弁当、また卵焼き入ってる~、みたいな(笑)。

Q.  なかなか厳しいですね。

A.  大人でも毎日同じお弁当は嫌じゃないですか。 毎日入れてしまうものもあるんですけど、メインは違うのにしたいな~、とか。

Q.  メインはどうやって決めるんですか?

A.  私が魚が苦手なのでついお肉系になっちゃうんですけど、なるべく肉、魚を交互にしたり。 でも、朝から手間暇かけてられないので、お肉炒めてケチャップで味付け、みたいな手抜きです。

Q.  でもお写真見ると彩りきれいですよ。手抜きには見えない!

A.  そうですか?実はうちの母が作るお弁当が、美味しかったんですけど茶色くて…ちょっと恥ずかしかったんですよ。 だからとりあえず茶色にはしたくないんですよね(笑)。 でも手抜きしまくりです。

Q.  手抜きじゃないお弁当、ってどんなだと思われますか?

A.  いるんですよ、同じ幼稚園のママさんで。 お弁当がすっごく凝っているって聞いて、写真見せてもらったときびっくりしました。 炊き込みご飯とか、飾り包丁っていうんでしたっけ? にんじんが花だったり(笑)。 こりゃ無理だ、って。

Q.  ところで、おにぎらずって作ったことあります?

A.  ありますよ。 最近流行ってますよね。

Q.  写真の中にはないようですが。

A.  そんなにしょっちゅう作るわけじゃないんですけど、時々思い出して、あ、今日はおにぎらずにしちゃえ!って。

Q.  しちゃえ!ってどういうことですか(笑)?

A.  楽なんですよ。 かさがあるので、お弁当箱が埋まる(笑)。 子どもも面白いみたいで、喜ぶし。 でも毎日おにぎらずは、ちょっとないじゃないですか。

Q.  どうしてですか?

A.  飽きるでしょ。サンドイッチ毎日しないのと同じです。 時々入れるくらいで。

Q.  なるほど。 おにぎらずが楽っていうのはどんなところが楽なんですか。 手間がかからない?

A.  考えなくていいんですよ! 本当にサンドイッチと同じ感覚。 それさえ作ればお弁当箱が埋まる! 楽ですよね~。

Q.  これからもおにぎらず、作るんですか?

A.  そうですね。 思い出したときに(笑)

お弁当を作るときのママの気持ちがいろいろと表現されていますが、おにぎらずヒットの理由とつながりそうなところを挙げてみます。
(ちなみに、Aさん、手抜き、手抜き、とおっしゃってますが、1週間のお弁当は毎日違ったものを、ほぼ手作りで、手抜きではないですよね。 ただ、おそらく料理やお弁当作りが得意だと思ってないのでしょう。 頑張ってる、という感じです。)

  いつも違った(見た目、栄養的にも)メニューにしたい。

  料理・お弁当作りはちゃんとやっているが、得意なわけではない。

  毎日のメニューに悩んでいる。

→ そのバラエティーの一つとして、おにぎりの代替になる。あまり考えなくていい。

  子どもが蓋を開けたときに喜んでほしい

  残さずきれいに食べてほしい

  残さず食べてくれた・「おいしかった」「また作って」が、とてもうれしい。

→ 誰でも食べやすく、彩りもきれいで食べる人が喜んでくれる。

どうでしょう。少なくとも「時短」が流行の理由でないことはわかると思います。


インサイトを知りたいとき、2つのコツがあるように思います。

1.        モノや行動について、ではなく、生活者の生活をまず知り、その中での、モノや行動の意味、役割、気持ちを知る

2.        言葉だけの情報ではなく、ことばにならないもの、生活全般の行動や環境を知る

正直、私たちは生活の中で、ひとつひとつのモノについて、それほど深く考えているわけではありません。 「自分で選んで買っているんだから・使っているんだから思い入れがあるに違いない!」というのは売り手・作り手の思い込み。

おにぎらずも、あくまで生活の一部のお弁当作り、という行動にちょっとでてくるアイテムにすぎません。 もちろん、おにぎらずのことを聞かれると考えていろいろと答えてはくれますが、あくまで後付けの、頭で考えた内容です。 そうではなく、お弁当作りについて、もしくは料理一般でもいいと思うのですが、一歩下がって理解すると、その中でおにぎらずがどう位置づけられているのか、こちらでイメージできます。

あと、座談会はダメです、といいましたが、ダメな理由はふたつ。

ひとつ目は、言語情報に頼らざるを得なくなること。

もうひとつは、料理やお弁当作り、といった、非常に個人的な内容については、人前(特に同じ主婦同士)ではあまりホントのことを話してくれない、ということです。 家事ネタでよくあるのは、「うちは適当です・うちも普通です」という流れです。 「うちも手抜きですよ~」というのは全くあてになりません。 本当は結構頑張ったり工夫したり、しているものです。 (あるいは、実際手抜きの人もいますが、なんせ座談会では区別がつきません。)

おにぎらず同様、インサイトブームもしばらく続きそうです。

表面的な「インサイト」(という名のニセモノ)に騙されないよう、お気を付けください。


ちなみに、おにぎらず予想。

今後ブームはひと段落し、お弁当の一メニューとして、それなりに残るのではないかな~。話題性が強くなりすぎると、その反動で定着しないかもしれないですが、主婦ニーズ的には細く長く続くものだと思います。

K