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えとじや、お。でございます。
すでにFacebookページでご紹介させていただきましたし、
直接お会いいただいた方もいらっしゃるかもしれませんが、
ブログには初登場、
弊社の新しいメンバー、
和。(山下 和美)です。
(プロフィールはこちら。)
さて、彼女の最初の記事です。
「私が『ワインの仕事って素敵だろうな』と思ってしまうのはなぜ?」
いやいや、それはお酒が好きだからでしょ、
という話ではなく、ブランドマーケティングのお話です。
いつもの、えとじやの記事とは、少し違った趣、
お楽しみいただければ、幸いです。
株式会社えとじや お。(岡本 晋介)
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「ワインを売ること・ワインのブランドをつくること」は、とても楽しい(やりがいのある)お仕事だろうな、と思います。
マーケティングをやったことがある人なら、「いいな~、やってみたいな~」と、うらやましく思うはず。
特に、長くマスブランドに携わってきた私は、そう感じます。
どうしてこんなにもワインの仕事をうらやましく思うのか?
それは、ワインには、マスブランドでは苦労して探さないと見つからない(苦労しても結局見つからないかもしれない)「ブランドマーケティングに大切な2つの要素」が、あらかじめ備わっていると思うからです。
まず、ひとつは「ブランドストーリー」。
ワインには、ブランドを語るためのストーリーや、ストーリーのもとになる種がふんだんにあります。
例えば、その土地でなぜワインが作られるようになったのか、といったブランドの生い立ちや歴史。
ブドウの品種やその味わいなど、原料に関する話。
ブドウがとれる土地の土壌や気候の話。
そして、作り手の想いや、よりおいしいワイン作りのための試行錯誤や挑戦にまつわる話、などなど。
思い出してみてください。 ちょっといいワインを開ける時、テロワールだとか当たり年だとか、いろいろうんちくを語る人、いますよね。 それが、まさに「ブランドストーリー」。
世の中には1,500~2,000円以上のワインがたくさんありますが、冷静に考えると飲み物の値段としてはずいぶん高いですよね?
それは、単なる飲み物の値段ではなく、うんちくも含めた価値だからです。
ストーリーがあるとブランド価値が高まる。
「うんちくを聞くと、急にワインがおいしく感じる」といったようなもの。 それだけ、ワインにとってブランドストーリーは大事なものなんです。
先ほど挙げたように、ワインには、歴史から、原料、気候まで様々なアングルでストーリーが存在します。
このように、つい語りたくなるような素敵なブランドストーリーがバラエティ豊かにあって、しかもそれが飲む人にあたりまえのように期待されている、というのは、もしかするとワインならではなのではないでしょうか? ハイファッションブランドやハイクラスの車でも、ここまでではないように思います。
実は、私が長く携わってきた、洗剤やシャンプーなどのマスブランドでも「ブランドストーリー」は大切です。それによって価値を高める努力もします。でも、多くの場合、ストーリーを探す・作るところから始めないといけないし、そもそもお客さんの「豊かなブランドストーリー」に対する期待が高くない(カテゴリーとしての関与度がワインほど高くない)ので、作るのも伝えるのも、なかなか思うようにはいきません。
さらに、ワインの恵まれているところは、なんといってもワイナリーで「試飲」と称してブランドストーリーを直接お客様に伝える機会があることです。
これは、マスブランドでは滅多にできない、うらやましいことです。 テレビCMだと、与えられた時間はたったの15秒。 いつもメッセージの取捨選択に苦労します。 しかも、相手がどんな顔をしてCMを見ているのか、それ以前に、ちゃんと見てもらえているかさえもわからない。 好きになってもらい、ファンになってもらうのは、さらに困難を極めます。
でも、ワイナリーの試飲では、相手は目の前に座っている。 対面で数分~数十分間、ワインを味わってもらいながら、相手の反応を見ながら、じっくりブランドストーリーを伝えることができるのです。
ストーリーが存在して、期待され、しかもそれをじっくり伝える機会がある。 やっぱり、ワインの仕事はたのしそうです。 (もちろん、そうするための苦労や投資も必要でしょうし、マスブランドにはない苦労が、たくさんあるんでしょうけど。)
ここまで、「ブランドストーリー」の話をしてきました。
次に、ブランドを体感・体験できる「ブランドのふるさと」の話をしたいと思います。 これも、ワインが独自に持っているブランドマーケティングに大切な要素です。
ワインには、ブドウの産地と結びついた「ふるさと」が存在します。
フランスならボルドーやブルゴーニュ、日本なら甲州。 さらには、その中でもどこの地区なのか、どこの畑なのか。
一方、ほとんどのマスブランドにはふるさとは存在しないか、存在したとしても、ただの研究室だったり、もしくは、歴史として語られるだけで、すでに実在していないことが多いです。
かろうじて、エルメスなどハイファッションブランドなどの「本店」や、スポーツ施設だらけのナイキの「本社」、などがその役割をしているくらいです。
「ふるさと」はそのブランドにとっての象徴であり、メッカのようなもの。 そこに行って身を置くと、ブランドの世界観を体感できるといった場所です。
ワインでいうと、ブドウ畑の景色を見て、陽の光や風を肌で感じて、土を触って、ワイン作りを見て、嗅いで、味わって、と、五感で感じること。
この体験は、ブランドを強めるうえでとても大切です。
体験することによって、ブランドをより理解して、身近に感じ、好きになってもらえる(可能性が高い)からです。 聞くより見る、見るより感じる、そして究極は、体験することですから。
「日本酒にだって蔵元巡りがあるじゃないか」、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。 もちろん日本酒にも酒造りのふるさとはありますが、原料の米の産地とは切り離された醸造場所であることが多いようです。 たとえすぐ近くであったとしても、「蔵元巡り」に田んぼを見に行こう、という考えはないように思います。
そういう意味で、ワインのように、原料の生産から醸造までをひとところでおこなっていて、産地に根付いたふるさとを持っているのは珍しいことなのかもしれません。
ワインの産地というのは、最近流行のB級グルメのように観光客を呼んでエリア内消費をさせる観光地という役割ではなく、かといってブランド野菜の産地のようにエリア外消費のために原料を供給するだけの場所でもない。足を運んでブランドを体感してもらって、ブランドを好きになってもらって、戻ってからもずっとファンとして消費し続けてもらう。
そういうきっかけを作る大切な「ブランド資産」なんだと思います。
ワイン作りをされている方にとっては、身近すぎて気づかないかもしれませんが、ワインが持っている、この「今そこに実在するブランドのふるさと」は、ブランドにとって実はすごい宝物なんです。
工業製品のマスブランドをやっていた私から見ると、ホントにすごいな~、いいな~、です。
話に聞くと、フランスやイタリアのワインの産地では、ブドウ畑がワインのブランドの一部として管理され、景観を地域ぐるみで保全しているところも多いそうです。 だからこそ、町に足を踏み入れたときの「ワインのふるさとに来たんだ~」という実感や、ワイナリーに近づいていくときのワクワク感を演出することができるのでしょうね。
さて、実は先月、山梨に行ってきました。
お昼過ぎに着いて、夕方まで、という短い時間でしたが、「ブランドストーリー」と「ブランドのふるさと」という資産が、日本ではどんなふうにブランディングに使われているのかを、うらやましさ半分、楽しみ半分で覗いてきました。
もちろん全てを見たわけではなく、ワイナリーをいくつか巡っただけですが、せっかくのブランド資産を、もっともっとうまく活かせるのに、もったいないなと感じることが多々ありました。
例えば、町の景観や雰囲気。 もっと地域ぐるみで甲州ワインの世界観を大事にして、訪れた人に体験させる施策があってもいいのにな。 「観光資源」という意味だけではなく、ブランド体験の最高の場として、という意味で。 また、試飲の際も、「どんな味がするか」だけでなく、もっと作り手のこだわりや畑など、ブランドストーリーが語られてもいいのにな、と少し残念に思いました。
そんな中で、とある有名ワイナリーのオーナーさんは、ブランドにこめた想いや、土地の歴史、生産者の挑戦などを語ってくださいました。 とても素敵な試飲スペースで。 お話もお上手でとても情熱的でした。
そういうお話を聞くと、同じワインが急に貴重なものに思われ、ひとくちひとくち大切に味わいたいと思い、よりおいしく、愛着さえ感じるのは、不思議ですよね。
また、「畑も景色も周りを全て含めてワイナリーだ」という考えから、窓から見える景色にもこだわっておられるのですが、そんなオーナーさんが、「景観に関しては、すべてをコントロールすることができず残念だ」とおっしゃっているのを聞いて、「やっぱりそうなんだ」と思いました。 ワインのふるさとらしい景観を作り、守るために、建物の形や色や規模、電柱や、看板や、地名の表記やそのスタイルなど、やるべきことがたくさんあるでしょうから。
簡単なことではないけれど、地元住民や自治体などの協力を得た、地域ぐるみの施策が不可欠なんだなと感じました。
山梨には、甲州ワインをプレステージワインとして売るための「ブランドストーリー」と「ブランドのふるさと」がある。
しかも知名度があって、東京から1時間半の好立地。
興味を持ってわざわざ足を運んでくる人がいる。
もしかしたら地元の人には当たり前すぎてピンとこないかもしれませんが、うらやましいほど貴重な資産なので、さらにブランド作りに活用して、甲州ワインファンを増やしてほしいな、と感じたワイナリー巡りでした。
和。