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オープンイノベーションとCVCの実践者

顧客の声を再解釈し、未来を描く“コマツ流御用聞き”──徹底した現場主義とオープンイノベーションの加速

【前編】株式会社 小松製作所(コマツ) CTO室 Program Director 冨樫良一氏

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 日本を代表する建機メーカーの小松製作所(以下、コマツ)。建機業界では世界有数のシェアを誇り、近年では建設現場をデジタルの力で見える化する「スマートコンストラクション」など、数々のイノベーションを実現している。そして、その原動力となっているのがCTO室だ。コマツでは、CTO室がスタートアップなどとの橋渡し役となり、数多くの外部技術を調達している。次々にオープンイノベーションを実現し、新たな製品を世に送り出す秘訣はどこにあるのか。CTO室のProgram Directorを務める冨樫良一氏に話を聞いた。聞き手は、『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業』(中垣 徹二郎・加藤 雅則 著、根来 龍之 監修 日経BP)の主著者である中垣徹二郎氏。

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CTO室創設のきっかけとなった「二つの非常事態」

中垣徹二郎氏(以下、敬称略):コマツは日本企業のなかでもいち早くオープンイノベーションに取り組み、数々の際立った実績を残しています。その活動を『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業』でも取り上げているのですが、コマツがオープンイノベーションに力を入れはじめたのはいつ頃からでしょうか。

冨樫良一氏(以下、敬称略):コマツはかなり以前からオープンイノベーション的な活動に取り組んでいるので、起点となる時期があるわけではないのですが、一つの契機となったのは2012年だと思います。2012年は当時の社長である野路(野路國夫氏、現コマツ特別顧問)の任期最後の年でした。野路は2007年に社長に就任して以降、順調に業績を拡大させていましたが、2008年にリーマン・ショック、2011年に東日本大震災に直面し、大きな危機感を抱きました。二つの非常事態が立て続けに発生し、社会全体の不確実性が高まっていくなかで、次世代に向けた新たな活路を見出さなければいけない。そうした問題意識のなかで取り組んだのが、オープンイノベーションでした。野路は2012年の丸々1年間を掛けて、オープンイノベーションの方針や組織体制を構想するプロジェクトを推進。任期最後の年の重点事項としてオープンイノベーションの体制づくりに取り組みました。

中垣:その活動が、冨樫さんが責任者を務めているCTO室の設立につながるわけですか。

冨樫:はい、そうです。その際に、プロジェクト専任の番頭的な役割を担っていたのが私でした。その後、野路は社長を退任し、2013年に経済同友会のイノベーション分野の政策提言を行う科学技術・イノベーション委員会の委員長に就任しました。その活動に私も補佐役として参加しています。この委員会ではドイツやシリコンバレーを訪れ、現地のスタートアップや研究者、VCなどにヒアリングを実施。その調査結果を、2014年2月に発表された「民間主導型イノベーションを加速させるための23の方策—産学官の効果的な連携を目指して—」という政策提言書にまとめています。

 この提言書のポイントは、民間主導型のイノベーションを実現するには、「企業によるビジョンの提示」が必須だとしている点です。グローバル市場のなかで日本企業が競争力を高めていくためには、将来の社会や技術動向を見据えながら、自社のありたい姿を明確化する必要があります。しかし、多くの日本企業はこれが不十分です。また、「イノベーションを牽引する責任者の役割」を強調しているのも重要でした。例えば、当時すでにイノベーション創出の責任者としてCTOを設置する企業が増えはじめていましたが、実態は開発本部長とほぼ変わらず、本来の仕事である長期視点での技術戦略やオープンイノベーションには十分取り組めていないのが実情でした。

 こうした問題が浮き彫りになるなかで、先陣を切って解決策を見出したいというのが、CTO室設置のきっかけでした。2014年4月にコマツはCTO室を設置し、その責任者に私が就任しました。当初は私一人の部門だったのですが、その後徐々に組織を拡大し、オープンイノベーションの専門チームとして活動するようになりました。

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島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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