コスプレと著作権
今日は、広島の方で「イベント:同人誌・コスプレの自由と、著作権訴訟」という target="_blank">イベントがあるそうなので、コスプレと著作権の関係について考えてみましょう。
「コスプレ衣装専門店の経営者が、『海賊戦隊ゴーカイジャー』のキャラクターが着るジャケット4点を、著作権者(東映)の許可を得ずに複製されたと知りながら、3万2000円で売った疑いで逮捕された」事件を覚えているでしょうか。
この事件は、コスプレ衣装が「輸入の時において国内で作成したとならば著作権の侵害となるべき行為によって作成されたもの」であることを前提に、その情を知ってこれを頒布した行為を著作権侵害行為とみなしたものです。
第百十三条 次に掲げる行為は、当該著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。
一 国内において頒布する目的をもつて、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権の侵害となるべき行為によつて作成された物を輸入する行為
二 著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為によつて作成された物(前号の輸入に係る物を含む。)を、情を知つて、頒布し、頒布の目的をもつて所持し、若しくは頒布する旨の申出をし、又は業として輸出し、若しくは業としての輸出の目的をもつて所持する行為M/p_,
しかし、コスプレ衣装を作成することが著作権侵害行為にあたるとする警察の法解釈は、これが判例として定着すると、その影響力は甚大です。
「コスプレ」は、政府が推進する「Cool Japan」の中核をなすコンテンツの1つであり、自治体の中には、コスプレサミットを開くなどして、世界中のアニメファンを呼び込んできたところもあるからです。コスプレイベントに参加するアニメファンたちがアニメの権利者から事前に許諾を得るということは事実上困難ですし(とりわけ、今日では外国在住の外国人もコスプレをしに日本に来ます。)、イベント運営者が代わりに権利者から許諾を取ると言うことも困難です(許諾を取れた権利者の作品についてのコスプレしか認めないという運用は実際問題無理でしょう。)。したがって、この件が立件され、起訴され、有罪判決が下されるようなことがあれば、この国では、事実上コスプレイベントが開けないということになります。
実際のところは、いかがでしょうか。
まずは、「海賊戦隊ゴーカイジャー」が、ゴレンジャー以来連綿と続く「スーパー戦隊」シリーズの1つであり、そもそも実写テレビ映画がオリジナルだということに注目してみましょう。ここでは「キャラクターが着るジャケット」は、まさに最初からジャケット、すなわち、衣装としてデザインされているということです。
衣装のデザインについては、意匠登録がなされた場合に限り、意匠法により保護するというのが原則です。例外的に、純粋美術に匹敵する高度の観賞性が認められる場合に限り、著作権法による保護の対象となるとするのが、判例・多数説です。
すると、ゴーカイジャーが身につけているジャケットは、多少派手ではあるものの、ジャケットという枠を超えて、純粋美術として鑑賞するに値するかと言われれば、私にはそうは思えません。そうだとすると、このジャケットデザイン自体は著作権法による保護の対象とはならず、これと同じデザインのジャケットを輸入して販売しても、113条1項1号のみなし侵害にはあたらないということになります。
では、仮に「海賊戦隊ゴーカイジャー」がアニメ作品だったらどうでしょうか。アニメのキャラクターが普段身につけている衣装のデザインは、アニメキャラクターという「著作物」の一部として、著作権法による保護を受けることになるのでしょうか。
これには2通りの考え方があろうかと思います。
1つは、衣装デザインがそのアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」にあたるといえる場合に限り、それを直接感得しうるような形状の衣装を作成することは「複製」に当たるとする考え方です。ただし、アニメキャラクターの表現上の本質的特徴部分は、顔立ちや体つきにあるのが通常なので、たいていの場合衣装デザインが似ていると言うだけでは、元のアニメキャラクターの「表現上の本質的特徴部分」を直接感得できることにはならないとする考え方です。
なお、コスプレイヤーの顔立ち及びスタイル、髪型等により、一層特定のアニメキャラクターを想起させるコスプレというのもあるとは思いますが、人体を用いて表現している要素を織り込んで著作物を「複製物」とするのは、「人を『物』として扱ってよいか」という問題を生じさせるように思います。「複製物」という場合の「物」は、有体物を指しているからです。
もう1つは、衣装のデザインの類似性は基本的に意匠法で対処すべきなので、アニメキャラクターの衣装デザインと類似する衣装が製作されたとしても著作物としての利用がなされていないので原則として著作権侵害とすべきではないが、例外的に、その衣装が純粋美術に匹敵する高度の観賞性を認められるようなものであった場合には、美術の著作物として有形的に再製されたとする考え方です。商標法においては、形式的には第三者の登録商標を使用している場合であっても、商品等の出所を識別するという商標本来の用法で使用されているわけではない場合には、「商標としての使用」ではないので、商標権侵害にはあたらないとするのが判例・通説です。この考え方を著作権法にも応用して、衣装のデザインが著作物たるアニメキャラクター衣装デザインと類似するものであったとしても、その衣装のデザイン自体が高度の観賞性を有せず、著作物としての評価を得られる類のものに至っていない(意匠として評価されるにとどまる)場合には、「著作物」としての衣装デザインが有形的に再製されたとはいえないので、「著作物としての利用」ではなく、著作権侵害にはあたらないとするのです。
いずれにせよ、このような難しい法律問題を、著作権法のエキスパートではない検察官に提起させ、著作権法のエキスパートではない刑事裁判官に判断させるのはいかがなものかという気はします。コスプレ衣装をネット通販で売っていたということは、特定商取引法に基づく表示がなされており、その営業主体がどこの誰であるかを権利者は容易に知り得たと思いますので、警察は「民事でやれ」と突き放すべきだったのではないかという気がします。
Posted by 小倉秀夫 at 01:04 PM dans au sujet de la propriété intellectuelle | Permalink
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