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03/16/2007

著作権の保護期間延長問題は人格権とは関係ない

 著作権の保護期間の延長問題で、しばしば誤解されている点が1つあります。著作権の保護期間が経過すると著作者人格権まで消滅すると思われている節がどうもあります。

 例えば、ITmediaに掲載されていた三田さんの発言ですが、

 著作者の意志を尊重し、著作物の同一性を守るために延長が必要という意見もある。「孫子のために財産を残したい、という訳ではない。これは著作物の人格権を守るための議論だ。例えば谷崎潤一郎の保護期間がもうすぐ切れる。切れてしまえば、谷崎の作品を書き換えてネットで発表するようなファンが出てくるだろう。もっとエロくしようとか、もっと暴力的にしようとか。文学はWikipediaではない。書き換えられては困る」(三田さん)
法律的にいえば、著作物の同一性を守るためということであれば、著作権の保護期間の延長というのは全くの意味がありません。

 まず、著作者人格権は、他の人格権と同様に、一身専属権なので、相続の対象となりません。著作者の死亡と同時に消滅します。では、著作者が死亡した後であればその著作物に対して何をしても良いのかというとそうではなく、著作権法60条は、

著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。
と定め、「その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合」でない限り、「もっとエロくしようとか、もっと暴力的にしようとか。」ということは、著作権の保護期間とは無関係に禁止されます(もっとも、「もっとエロくすることが谷崎の「意を害する」(「意に反する」ではありません。)といえるのかは難しいところですが。)。

 実際、著作権法116条1項は、

著作者又は実演家の死後においては、その遺族(死亡した著作者又は実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹をいう。以下この条において同じ。)は、当該著作者又は実演家について第60条又は第101条の3の規定に違反する行為をする者又はするおそれがある者に対し第百十二条の請求を、故意又は過失により著作者人格権又は実演家人格権を侵害する行為又は第六十条若しくは第百一条の三の規定に違反する行為をした者に対し前条の請求をすることができる。
と定めており、著作権の保護期間が経過したか否かにかかわらず、「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為」を差し止める権限を、その著作者の遺族(但し、孫まで)に与えています。

 また、著作権法120条は、

第60条又は第101条の3の規定に違反した者は、500万円以下の罰金に処する。
としており、著作者人格権侵害の場合の法定刑(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科)よりは軽いものの、著作権の保護期間が経過したか否かにかかわらず、「著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為」はいつまでも刑罰の対象となり続けるのです(しかも、この場合は、親告罪ではないので、遺族等の告訴は不要です。)。

 立法提言を行うにあたっては、現行法の正しい知識が必要かと思います。

Posted by 小倉秀夫 at 01:23 AM dans au sujet de la propriété intellectuelle |

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Commentaires

三田氏の発言で疑問に思ったのですが。

たとえば谷崎潤一郎をエロくしようと暴力的にしようと、それはあくまで“パロディ”であってそういった要素を付け加えたのは谷崎ならぬ“二次著作者”ということになります。
その作品を『谷崎潤一郎作』として発表すれば、それは当然その様な作品を発表する意図などなかった谷崎の人格を傷つけるものでしょうから、人格権の侵害であることは判りますし、それを遺族が公表権に基づいて差し止めを行うことは妥当性を感じます。

しかし、あくまで二次著作者が『二次著作物であること』を宣言したうえで発表した場合はその二次著作物の二次著作物たる評価は二次著作物の作者に帰するものであって、元著作物の作者の名誉や評価とは無関係であるはずです。

どうも三田氏の発言は二次著作物やその発表自体を人格権侵害と主張しているように読み取れるのですが、これは拡大解釈ではないのでしょうか?。

Rédigé par: 技術屋 | 1 août 2007, 06:43:51

彼らが望んでいることが保護期間延長によって本当に満たされるのかどうか、彼ら自身がもっときちんと勉強して理解していかなければ不幸な結果が生じてしまうのではないかと思います。書籍の貸与権を復活させれば漫画喫茶を押さえると勘違いした人たち、そして、レコード輸入権を設ければ、国内の音楽産業が復活すると勘違いした人たちのように・・・。

1月31日開催の文化審議会著作権分科会(第21回)の議事録抜粋です。ちょっと長いですが、文化庁のサイトにはまだ掲載されていないようなので参考までに。それにしても文化庁、いったいいつになったら載せるつもりなんでしょうかね。

【岡田委員】すみません。ついでに言わせていただきます。延長の件ですけれども、主に保護期間延長をしたい、一方でさせたくないという人たちは、財産権のほうから入っていらっしゃる。そこで意見がぶつかっているような気がするんですけれども、我々著作者としては、ぜひとも人格権というものにも目を向けていただきたい。作品の内容が、より長く正しく残っていくということが我々が一番望んでいることでありまして、人格権ということにもぜひとも目を向けていただきたいと思います。
【中山副分科会長】今のは具体的にはどういうふうな御要望なんですか。
【岡田委員】延長を望まない人たちは、保護期間が長くなればなるほど使用料を長く、払い続けなければならない。50年たったらもう払わなくてもよかったものが払わなければならなくなるから嫌だと。裏返せば、延長を希望する人たちのメリットとして、主に財産的なメリットを利用者がイメージしやすいところでございますが、50年から70年になることによって、例えば、替え歌がありますよね。私がつくった歌が変な歌詞で歌われたりするようなことは、それは人格権をもってより長く差しとめできるわけで、前回の会議で里中満智子さんもおっし廟ましたけれども、例えば漫画で、「鉄腕アトム」の著作権が切れたときに、「鉄腕アトム」をデフォルメした物とかが世界中に出回ったりするというふうな危惧もあります。そういうのは、やはり最初につくった人の人格権が侵害されていることでありまして、最初の原作が正しく、より長く伝わっていくということを望むものでございます。
【中山副分科会長】現行法では、著作者人格権の権利の終期はありません。今50年か70年かと言っているのは、専ら財産権の話で、人格権は理論的には永久に存続する。ただ、請求権者が制限されておりますけれども、刑事罰は永久に続くというので、人格権についての延長の議論はない。ないというか、永久ですから、議論する必要もないと私は思います。
【岡田委員】そうですか。それでは少し教えてください。私の知識がちょっと足りないことがあるかもしれません。保護期間が長くなると著作物創造のサイクルが害されるという危惧は否定できないという日弁連からの申し立てがございますが、これは保護期間が終われば人格権も消滅するという考えにたった上での主張ではないのでしょうか?人格権とは何なのか教えてください。
【中山副分科会長】「公表権」と「氏名表示権」と「同一性保持権」の3つがあります。あと若干ありますけれども、主なものはその3つです。それは、別に死後50年という限定はない。現行法でもないです。
【岡田委員】そうですか。前に、すごく大昔ですけれども、中山先生に、審議会で「著作権の保護期間が切れた後、人格権はどうなるんですか」と聞いたら、それに対してはまだ学会で結論が出ていないので、はっきりしたことは言えないとおっしゃったことを覚えていらっしゃいますか。
【中山副分科会長】詳しくは覚えていませんが、具体的事例に応じた話をしたと思います。一般論としての人格権は、今、私が申し上げたとおりです。ただ、死後は、どうしてもだんだんと人格権は薄れていくということはありえます。例えば聖徳太子の書いた物は、今変えていいかどうかということになると、現在生きている人とはかなり違うだろうと思います。それは当然ですけれども、基本的には、人格権は期限的には制限はないということです。

Rédigé par: S | 16 mars 2007, 17:43:15

ご指摘はそのとおりですね。しかし、本来、延長の効果が大きいのは死亡時起算の個人著作物よりも、公表時起算の企業著作物のはず。また、小説やマンガのようなものは個人(またはその延長線)が創作しますが、テレビ番組や映画のような膨大な経費がかかる著作物もあります。
こうした場に出てくる「作家」という個人を、著作者(著作権者)の代表とみなしてしまうのは、そもそもどうかという気がします。

Rédigé par: mohno | 16 mars 2007, 12:01:31

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