レビュー

モンスターDAC「Hugo」の音が小型&低価格で!? 小さな風雲児「Mojo」を聴く

 昨年発売され、圧倒的な高音質とポータブルDACアンプながら約24万円という価格、そして「ポータ……ブル?」と確認したくなるサイズで話題となったCHORDの「Hugo」(ヒューゴ)。その弟分と言える製品「Mojo」(モジョ)が登場した。Hugoと比べ、大幅な小型化を実現。さらに価格は直販で73,440円(税込)と、断然買いやすくなった注目モデルだ。

CHORDの「Mojo」

FPGAにパルスアレイDAC、CHORDの特徴とは?

 Mojoについて詳しく見ていく前に、CHORDブランドの製品を手がけているChord Electronicsについておさらいしておこう。1989年にジョン・フランクス氏が立ち上げたイギリスのオーディオメーカーで、航空機グレードのアルミニウムブロックから削り出した筐体や、カラフルなLEDのインジケーターを備えるなど、かなり個性的なデザインが特徴だ。据え置き機も一目見たら忘れられないインパクトがある。

 内部的な特徴は、バーブラウンやESSなどの汎用のDACチップを使っていない事。

 その代わりに「FPGA」を使っている。FPGAとは、自由にプログラミングできるLSIの事。HugoにはXilinxの第6世代「Spartan-6」、Mojoには第7世代の「Artix7」が搭載されている。こうしたFPGAと、ディスクリート構成の“パルスアレイDAC”で信号処理をしている。

「Hugo」
「Mojo」
開発者のロバート・ワッツ氏

 開発者のロバート・ワッツ氏は、トランジェント(音の立ち上がり)のタイミング精度の重要性に着目。サンプリングレートが44.1kHzから96kHzなどにアップすると音が良く感じられるのは、高域の帯域が伸びる事だけでなく、可聴帯域内のタイミング精度が上がるためだとし、FIRフィルタのタップ数(処理細かさ)に注目。

 通常のフィルタは200程度だが、それを1,000、2,000と増やすことで、トランジェントエラーを引き起こす率が低下し、音が良くなるという。その研究を元に、独自の「WTAフィルタ」を開発。それを用いてオーバーサンプルを行ない、パルスアレイDACでアナログ電流へと変換しているという。

 こうした独自のアイデアを盛り込んだ処理を行なうために、汎用DACを使わず、FPGAを採用している。その結果、同社のDACは、搭載しているDACチップの流行などにまったく左右されず、デザインと同様に、独特の立ち位置を確立していると言えるだろう。

 なお、搭載しているFPGAは、Hugoで使われているものと比べて4倍の集積密度で、バッテリ消費も約半分になるなど高性能化している。こうした事で、Mojoのサイズが実現できたそうだ。

小さく、カラフルな筐体

 Mojoの外形寸法は約82×22×60mm(幅×奥行×高さ)、重量は約180gと非常にコンパクト。Hugoの97×132×23mm(同)/332gと比べるまでもなく、一般的なポータブルヘッドフォンアンプと比べても小さい。「スマホや音楽プレーヤーより大きなアンプを持ち歩くのはちょっと……」という人でも許容できるサイズ感だろう。

 まっさきに目がいくのは3つの白いボール。良く見ると一つは離れているが、これが電源ボタン。隣り合う2つがボリュームボタンだ。電源を入れるとLEDでカラフルに光る。電源をOFFにする時は電源ボタンを2秒間長押しする。

丸いボタンがデザインアクセント
左のボタン2つがボリューム。ボリューム値によって色が変化する

 デジタル入力は同軸デジタル、USB、角形光デジタルを各1系統装備。充電用のUSB端子も備えている。PCと接続してUSB DACとして使う際は、専用ドライバのインストールが必要だ。対応データは、PCMが最大768kHz/32bit、DSDは11.2MHzまでサポートしている。ダイナミックレンジは125dB。

 通常のヘッドフォンアンプにある、入力選択スイッチは無い。Mojo自身が、どの入力から信号が来ているか自動的に検知し、その入力を選択してくれるようになっている。

イヤフォン出力は2系統
入力端子側
横から見たところ

 ポータブルアンプでは、キッチリ接続したのにセレクタの選択が間違っていて「あれ、音がでない」と慌てる事がたまにあるが、そうした心配が無いのはありがたい。ただ気になるのは複数の入力が同時に来た時はどうなるのかという事。

 試しにUSBでスマホと接続して再生している最中に、光デジタル入力してみたが、USBの再生は途切れない。逆に、光デジタル入力で聴きながらスマホをUSB接続すると、今度はUSBに奪われてスマホ側の音楽に切り替わった。

 マニュアルを見ると、どうやらUSB入力が最優先になるようだ。光と同軸では、同軸が優先されるという。便利ではあるが、例えば家のPCと組み合わせて据え置きで利用している際に、光デジタルやUSBケーブルを繋ぎっぱなしにして、Mojoの側で切り替えて利用したいという場合には注意が必要。ボタンなどで手軽に切り替えられず、その都度USBケーブルを抜いたりする必要があるからだ。

 ポータブル利用においては、自動入力選択なので、ボリューム以外ほとんど弄る必要がないのは便利だ。触るのはボリュームくらいだろう。このボリュームボタン、ビー玉くらいの球形で、指で触るとサラサラしている。溝に埋め込まれたような形だが、筐体から出っ張ってはいない。

 指で転がしてみると、滑らかではないがズリズリと動かせる。しばらく動かしているとなめらかに回るようになってきた。では転がしてボリュームを増減するのかというとそうではない。実はこれ“押しボタン”で、そのまま下に押し込むとボリュームが上がる。ではなぜわざわざ回るようにしているのかといと、ある種の“遊び心”だそうだ。

 プラスのボタンを押すと、暗い色から赤くなり、その明るさが強くなっていき、やがて黄色に。そのまま緑、青と変化していき、白っぽくなる。そのまま押しているとまた赤くなり、黄、緑、青、白と変化する。説明書によると、最初の赤~白はイヤモニターなど、小音量でも大きな音で楽しめる製品向けに“小音量の範囲で音量を微調整するゾーン”、それ以降の赤~白は、大音量で微調整するゾーンという位置づけのようだ。

赤からスタートしてボリュームが上がると白になるが、もう一度赤に戻るのがややこしい

 Hugoと同様、色でボリュームの大きさを表しているわけだが、色を記憶していないと、いまどのくらいのボリューム値なのかが見た目でわからず、「今イヤフォン挿したら大音量かな?」と心配してボリュームを下げてたりしてしまう。綺麗ではあるが、あまり使い勝手が良いとは言えない。なお、プラス・マイナスのボタンを同時に押すとLEDの光量が少し暗くなる。

 スマホやプレーヤーなどとはバンドで固定できる。だが使用中、1回ミスをしてしまった。操作しやすいように、ボリュームボタンが外側にくるように固定していたのだが、手のひらで掴んだ際、無意識にボリュームのアップボタンを押していたようで、ボリュームが上昇。それに気づかず、スマホで「どの曲を聴こうかなぁ」と選択し、再生ボタンを押した途端にヘッドフォンから爆音が。慌てて頭からヘッドフォンを外すという事があった。

ポータブルプレーヤーを重ねたところ
このように握っていたら、知らないうちにボリュームアップボタンを押していたようだ

 スマホを見ていると、裏側のMojoのボタンが何色になっているのか把握できないためだ。また、ボリュームボタンは押しっぱなしにしていると自動でボリュームがアップしていく仕様になっている事も、このミスに繋がる原因と言える。できれば“押しっぱなしでボリュームアップ継続”をOFFにする機能も欲しいところだ。バンドで固定したり、ポーチなどに入れる場合は、ボリュームボタンに干渉しないよう細心の注意が必要だ。

 ヘッドフォン出力はステレオミニ×2系統だ。バランス出力ができるのかと思いきや、同じ音が2つの端子から出るだけだそうで、「2人で同時に音楽を楽しむため」だという。やりたいことはわかるが、どれだけその利用シーンがあるのか首をかしげる部分はあり、どうせならばグランド分離出力やバランス出力に対応したり、ステレオミニ以外の出力端子を備えてくれた方が嬉しいというのがマニアの本音だろう。

2人で同時に音楽が楽しめるというのは理解できるが、どのくらい使うシーンがあるのか疑問だ

 出力は35mW(600Ω)/720mW(8Ω)とパワフルで、最大800Ωのヘッドフォンをドライブできる駆動力を有している。バッテリは1,650mAhのリチウムポリマーで、充電時間は約5時間。駆動時間は約8時間だ。

音を聴いてみる

OTGケーブルは、オーディオテクニカの「AT-EUS1000otg」

 まずはスマートフォンと接続してみよう。Xperia Z5と、USB OTGケーブルを介して接続してみた。OTGケーブルは、オーディオテクニカの「AT-EUS1000otg」を使っている。MojoとAndroidスマホを接続する際は、両端がmicroB端子である必要がある。

 電源を入れたMojoとZ5を接続し、Z5の「USB設定設定」画面から「USB機器を検出」を選択、Mojoの接続を許可すると、ハイレゾ再生アプリのHP PlayerからMojoが認識でき、利用できるようになる。

 イヤフォンはShureのSE215や、Ultimate Ears「UE 18 Pro」、finalの「LAB I」などを使用。ヘッドフォンはe☆イヤホンのオリジナルモデル「SW-HP11」などを使っている。

Xperia Z5と、USB OTGケーブルを介して接続してみた

 試聴前に予想していたサウンドは、もちろんHugoだ。以前のレビューで詳しく書いたが、Hugoはとにかく高分解能でトランジェントの良いハイスピードサウンド。全ての音が元気よく飛び出し、それぞれの音にバッチリフォーカスが合ったような、圧倒的な情報量の多さが特徴だった。

 Mojoから出てくる音も、傾向はHugoによく似ている。呆れるほどに細かな音が明瞭に聴こえ、低音のほぐれ具合が凄い。個々の音の粒が細かく、かつパワフルで、それらが等しく吹き出してくるようなサウンドは、まぎれもなくHugoの系統にある製品だと感じさせる。

 コンパクトながら電源もしっかりしているようで、「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」も、アコースティックベースがズシンとしっかり沈む。面白いのはこの低音がボワッと膨らんだり、滲んだりせず、ハイスピードでズドンと音が出て、さらにサッと消えるので“軽やかさ”がある点だ。

 低音というと「ズシン」、「ズズズン」といかにも重そうなイメージがあるが、Mojoの低域は深く沈むのにハイスピードで軽やかさがある。サクサクしているのに、一つ一つの音が深く、迫力がある。他のアンプでは味わえないサウンドで、ここもHugoと似ている。

 ではHugoとまったく同じ音なのかというと、そうではない。最も違いを感じるのはスケール感。MojoもポータブルDACアンプとしては音場が広く、レンジも上下に広大で、トップクラスの実力を備えているのは間違いないのだが、Hugoと比べると、ややこじんまりした印象を受ける。かといって音の響きが広がる範囲が制限されていたり、部屋のように壁の反響を感じさせるようなサウンドではないので表現が難しいのだが、ヴォーカルの背後に広がる空間などが、Hugoの方が一段広く感じられる。低域の馬力もHugoの方が一枚上手だ。

 だが、個人的にはこうした点はあまりマイナスに感じられない。というか「HugoとMojooどっちが欲しいか?」と聞かれたら、私は「Mojoの方が欲しい」と返答する。Hugoのレビューでも書いたのだが、Hugoは全ての音が等しくパワフルに、明瞭に飛び出してくる印象で、「音楽に含まれている情報をできるだけ沢山聴きとる」という意味では優れているのだが、あまりにむき出し過ぎて、メリハリが乏しい。オーディオメーカーの思想を感じさせる“音作り”のようなものがほとんど感じられない。

 DACから出た音をそのまま聴いているような音で、据え置きのオーディオ機器と接続して、フロア型スピーカーでもドライブすると凄く良いだろうなという音なのだが、耳元で音がするポータブル機器で聴くと、「出過ぎ」というか、音が“俺も俺も”と飛び出し過ぎて疲れてくる。中央のボーカルも、背後の楽器も、広がる音の余韻も、みんな等しいパワーで耳に飛び込んでくる感じだ。それはそれで悪くないのだが、個人的にはもう少し“上手く”聴かせて欲しい。

 例えば、ハイレゾポータブルプレーヤーのAK380で同じ曲を聴くと、ヴォーカルが中央にスッと浮かび、その背後に楽器やコーラスがキチンと並ぶ。余韻も細かく聴こえるが、それに気を取られてヴォーカルに意識が向かないというほどではなく、控えるところは控えられている。完全に好みの世界ではあるが、AK380の方が“ポータブル機器としての音作りが上手い”と感じる。

 一方のMojoは、Hugoより音のスケール感が若干小さいので、“とっちらかった”感じが弱まり、ポータブルアンプとしてはHugoよりまとまりが良く聴こえる。新鮮な生野菜をそのままムギュムギュと口につめ込まれていたHugoに対して、Mojoはアッサリ味のドレッシングでまとめたサラダに仕立てられており、「毎日食べるならやっぱりサラダになっていた方が……」というイメージだ。

 試しに「suara/星座」(Pure-AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICSバージョン)で、「Z5+Mojo」、「AK380+Mojo」、「AK380単体」と切り替えて聴いてみたが、ベースなどの伴奏の主張が一番激しいのがZ5+Mojoで、AK380+Mojoがやや収まり、AK380単体が一番聴きやすい。Mojoのアンプとしての音の傾向が、中低域を張り出し気味にドライブするというのもあるのかもしれない。

光デジタルケーブルを使い、AK380とデジタル接続してみた

音を考えたら激安なポータブルDACアンプ。今後の大きく化ける可能性も?

 同じ系列だからと、24万円するようなHugoや、約50万円のAK380といったモンスター製品と比較していたが、冷静に考えるとMojoは直販73,440円と、それらより大幅に安い。確かにポータブルDACアンプとしては高価なモデルではあるが、音のクオリティを考えると数十万円レベルの機器と渡り合える能力がある。ある意味“お買い得モデル”と言って良いだろう。

 小型である事はポータブルオーディオでは強みとなるが、癖のあるボリュームの操作性がやや残念なところ。ただこの部分は、ユーザーがバンドやポーチなどの周辺機器でこだわりながらクリアしていける範囲ではあるだろう。

 ここまでで終わりならば、Mojoは「低価格でHugoのサウンド世界を楽しめ、なおかつコンパクトなモデル」という結論になる。だが、どうやらMojoの魅力はそれだけにとどまらないようだ。

 先月行なわれた「秋のヘッドフォン祭 2015」において、Chord ElectronicsのChief Executive/Senior DesignerであるJohn Franks氏が、「今後Mojoと接続できるアクセサリ的なモジュールの開発を進めている」と発表した。

 具体的には、Lightnning-USBカメラアダプタのケーブルを使わずにiPhoneとの連携を可能にするモジュール、無線LAN機能を追加するモジュール、SDカードリーダ機能を追加するモジュールなどを検討しているという。

 いずれもケーブルを介して接続するのではなく、Mojoと直接ドッキングするようなイメージだという。

 気になるのは「無線LANモジュール」で、Mojoがネットワーク音楽再生のレンダラーとして動作。NASなどに保存した音楽ファイルを、Mojoがネットワーク経由で受信し、そのままMojoで再生できるようになるそうだ。例えば、スマホのDLNAアプリから、スマホ内の音楽ファイルを選択、その再生先としてMojo+無線LANモジュールを選択すると、ワイヤレスで音楽が楽しめるようになるかもしれない。

 さらにSDカードリーダーは、SDカードに保存した音楽ファイルを読み込むためのもので、Mojoが単体ハイレゾプレーヤーに変化するものになるらしい。

 こうした構想を聞くと、Mojoが非常にコンパクトなサイズで登場した理由がわかる。後からモジュールと接続した際に、大型化し過ぎないためなのだろう。

 単なる“音が良いUSB DACアンプ”という枠を越え、ハイレゾポータブルプレーヤー界にも影響を与える事になりそうなMojo。発売後も動向に要注目な製品と言えそうだ。

山崎健太郎