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カゲロウデイズ -in a daze- (KCG文庫) |
「カゲロウデイズ」という、まったく新しいタイプの小説がエンターブレインから刊行された。作者はじん(自然の敵P)。平成生まれの21歳で、少なくとも昭和生まれの記者は新しいと感じた。
カゲロウデイズの原作になっているのは、ニコニコ動画にアップされているボーカロイドの曲。今では160万再生の人気曲だ。そして驚くことに、小説を書いているのは作曲者本人である。
原作をもとにアニメやマンガや小説をつくるメディアミックスは古くからあるものだが、「作曲家が自分の曲をもとに小説を書く」なんて話聞いたことがない。
原曲はタイムスリップをテーマにしたロック。歌詞やPVは少しスプラッターで刺激が強く、8月15日の終戦記念日をにおわせているところもあり、なるほどたしかに文学っぽい香りもする。
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メカクシティデイズ(DVD付) |
小説の刊行にあわせて、アルバム「メカクシティデイズ」(1st PLACE)も発売。カゲロウデイズはもちろん、小説とリンクしたような曲が全13曲収録されている。
彼はいったいどんな人なのか。会って話を聞いてみると、はたしてごくマジメな好青年だった。そして前代未聞の新しいことを手がけているにもかかわらず、まったく動じている様子はない。“イマドキの若いアーティスト”の姿が見えたような気がした。
両親だけが来たライブ
―― 面接みたいな話から入るんですけど、どちらの生まれですか。
じん 北海道です、利尻島です。
―― すごいところですね。音楽はいつごろから?
じん 小学校2年生とかですね。キーボードを習ってたんです。教室の先生が心優しい方で、習ってないときでも遊びにおいでと。
―― それだけ音楽的に早熟だと、バンドを組むのも早かったんじゃないですか。
じん いやー、なにぶん人口が少なかったので……。小学校は全校生徒が12人くらいで。音楽やってる人がまず4人いたら奇跡ってレベルでしたから。学校の3分の1がバンドやってることになりますからね。でも、高校になって少しは人口の多いところに引っ越して、そこで初めてバンドを組んで。NUMBER GIRLとかTHE BACK HORNとかのカバーを。
―― ライブをやるところはあるんですか?
じん 一応ライブハウスはあるんです、2ヵ所くらい。小さいライブハウスだったんですが、お客さんは集まらず、すぐ解散となりました。
―― 集まらないっていうと、少ないときはどれくらいだったんですか?
じん 2人とか。
―― 2人……。
じん しかも両親とか。
―― さみしくなってきましたが、その後も音楽はつづけたんでしょうか。
じん 機材系の専門学校でレコーディング専攻に入って。ファッション系の友だちがいたんですけど、「ファッションショーのBGM作ってよ」とか「カサビアン※みたいの作ってよ」とか言われたりとかして。
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カサビアン |
※ カサビアン : イギリス生まれのロックバンド。バンド名は元死刑囚、チャールズ・マンソンの信奉者で、彼の指示によってシャロン・テート殺人事件に関与したとされるリンダ・カサビアン(Linda Kasabian)から。
―― 全然それまでの曲調とは違いますね。専門学校でもバンドは?
じん インストバンドなんですけど、キーボードとギターとボーカルをやって。一言だけ歌が入るんです。「あーーっ」みたいな。白玉系※な、クワイア的な※。
※ 白玉系 : 「あーーっ」のような持続音の多い曲のこと。白玉は全音符から。
※ クワイア : Choir。コーラス(Chorus)の語源。
―― ポストロックっぽい感じですかね。そのときはどのくらいお客さんが?
じん 13人とか。
―― 13人って多いんでしょうか。
じん けっこうなもんですよ。両親は来てなかったですし。
―― なるほど。じゃあけっこういい感じですね。
じん ただ、専門学校なので、「PA用の機材ってどれがいいんだろう?」とか「就職先としてちょっと見とこう」みたいな感じで来てたような感じはしますけど。
―― それは……。レコーディングに興味があったということは、そのときはミュージシャンになろうというつもりはなかったんでしょうか?
じん 心の隅ではうまいこと転がったら食べていけるんじゃないかなとは思ってたんですが、ライブには人は来ないし、「売れねー! これじゃダメだー!」と思ってました。