まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第24回
アニプレックス 宣伝プロデューサー 高橋ゆま氏インタビュー(前編)
「ゴミ屑みたいな社員」(本人談)から、宣伝プロデューサーに
2011年06月11日 12時00分更新
祭りの掟は「同人版を最初に買った6人を悲しませない」こと
―― 『劇場版 空の境界』の名前が出たので、もう少し掘り下げたいと思います。この作品は劇場で全7部作を順番に公開するという珍しい展開でした。テレビをウィンドウとしない以上、ネットの盛り上がりがないと成立しない、とまではいかないものの、ネットでの盛り上がりに期待するところが多かった作品ではと予想するのですが。
ゆま 「うーん。まず単館上映かつ7部作という上映方法自体が変化球でした。
その上で『劇場版 空の境界』で意識したのは、単館とはいえ、どれだけ“お祭り”にするか。具体的には通常のテレビアニメと比べて宣伝の露出量を変えました」
―― それは量を増やしたわけですね。
ゆま 「はい。雑誌しかり、テレビしかり。洋画の話題作並みとまではいかないとしても、それに準ずるような作品だと受け止めてもらえるように。そしてポスターのデザインをはじめとして、大作の雰囲気を持たせることに注力しました。意識したのは、いかに“お祭り感”を出すかということ。
おかげさまで初日は、作品の良さもあって、立ち見まで出る満員御礼で……」
―― 私も行きました。入れませんでしたが(笑)。
ゆま 「ありがとうございます(笑)。おっしゃった通り、しばらく劇場に入れないという状況が続きました。『映画館まで来たのに観られないって、なんだよそれ!』と。そういった状況も含めてうまくニュースとして伝えながら、お祭りの雰囲気を醸し出すことを常に考えていました。
とにかく『劇場版 空の境界』は、150キロの剛速球を投げることを意識した作品です。『劇場版 鋼の錬金術師』の映画宣伝展開なども参考にしつつ、絶対にお祭りにしようと思っていました。
というのも、同人小説として世に出た『空の境界』を同人誌即売会の会場で最初に買ったのが、確かたった6人くらいだったらしいんです。今では考えられないような人数ですけど。
製作委員会の会議で全員がずっと言っていたのは、『その6人が悲しむことはしない』。その人たちが『俺が最初にこの作品を買ったんだぜ』って、ちょっと誇らしく思えるような空気作りを目指していこうと。そう意識して、お祭りを7回やったという感じですね。
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