映画「ソーシャル・ネットワーク」は、コミュニケーションの下手な主人公がSNSを作り、それで得た経済的な成功と引き換えに友達を失う……。という現代の寓話的な内容だったが、ITベンチャーに関わる仕組みや人々の描写はやけにリアルだった。
ジャスティン・ティンバーレイクが演じるNapster創業者のショーン・パーカーを見ながら、私はずっと思っていたことがある。もし日本のITベンチャーシーンを映画化するとしたら、必ずどこかに登場しなければならない人がいるなと。
それは、古くは天才プログラマー「nt」として、最近では「OTOTOY」(オトトイ)という音楽配信サイトの運営で知られる竹中直純(たけなか なおずみ)さんだ。
彼はOTOTOYの前身となる音楽ソーシャル・ネットワーク「recommuni」を2004年10月に立ち上げ、その直後にタワーレコードからCTOとして招かれ、適法化されたナップスターの国内サービスを任されている。2ちゃんねるでおなじみ電子通貨「モリタポ」も彼の仕事だ。
現在はディジティミニミ代表取締役社長、2ちゃんねるIRC管理人、ニワンゴ取締役などの肩書きを持つ。実際にコードが書けて、かつ電子商取引のシステムと音楽ビジネスの実際を俯瞰できる、日本には数少ない人物である(しかも相当な音楽好き)。
日本のナップスターを作った男は、いま日本の音楽ビジネスをどう見ているのだろう? というのが今回のテーマなのだが、当然話は件の映画から始まるのだった。
ソーシャル・ネットワークが「日常」だった
―― 「ソーシャル・ネットワーク」はご覧になりましたか?
竹中 3日くらい前に見たんですよ。ハーバードの学長が出てくるじゃないですか。観ていて感情移入できないのはあの学長だけです。あとは全部、気持ちが分かる。それにNapsterは僕、行ったんです。ロスのサンセット通りの近くにあるんですけど、空気感も分かるわけですよ。
―― こういうヤツいるよなー、のオンパレードでしたよね。
竹中 デヴィッド・フィンチャー(「ソーシャル・ネットワーク」の監督)が上手いのもあると思うんですけど、時間が経つのがすごく早くて。でも僕には面白くなかった。
―― ははは! それはどうして?
竹中 だって日常なんだもん。僕には分かりすぎていて、何が面白くてヒットしているのか、一切分からないですね。そこが今までの映画とはまったく違う体験で、すごく面白かったですけど。
―― なんだか複雑な感想ですが、ところで竹中さんは訴訟を抱えていますか?
竹中 それは、えーっと。
―― おっ!
竹中 ……ないです。
―― あ、なんだ。ああいう映画を日本で作ろうとしたら、竹中さんはどこかに出なきゃらないんですよ。どうしますか?
竹中 でも僕はセルフプロデュースがすごく下手で、システムを見ていない人というか、この業界にいない人は僕のことは全然知らないと思いますよ。
―― そうかなあ。
竹中 かと言ってポジショントークをしてテレビで報道されるとか、ああいうことが嫌いなんですよ。今はテレビに代わる新しい装置ができかけている気がするんですけど、メディアと大衆心理が一体になって、人気者や有名人ができるという構造は変わらない。その旧来のメソッドに乗るのはすごく嫌いなので。
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