前編に引き続き、角川グループホールディングスの代表取締役会長兼CEO、角川歴彦氏のインタビューをお届けする。
新しい時代に合わせた法律にしたほうがいい
── 日本の著作権法で言うと、昨年、著作権法が改正されて、今年から検索エンジンが合法化されました。この本にも書かれていますが、法律の壁が業者に萎縮効果を生んでるんじゃないかという話もあります。
一方で「日本にフェアユースがなくても、グレーゾーンで勝手にやってる業者はたくさん存在する。単に技術不足やビジネスモデルの問題。萎縮効果なんて生んでない」という意見も根強く残っています。例えば、著作権法の壁があったために萎縮を招いた具体的な事例とは何でしょうか?
角川 ある出版社が、写真サービスを始めたいと思って、カメラマンに撮ってもらった雑誌の写真をアーカイブにしたわけだよ。でも今の法律は、いくら出版社が旅費を渡して撮ってもらったとしても、著作権はカメラマンにある。
出版社からすると「ウチが経費をすべて出してるのに」と考えるのが一般的感情だよね。お金出し、誌面に出して、使い終わったものを集めてアーカイブにしてビジネスに使う。あるいは逆に本を定期的に買ってくれた人が「あの写真欲しい」と言ったときに、サービスとして提供するのは当然の行為だと思うんだよ。
でも、出版社には隣接権がない。写真は100%カメラマンの権利になる。そして写真家協会というのは、著作権審議会の有力なプレイヤーの一人なんですよ。彼らが出版社を訴えて、新聞で大きく報じられた。しかし、その会社はまだビジネスすら始めていないんだよ?
始まって儲かっているから権利や取り分をもっと下さいというなら分かるけど、スキャンしてサーバーにアップするだけでも、全員の許諾を取らなければ今の著作権法では違法になっちゃう。これじゃ萎縮効果になっちゃうよね。
まず上げさせておいて、それでどうしましょうかと言ったときに「私の写真は取り除いてほしい」みたいにすれば、オプトアウト的にできる。でも、スキャンやアップそのものがダメっていうのがオプトイン的だよね。
このケースではそれが200万円の罰金の対象になっちゃう。裁判所に200万円払えって言われて、三段組で新聞に掲載されちゃうんだ。アスキー・メディアワークスがそれやれるかって言ったら、できないでしょ。当たり前だよ。
── 写真家と編集者で、最初から二次利用を含めた契約があればよかったんでしょうけど、業界の慣行としてやりませんよね。
角川 しないね。僕が言いたいのは、新しい時代に合わせた法律にしたほうがいいよってこと。
著作権法では、他人の著作物を勝手にアップロードするのはもともと罪だった。それが先の改正で、違反してることを知りながらダウンロードすることは罪ではないけど違法ですよと変わった。これって「ネット法」なんだよね。「ネット法」をぶち上げたときは、結構ひんしゅくを買ったんだけど、やったことで法律本体が変わってきてる。
でも最初お話したように、現在の法律はもともと有体物のコピーのために作ったものだから、今の時代に合わせようとするとどこかで無理が出てくるわけだよ。