「先方も政府で、彼らのこの領土の中においてはあらゆる人に対する権限を持っておりますので、これは我々が説得をして、そして彼らがついに、実は生きておりました、全員返しますと言うまで粘り強く交渉をすることが我々の今の方針でございます」
これは去る14日の参議院内閣委員会で、森ゆうこ議員(民主党)の「我が国政府が、我が国の国民が拉致されて救出を待っているときに、我が国の政府が自分でできる、主体的にできるということを、いつまでに、どのように、何をするのか、具体的にお答えいただきたい」という質問に対する細田官房長官の答弁です。
この答弁を見たときに、思わず溜息が出ました。そういうことだとは思っていましたが、あらためて活字で見ると、大部分の被害者は見捨てるという、政府の断固とした態度が感じられます。説得して返してくれるような国なら拉致などしません。しかも説得するのは極く僅かの政府認定者だけです。
しかも、政府は山形県の漂着遺体はDNAの一致ということだけで山本美保さんであると断定するのに(他の条件はことごとく違っていても)、拉致被害者の認定になると石橋を叩いても渡らない慎重さです。これでは間に合いません。
前に書いた参議院拉致特委での自民党岡田直樹議員の横田さん夫妻への質問について、「週刊文春」などで、古舘キャスターの発言が叩かれています。私は、古舘氏に好感を持っているわけではないし、岡田議員の質問を簡単に「無神経な発言」と切捨てたのは、それこそ「無神経」だとも思います。しかし、ご家族に対して、「前のが偽の遺骨であったならば今度は本物を出そうと、こういうことを考えかねない国だと思うんです」という発言は、どう考えても言いすぎです。そして、報道でそれに対する批判をされたと言って、幹事長名で抗議する自民党もどうかしています。そんなことに文句を言っている暇があったら経済制裁をやればいい。
岡田議員は与党自民党の議員です。例えば、自民党が経済制裁反対で、それに対抗するために野党議員がご家族に事前に十分説明した上で、参考人質疑の形で決意を明らかにしてもらうというならまだ話が分かります。あるいは与党議員としてなら「まだ実行に至ってはいませんが、経済制裁を行うための努力をしています。ただ、それが実施された場合、様々なことが考えられます。ご家族としては懸念はお持ちでしょうが、絶対に被害者を危険な目に合わせないよう、与党の国会議員として全責任をもって対処します。ご理解下さい」というべきではないのでしょうか。
24日から26日まで国会前で家族会・救う会の座り込みが行われています。何人もの与野党の国会議員が応援に駆けつけてくれています。皆さん党派を問わず拉致問題に熱心な方々です。それは大変ありがたいことですが、それよりもしてもらいたいことは、高齢のご家族が炎天下の座り込みをしないで済むようにすることではないでしょうか。
「説得をして、そして彼らがついに、実は生きておりました、全員返しますと言うまで粘り強く交渉をする」
官房長官のこの言葉を、私たちは正面から現実として受け止め、被害者を見殺しにするか(それはつまり今後も拉致が行い得る状態を続けるということでもあります)、この政府の方針を変えさせるか、いかなる手段を用いても民間の力で拉致被害者を救出するのか、覚悟をしなければならないと思います。