2026-04-28

プロローグ

世の中には二種類の人間がいる。

「動けばいい」と祈りながらクソコードを世に放つ臆病者と、その後始末を請け負う命知らずだ。

​俺たちの事務所に持ち込まれ案件は、どれも似たり寄ったりだ。

ドキュメントは、書いた奴が失踪したのでありません」

仕様書挙動が一致しません。挙動の方が正しいと思ってください」

「なぜ動いているのか、社内の誰も知りません」

​そんな甘い囁きと共に、数万行の泥沼がUSBメモリという名の棺桶に入れられてやってくる。

​「……おい、この関数名を見てくれ。logic_final_final_v3_dead() だ。前任者の断末魔が聞こえるようだぜ」

相棒キーボードを叩きながら、安物のバーボン一口煽るような顔で、エナジードリンクを啜った。

​「いいかコードを読み解くのは、凶悪犯のプロファイリングと同じだ。なぜここでグローバル変数を書き換えたのか? なぜ、わざわざ再帰処理の中でDB接続を張ったのか? 犯人の――いや、開発者の『絶望』を理解したとき、ようやくデバッグ入り口に立てる」

​俺たちは画面の中の暗黒街を歩く。

1フレームごとに発生するメモリリークは、雨上がりの路地裏に溜まるヘドロだ。

そして、ようやく見つけたバグの正体が「タイポ(打ち間違い)」だったとき、俺たちは乾いた笑い声を上げる。

​「神は細部に宿るっていうが、悪魔コピペの間に潜んでいるらしいな」

​これは、デジタルという名の無法地帯で、キーボードを銃に持ち替えた「清掃員」たちの、決して報われない戦いの記録だ。

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