放射能は毒だろうか?
「燃える」と言えば、一般には(狭義には)「発熱反応を伴う急激な酸化」を表現すると思いますので、酸化とは全く関係ない、核分裂である原発を「燃やす」と表現する事は、いつも抵抗感があります。
まあ、「核燃料」と言う表現自体も間違いの元かも知れません。
広義にはそういう発熱反応に「燃える」という表現を使うのかも知れませんが、好ましくありません。
第一、核反応による発熱温度は、酸化とは比べようもないくらい途方もなく高温です。
原子力発電の仕組みは、核分裂で熱を発生させた後は火力発電と一緒で、その熱で水を気化させて蒸気に変え、蒸気タービンを回すのです。水は常圧では100℃で気化しますが、圧縮して大きな運動エネルギーを得る為にもう少し高温・・300℃くらいの水蒸気にして、発電機である蒸気タービンを回すのです。
石炭、石油の火力発電なら、数100℃から数1000℃の温度になるから、アバウトに丁度いい温度ですが、原発は、数100万℃の高温になるので、しっかり制御しないと大変です。制御が非常に難しいのです。そして実際、発生した膨大な熱エネルギーの6割以上は海に捨てているのです。これが冷却水の正体です。(だから、コージェネ・・とか言って、原発を推進されても大変です。)このように、核反応の発熱レベルは、酸化の発熱レベルとは比べようもありません。
同様に核融合も「燃やす」のではありません。そのまま「核融合」と云うべきでしょう。核分裂も核融合も核反応ですから、「燃やす」ではなく、やはり、「核反応させる」なのですが、それでは、イメージが核兵器と結びつくからでしょうか?意図的に
「酸素を使わずに燃やす」
と表現しているのかも知れません。
小さな子供や、知らない人は本当に、「燃える」と勘違いしている人もいるでしょう。
水素原子核融合を水素の酸化(水のできる反応)と勘違いをしている人も結構います。
水素の酸化のエネルギーを取り出す燃料電池も、水素原子核を核融合させて質量欠損のエネルギーを取り出す核融合発電も、どちらも「クリーンな未来のエネルギー」なんてプロパガンダされているものですから、全く違う種類のエネルギーなのですが、知らない人は混同してしまうでしょう。(燃料電池は本当にクリーンなようで、かなり眉唾な部分もあるのですが、今回の話題からは脱線するので触れません。核エネルギーよりはずっとまし・・とだけ言っておきましょう。)
原発関係の人は、意図的に使っているのかも知れませんが、分子、原子のレベルより遥かに小さな領域から出てくる途方もない「核エネルギー」を、化学反応である「酸化」と混同する「燃える」という言葉を使うべきではありません。
それと同様にいつも気になる表現が、放射能は「毒」であると言う表現です。
「毒」のイメージは、(狭義には)人体の各器官(の細胞やタンパク質)などが「毒物質」による化学反応によって、害されるイメージです。
しかし、放射能は、化学反応と言うよりは寧ろ「怪我」とか「火傷」に近い物理変化を引き起こすと言うべきではないでしょうか?まあ、「怪我」と云っても、非常にたちが悪い怪我です。なにせ、遺伝子レベルまで「怪我」させる(破壊する)のですから・・・・
「体に毒」と言う表現はまあ分かりますが、放射能が「毒」と言う表現には結構抵抗感があります。
普通、いくら猛毒と言っても、密閉した容器に入れて置けば、特に怖くはありません。飲んだり吸ったり触ったりしなければいいのです。
しかし、放射能はそういうわけにはいきません。絶えず強いエネルギーの放射線をまわりの空間に放射し続けるのです。防御服でさえ防げません。・・・原発労働者が防御服を着るのは、放射線に比べて比較的大きな粒子の放射能が体内に入る内部被曝(体内被曝)を防ぐ為のもので、放射線は、防御服の中の人体を沢山通り抜けます。それこそ、何メートルもある厚い鉄板でもなければ防げません。だから、原発では、毎日被曝しながら労働している人がいるのです。彼らは、防御服が被曝を防げないとしっかり知らされているのでしょうか?
「放射線」とは、(高い)エネルギーをもった電磁波や粒子線(ビーム)。
「放射能」とは、放射線を出す能力、または放射線を出す物質を指します。
放射線は、イメージ的には「殺人光線」ではないでしょうか?
兎も角、放射線を浴びることを「被曝」(「被爆」じゃありません。日へんです)と言いますから、レントゲンのX線を浴びる事も「被曝」です。
放射能から放射された放射線は、直進して、人体も通過していきます。「通過」といっても、すうっと素通りするわけではありません。
体を通過する時に生体の細胞を通れば、そこの細胞を穴を空けていくというか切っていくのです。(勿論、放射線の粒子などは原子レベルよりずっと小さいので素通りする場合もあります。)
強い放射線を1度に大量に浴びれば、それこそ「殺人光線」を浴びたように、体中の細胞に無数の穴が空き、細胞がぼろぼろに切られて、死んでしまうわけです。死なないまでも、重傷を負うでしょう。
致死量まで至らないとき・・さらに放射線が少ない時・・、切られたり、穴の空いた細胞は、多少の場合は素晴らしい事に、すぐに再生して、繋がるのです。・・・元通りに繋がれば、問題はありません。・・細胞の素晴らしい再生能力です。・・・しかし、繋がり方が、元通りでなく、間違って繋がったり、間が抜けて繋がったりすれば、そこの細胞は変質するのです。・だから病気になるのです。体の一部が肥大化したり、ガン細胞になったり・・・これは、確率の問題で、微量の放射線を浴びても癌になる場合もあります・・・・生殖の遺伝子が変質すれば、子供にまで異常が生ずるのです。
「毒」ならば化学反応で「無毒化」出来る可能性もありますが、放射線は、体の細胞を切って通り過ぎてしまうので、無毒化も何もありゃしません。(原子レベルより遥かに小さい)非常に小さな玉の玉数の非常に多い機関銃で撃ち抜かれた(体に残るのではなく、通り抜けていく)というイメージでしょう。これが「被曝」です。だから、被曝の手当は、傷の手当に似ているかも知れません。ただ、遺伝子レベルの傷は小さすぎて手当て出来ないのです。
因みに、放射線を出す能力のある粒子である放射能が体に入り込む事が「内部被曝(体内被曝)」です。内部被曝すると、体に入り込んだ放射能から、常時放射線が出続けるわけですから、とんでもない事です。常時破裂し続ける(原子レベルより小さな無数の散弾の)散弾銃を撃ち込まれたというイメージでしょう。
放射能を消すことは原理的に無理なわけですが、放射能汚染が起きた時、対策として、どうしてヨウ素の摂取が有効なのか調べてみました・
ヨウ素は、甲状腺ホルモンを合成するのに必要な物質で、甲状腺に集まるとの事です。原発事故などで、核分裂生成物質の一つであるヨウ素の放射性同位体(質量数131)が、甲状腺に蓄積されると甲状腺癌になる危険性が高くなるので、放射性でないヨウ素を大量摂取して、甲状腺を放射能でないヨウ素で飽和させる防御策をとるのです。
つまり、放射能を帯びたヨウ素が溜まる前に、普通の放射性のないヨウ素で甲状腺を満たすという方法です。・・・なるほど・・・でも、甲状腺は防御出来ますが、体内被曝に変わらないから、やはり危険ですね。
まとめますと
原子力燃料を『燃やす』と云う表現や、放射能の『毒』と云う表現は、専門家も含め原発反対の方々も使います。しかし、こう云う「化学反応」のような比較的”軽い”表現を使うことは、全く別ものの”重い”「核反応」を表現する適切な表現ではないでしょう。個人的には非常に抵抗を感じます。
ー以上、原発関係の記事のひとまずの「締め」としての雑談でした。
「核融合発電」や「プルサーマル」等についても書きたいと思いますが、ひとまず閉めて、次回から溜まっているほかの話題を書きます。
- 関連記事
-
- 代償 2011/04/05
- 原発事故に臨んで、再認識した事 2011/03/29
- 1000年に一度の天災などというまやかし 2011/03/23
- 狂気の科学技術 2011/01/11
- 二酸化炭素温暖化説と原発推進の関係 2010/11/11
- 大地震よりも、遥かに恐ろしい2次災害。 2010/11/05
- 放射能は毒だろうか? 2007/08/03
- 原爆よりたちの悪い原発の部分 2007/07/29
- 大事故までやめない積もりでせうか? 2007/07/27
- CO2温暖化肯定派の権威へ 2007/07/25
- 確実に危険なものには適応しない理不尽な「予防原則」 2007/07/23
- 原発に代替案は必要か? 2007/07/21
- 地震より遥かに恐ろしい災害 2007/07/19