3×5≠5×3問題について


流れ的にはこんな感じ


夜中なので簡潔に4つ目のエントリで扱われている学習指導要領解説について中心に述べる。あちらではなぜかソースが明示されていないが、以下の平成20年版の小学校学習指導要領解説の「算数編」のことだと思われる。


各学年の指導内容については「算数(2)」に載っている。この件で問題になっているのは小学2年生の学習範囲なので、「算数(2)」のP.79〜P.100が該当する。


さて、あっさり結論から書いてしまうが、この指導要領解説中に乗法の式の順序を重視せよと書かれている部分は全くない。Kidsnoteで引用されている部分は「何を教えることが求められているか」についてであって、そこに乗法の式の順序が関係するとは全く書かれていない。

さらに以下の引用部分だが、

順序については、ここにばっちり出てます。

また,1 0×4 は,10 が4つあることから,40になると分かる。

この文章が登場するのはP.88「エ 簡単な場合の2位数と1位数との乗法 」の中であって、要するに10の位の数と1の位の数のかけ算についての話の中での文章であり、この件とは無関係である。


P.98には「D(2 ) 乗法の式 」という節があるが、式中の数字の順序については何も触れていない。


無いことの証明は難しいので、有ることの話をしよう。この指導要領解説で乗算の交換法則がどのように扱われているかだ。


P.81「エ 一つの数をほかの数の積としてみること 」には乗法の基礎となる積の概念を示す図がある。




算数を教える教師にとって交換法則は自明なのにあえて「2×6 または 6×2」などと並記されていることに注目すべきである。


次にP.83にははっきりと「( 3) 内容の「A数と計算」の(2) のウについては,交換法則や結合法則を取り扱うものとする。 」とある。


さらにP.88の(さっきの10×4の例の次節に!)は「〔算数的活動〕(1) イ 乗法九九の表を構成したり観察したりして,計算の性質やきまりを見付ける活動 」として、児童に自然に交換法則に限らない数の性質について気がつくような指導を掲げている。この節の最後の文章は個人的には涙ものである。(強調は私)

乗法九九を構成したり観察したりす ることを通して,乗法九九の様々なきまりを見付けるように指導することは,児童が発見する楽しさを味わうことにつながるものである。


やれやれ。というわけで、指導方法としての「3×5≠5×3」の正当性を主張する方々は学習指導要領解説以外のところに典拠を求められるがよろしいと思う。




以下は、雑文。


この件にわりに敏感になるのは、私は学校でこれを習った時のことをかなりはっきり覚えているからである。


その時は「要するに単位の話をしてるんだな」「何個ですか?と聞いていたら何個ですと答えるような式にすればいいんだな」という理解をした。もちろんそれはそれで無駄ではなかった。最終的にそれは高校物理の期末試験の一夜漬けで、「とにかく物理量の単位を丸暗記して、その単位になるように問題文中の数字から立式する」というひどい対策として結実するのである。


しかし、私の記憶が確かなのはこの理解のためではなくて、「なんか先生理不尽なこと言うとるな。まあ点数くれるなら従っとくか」という気持ちが残っているからだ。交換法則については習った記憶がないが、気がついていたか理解していたのだろう。


おそらくこの「3×5≠5×3」問題は算数の問題というよりは指導方法の問題であり、「こうした方が子供に理解させやすい」「子供の理解を測りやすい」といった研究がどこかにあるのだろうと思う。それはそれで認めなくはない。だが「3個の5倍は15個→3×5=15」という「順序」は言語の都合であって、ほぼ同時に習う交換法則を否定するような指導はトリッキーなものだと意識した方がよいと思う。個人的には危ない橋を渡っているというか筋が悪い指導法だと思うが、こういうのは現場の積み重ねのうえのことだったりするので無下にはしない。


怖いのは「3×5≠5×3」的な指導方法が単なるメソッド化して、「何を教えようとしているのか」が置き去りになることである。この件についての反応や現職の先生の説明がぶっちゃけイマイチ納得できないところを見ると、ちょっと心配だ。


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