1アーティストにつき1曲ずつ、「これいい!」「おもしろい!」曲を紹介してまわるコーナーです。毎週水曜更新。YouTubeやSpotifyの力も借りて「音」への誘導もあります。
〔この「目次」は記事の追加ごとに順次増えていきます〕
どんぱす今日の御膳340 [Rhapsody]
どんぱす今日の御膳341 [Elegy]
どんぱす今日の御膳342 HammerFall [HammerFall]
どんぱす今日の御膳343 Larry Young [Larry Young]
どんぱす今日の御膳344 Cathedral [Cathedral]
どんぱす今日の御膳345 Keyboard Prince [Keyboard Prince]New!!
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Mephistopheles「Wipe Out」『I’M GETTING READY FOR THE FIGHT』(2008)
伝説的ジャパメタバンドMephistophelesのEP(CD-Rですがオフィシャル作品)。不勉強でこのような作品が出ていることを知らず、某メタル専門店の中古コーナーで発見し「アレ?これ知らないな」と思いながら買ったんですね。
冒頭のタイトルトラックも良いし、今回お勧めの「Wipe Out」なんかも文句のつけようがない。アクセプトばりのゴリッゴリのサウンドに、梅原“ROB”一浩さんの強烈なヴォーカル。あと、詞が日本語で“活きてる”感じがする(とってつけた感じじゃない)のも好きなポイントです。
そもそもこのバンドのことを、私ごとき若造がリアルタイムで知っているわけもなく、2001年――この頃は私も元気で、国内外問わずメタル新譜をまめチェックしていたのよ……――にリリースの『METAL ON METAL』で初めて認識したのでした。これ自体は企画的な作品というか、往年の名曲を“録り直した”ものだったようですが、その「圧」(歌と演奏)はホントに凄い。なんでこんな作品を出してるバンドがメジャーじゃないのよ?などと驚き怒った(というと言い過ぎ…)ものですよ。たしか久武頼正さんがプロデュースだったなあ、懐かしい……と思いつつちらっとネットで調べてみたら、そもそもメフィストフェレスを強引に(笑)復活させたのが久武さんだった、みたいなインタビュー(梅原さん)が出てきて妙に納得したのでありました。↓
https://gekirock.com/interview/2018/09/mephistopheles.php
で、メフィストフェレスは2010年代にも作品を出しているのですが、すみませんこちらは未入手。どっかで売ってたりしないかなあとまたもウェブ上で情報を探していると、今度はバンドのオフィシャルTwitter(現X)っていうのが出てきました。その最新ポストには、梅原さんがバンド活動を引退されたご事情が記されていました……
メタルらしいメタルを貫徹してくれた日本のバンドに、興味と敬意は尽きませんから、旧作はまだ探して聴くつもりですよ。
【2025.3.26追記】
この記事の執筆(24年冬)の後に、Devils On Metal Revitalized(2015年)とHide And Seek(2018年)をそれぞれ購入することが出来ました。いずれも期待にたがわぬ強力な作品で、大満足……
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Keyboard Prince「Apocalypse」『APOCALYPSE』(2024)
以前、John Westの「When Worlds Collide」という曲をご紹介しましたね。〔どんぱす今日の御膳332 John West〕超強力な鍵盤家がバトルを繰り広げる曲だったんですが、ああいうのを心行くまで聴きたいなってことありません?ギターバトルものに比べると少ないみたいで、ありそうでなかなかないよね。
そんな方に朗報。NovelaとかStarlessとかMarge LitchとかAlhambraのような、華麗な鍵盤をいつまでも聴ける音楽はないのかなと探している人にもお勧めのスゴいプロジェクトが登場してました。Gerard/Earthshakerの永川敏郎さんとAlhambra/GalneryusのYUHKIさんが組んで何かされているという話はウェブニュースで読んでたと思うのですが、先日某ショップでマテリアルに遭遇しまして「おお、これか」と。Keyboard Prince名義『APOCALYPSE』というアルバムです。
NovelaもGerardもAlhambraもYUHKINENも好きな小生ですからすぐに飛びついて購入……とならなかったのが我ながら情けない。CDには曲目以外の情報って載ってないので、「歌入りなのかどうか」「鍵盤以外の奏者は誰か」などが判らなかったから、ちょっと迷っちゃったのだ。まあしかし、このお二人の出すものに良くないものがあろうはずもないと思い直し、デラックスなDVD付きの方を買って帰りました。
再生します……と、もう瞬時にニッコリさせられてしまいます。21世紀も四半世紀過ぎようというところで“プログレですが何か?”みたいなものをブチかまされればそれはねえ。ラストの1曲を除いてオール・インストゥルメンタルで、主役は勿論キーボード。いろんな音色、多彩なプレイ。プログラミング(ですよね)によるベースやドラムの組み立てぶりも凄くて、ドラム好きも大満足(生ドラムの音色だったらどうなるんだろうとか、そういう興味は依然としてありますが)。
全部紹介するのはこの場では難しいのでまずはタイトル曲「Apocalypse」を。キラキラのオープニング鍵盤に“プログレ”なリズムの捻り。メインテーマの部分はストレートな疾走感もありつつ、一筋縄ではいかないよ、と。Alhambraの疾走曲的なメタル風カタルシスもまき散らしながら、Gerardっぽい深味妖味も織り交ぜてくるという、「プログレ密度」に圧倒される曲。で、ありながら、不思議と聴き易さもあるのね。この辺はほんとにさすが。プログファンだけでなく、例えば最近Damian Hamada’s Creaturesを聴くようになったメタルファンなんかにもアピールするのでは。ProgとHM/HRは隣接ジャンルなんだなあ。
次の「The Chestnut Labyrinth」まで続けて聴いていくと、名人芸の向こう側から、Keith EmersonやらRick WakemanやらJon LordやらKen Hensleyやら……といった歴代の鍵盤猛者たちの姿が浮かび上がってくるのがイイ。70年代のスターたちが開拓したロック鍵盤音楽は正統に受け継がれて発展したんだなあと何か感動しちゃうので。で、永川さんとYUHKIさんのコンポジションとプレイはそれぞれに個性が勿論あるので、指紋の捺された人力音楽を味わいたいこちらにもヒット。いやあ、プログレって、本当にいいものですねえ。
他にも、YUHKIさんがかなり昔に“エッグマンで観た(?)Gerardを参考に”作った曲が元だという「Fear And Courage」や、“高速道路の星”ならぬ“高速道路の翁”が実はイメージにあるという「The Highway Prince」(これはメタルファンにも即効性がありそう)、ラストの新機軸(なにしろお二人が“ラップ”を繰り広げるのだ)「Nijuman」まで、鍵盤だけで……ってことはないけどこんなにカラフルにいろいろできるんだなあと凄いカタログ。
なお私が購入したデラックス版はDVD付きで、ライヴ映像(2曲)とお二人のインタビュー(というかセルフ解説トーク)が観られます。手に入るならこっちが断然お勧め。映像で観ると鍵盤プレイの神業がはっきり拝めるし、トークがまた面白い。ほとんどの曲の解説(副題やワーキングタイトルの話など含む)もおもしろいし、“インテンスな鍵盤メタル”・“ダークな鍵盤プログレ”を聴き手に食らわせてる方々とは思えぬ(笑)“気のいいおじさん達によるほっこりトーク”が全編繰り広げられますのでね。
344
Cathedral「Voodoo Fire」『CARAVAN BEYOND REDEMPTION』(1999)
メタルが好きだとか言っといて、なんならDeath Penaltyまで紹介しといて(どんぱす今日の御膳050)、Cathedralをこれまで挙げていなかったのは大反省。
元Napalm DeathのLee Dorianのバンド……とかいうことは実は知りませんで、HM/HRのディスクガイドのお勧めを頼りにCDショップに行ったら、オビに「ブリティッシュ・ハードロックの守護神カテドラル……」と書いてあってさ。「守護神」なら聴かなきゃダメじゃん!?ということでこの『CARAVAN BEYOND REDEMPTION』を買って帰ったの。ちなみにその当時私はドゥーム・メタルなんてジャンルは知りませんでした。なんなら、Black Sabbathも別に特に好きではなかった。
帰ってから、さっそく再生します。すると、(古風な)遊園地とかで流れるような音楽がかかり、次いでボソボソいう変な(失礼)語りが入って、「なんだこれ?」と困惑しているところに……ドワーンとヘヴィなリフロックが始まりました。もうね、純真な少年(?)はビックリですよ。まあ、すぐにこの重いグルーヴに絡めとられてハマりまくるんですが。事前に想像してたよりキャッチーでノリノリ……と思わせておいて、間奏部分“voodoo drums”のとこで妖しく展開する(ここはドラマーBrian Dixonのアイディアだったとライナーで読んだ気がします)など、一筋縄でいかない、「ブリティッシュ・ハードロック」のツボを押さえまくった1曲。
ほかの曲(70年代ロック好きの当方には美味しすぎるよ)も粒ぞろいだと個人的には思うのですが、バンドの歴史上の位置づけはどうなんでしょうね。のちに出たベスト盤『SERPENT’S GOLD』には「Voodoo Fire」1曲しか収録されなかったし、バンド晩期のライヴアルバム『ANNIVERSARY』には本アルバムからの曲は入りませんでした。特にネガティヴな評価は聞いたことがないんですがねえ。雰囲気的には人間椅子『怪人二十面相』あたりと似て“トータルアルバム”のイメージが強いため「切り出しにくかった」とかかも、と想像する次第。
あ、でも『CARAVAN BEYOND REDEMPTION』にはもう1つお宝がありまして、それが終曲の「Dust Of Paradise」。すんごくヘヴィーに始まるので、ドゥーム初心者の私は「ヘエー凄い、これがドゥーミーってやつか!」と感心していたのですが、3分26秒あたりからはこれが激遅になって――今だから言いますが、マジで怖かった――ね。
レビューの類では「この部分は最初期を思わせる」なんて言うから、後日彼らの初期作『FOREST OF EQUILIBRIUM』(1991)を探してみたら、確かにこんな曲ばっかりでした。そうか、これがドゥームなんだね……。単に遅けりゃいいってんじゃなくて、その上で“グルーヴ”がなければならないという、けっこうな離れ業なわけですが、Cathedralはそこが完璧なんすね。
しちなみにこの「Dust Of Paradise」、少なくとも1999年の日本公演では実演してたみたいです(YouTubeに誰かが音源を上げてた)。ライヴで聴いたらそりゃあ凄かったんだろうなあ……
もちろんカテドラルについては、最初期の路線だけじゃなくて、セカンド『THE ETHEREAL MIRROR』の「Ride」あたりも気に入りましたし、「Midnight Mountain」の笑える(?)MVも好き。狭義のドゥームにこだわらなくなった(?)後期の『THE GARDEN OF UNEARTHLY DELIGHTS』とか『THE GUESSING GAME』あたりも、70年代HRファンからすると腑に落ちる音作りだったりして美味しいですしね。プログレに寄り過ぎたのかと思えばライヴ盤『ANNIVERSARY』で活きのいいステージも見せるし、たしかに彼らは「守護神」でしたよ。やることをやりきっちゃったという様なニュアンスでバンドは解散してしまいましたが、リーやギャズ(Garry “Gaz” Jennings)ははまだまだ元気なようなので、ぜひ英国ハードロックの伝統を次世代に伝えていっていただきたいですね。