やねうらお将棋講座 その1


アマ初段ぐらいの知り合いに将棋を教えようと思って資料作ってたのだけど、こういうの興味のある人が居るかも知れないので、体裁を整えて一部を公開する。続きははてブが10個以上ついたら公開しようとも思うが、たぶんつかない。


■ 遠方駒


遠方への利きのある駒(飛・角・香)をここでは遠方駒と呼ぶ。


■ ピン(pin)について


次図のように遠方駒で玉が間接的に狙われているとき、その中間にある駒(次図の3ニの金)は移動させられないので、この状態を「(3ニの金が)ピンされている」と表現する。




ピンされている場合でもその遠方駒の利きの方向には移動できる。(上図の3ニの金を4ニに移動させるのはすぐに飛車で取り返されるが、手としては合法手だと言う意味で。)


■ ピンされている駒は取られる


ピンされているとその駒を動かせないので、上図で4一銀や4三銀、4四桂などとピンされている駒に利きを足されると、ピンされている駒とその足した駒との交換を避けることが出来ない。


よくあるのは次図みたいなの。先手番。



6ニの飛車がピンされている。6ニ角成と飛車を取ってくれれば飛車角交換になるが、先手から6三歩や7一銀などこのピンされている飛車に利きを足される。



■ ピンされていない例


次図はピンされているようで、ピンされていない。


3ニの金を移動させることが出来るからだ。(具体的には、3一、4ニ、4三、3三の地点に移動させることが出来る。4ニなどは移動させても飛車で取り返されてしまうが、ここで言う“移動できる”とは、合法手だと言う意味。)




[問1] 上図が後手番だとして、このときどんな手が考えられるだろうか?


・3一歩。→ 3ニと、同歩、4三金と打たれて受からないから駄目。
・3三玉。→ 早逃げ。そのあと3ニと とされて金を取られながら王手がかかる。
・3一金。→ そのあと3一と とされて、3三玉と逃げるが、それなら単に3三玉とあまり変わらない。
・1四歩・2四歩。→ 退路の確保。これもありうる。


以外で考えられる手を考えよ。



[答え]


3三金。3三金で当たりを避け、4一とに3ニ歩と打つ。このようにしてピンされる駒を歩にすることが出来る。4一と ではなく 3一と には同玉。だから、先手は4一では4三とするが、そこで3ニ歩として、歩をピンする。そのあと3三と、同玉のようになる。


この場合、単に3三玉と早逃げして3ニと と迫られる場合とは異なる局面になり、こっちの変化のほうが有力な場合もある。つまり、3三金はありうる選択肢。



■ ピン駒を入れ換える手筋


ピンされている駒は動かせないのだから入れ替えるなんてことは不可能に思える。


しかし、あるマジックを使うとそれが可能になる。次図は後手番。




[問2] 上図の(部分図での)最善手は何か?単に3三玉と早逃げする手は除く。





[答え]


放置すると4三と とされて、このとき3ニの金がピンされているので3ニの金は取られてしまう。


そこで、ピンされるのを事前に拒否する4ニ歩。これで4三と と寄れない。そこで、先手は4ニと と取ってくる。


そうすると[問1]と同じ形に帰結して、[問1]の結論が使える。
つまり、4ニと の瞬間、ピンが外れるのでそれを利用してピン駒を入れ換えることが出来るのだ。


■ ピン駒移動の手筋


ピン駒は狙われることがわかった。ピン駒は遠方駒の利きの方向に移動させることは出来るのでこれを利用できる場合がある。




上図は後手番で、先手の持ち駒は桂だとしよう。次に4四桂と打たれると3ニ金と打たれた桂との交換が確定する。(例:4四桂、4ニ歩、3ニ桂成、同玉)


これを避けるには、4四桂自体を防ぐか、玉を移動させて金のピンを外すか、4四桂とされたときに3ニの金を移動させることが出来るようにするかのいずれかである。


[問3] それらの手をすべて列挙せよ。




[答え]


4四桂自体を防ぐ手 = 4三歩(4四桂と打たれても同歩と取れる) ・ 4四歩(4四の地点に駒を埋めておく)


玉を移動させてピンを外す手 = 2一玉 ・ 3一玉 ・ 3三玉


3ニの金を移動させることが出来るようにする手 = 4ニ歩(例:4四桂に4三金、5ニ桂成、3ニ玉) ・ 4一歩(4四桂に4ニ金と移動できる。ただし、この図の場合、そのあと5ニ桂成とされて、3ニ金、4一成桂と寄られ、次の4ニ成桂からの桂金交換が避けられない。最後の4ニ成桂の瞬間、[問1]の手筋が使えればいいのだが、歩が足りない&3筋に後手の歩が打てないので不可能。)


この最後の4一歩は特に盲点になりやすい。後手は4ニの地点に何らかの駒を利かせればこのようにピンされている3ニの金を移動させることが出来る。


■ 金がピンされるのを避ける手筋




上図は5四桂と打たれたところ。後手番。先手の持ち駒は飛車。


[問4] 上図の後手の(部分図での)最善手は何か?ただし、後手は、後手の金と先手の桂を交換されてまずい局面であるとする。また後手の玉は下段(一段目)に移動したくないものとする。





[答え]


上図のような局面が実戦に出てくることはよくあって、アマチュアの有段者でも3ニ金と寄る人が圧倒的に多いだろう。金は玉に近づけたほうが働きがいいと考えているからだ。しかし、ピンのことをよく考えなければならない。


3ニ金のあと6ニ飛と打ち下ろされ、3ニの金がピンされる。そのあとの先手の4ニ桂成で金と桂の交換が避けられなくなる。


このとき[問1]の手筋が使えればいいが、3三の空間が空いてないのでそれは出来ない。ただし、玉が下段に落ちていいなら、3二金、○二飛、3一玉と玉を移動してピンを外せば受かる。(以下、○一飛成、4一香。)



ゆえに、(金と桂を交換されたり、玉が下段に落ちてまずい局面であれば)上図での後手の候補手として考えられるのはピンされるのを事前に避ける 4一金 ・ 4三金 ・5三金 ・ 5ニ金 のいずれかである。(状況により使い分ける。上図では5三金一択か。)


つまり、この場合、金を玉に寄せる手こそが最悪で、それ以外はすべて有力と言う点が非常に味わい深い。




■ ピンするために玉を誘う手筋



上図は先手番。先手の持ち駒は歩と金。


[問5] 上図での(部分図での)先手の手段は?ただし、先手は飛車が欲しいが、角は後手に渡したくないものとする。






[答え]


5一金と捨てて後手玉を5一に誘いこむ。そうすると6ニの飛車がピンされるので、6三歩と打って歩と飛車の交換が確定する。


これがピンするために玉を誘う手筋。


※ 初手6三歩だと5ニ飛とされて、そのあと5一金は同飛。角を渡さないと飛車が取れない。



■ まとめ


今回はピンに関する手筋を見てきた。なかには有段者でもあまり知らない手筋もあるだろう。


「ピン」と言う用語はチェスの用語で将棋ではほとんど使われていないので、将棋で「ピン」に関する手筋をまとめたものは珍しい。


「ピン」の手筋はここで紹介した他にも面白い手筋がたくさんある。


(つづく) ← はてブが10個以上付けば。