アニプレックスは『化物語』の成功体験を引きずり過ぎだと思う
ここ数年間の“コンテンツビジネスとしてのアニメ商品”を考えるに、『化物語』とその製作会社アニプレックスの存在は無視出来ないと思います。
これから紹介する話は、『化物語』が初めてやったことは少ないけれど、色んな作品がやっていた試みをまとめて試みて大きな売上げを記録したということで―――アニメ業界の一つのターニングポイントになるのかもと思い、今敢えて書き残しておこうと思います。
どっちかというと、アニメに詳しくない人向けに書くつもりです。
頑張る。
1.「話数ごと」ではなく「話の一区切りごと」に分けてブルーレイ&DVDの販売
テレビアニメをブルーレイ&DVD販売する場合、通常は「2話ごと」とか「3話ごと」に分けて巻数表記で販売していきます。例えば、ポニーキャニオン製作『けいおん!』1期は全14話を「2話ごと」に分けて全7巻(14話目はテレビ未放送)、『けいおん!!』2期は全27話を「3話ごと」に分けて全9巻(27話目はテレビ未放送)で販売する――みたいな形です。
しかし、『化物語』はちょっと違っていました。
この作品は5人のヒロインをそれぞれ描いた5つの物語からなる全15話の構成だったため――――ブルーレイ&DVDは「ひたぎクラブ(2話)」「まよいマイマイ(3話)」「するがモンキー(3話)」「なでこスネイク(2話)」「つばさキャット上(3話)」「つばさキャット下(2話)」という、異例の形式の全6巻という販売になっていました。
僕が知る限り、テレビアニメのブルーレイ&DVDを「第○巻」という形ではなく「ひたぎクラブ」「まよいマイマイ」のように副題をつけて売り出しているというのはこの作品が初めてです。というか、コレしか観たことがありません。(一応、ブルーレイ&DVDのパッケージには「第○巻」という表記はあります)
アニメでは聞きませんけど、ライトノベルなんかではよくある手法ですよね。
僕が好きな戯言シリーズなんかは1巻が『クビキリサイクル』で2巻が『クビシメロマンチスト』で、タイトルだけ見てもどの巻から手を出してイイか戸惑う一方、2巻目にあたる『クビシメロマンチスト』から読んでも大丈夫なように『クビキリサイクル』の犯人は書かれていないという気配りがされていました。
巻数表記をしないことで「好きな巻から買ってね」という手法。
現に『化物語』のアニメも、4巻目にあたる「なでこスネイク」がテレビアニメのブルーレイ売上げ最高記録になったというニュースがあって。4巻が一番売れるなんて、普通はないことですよね。他の巻は買わなかったけど「なでこスネイク」だけは買ったという人が多かったことになります。
これは「話の区切りごと」「ヒロインごと」に分けて販売したことが勝因なのは間違いないと思います。まぁ、「なでこスネイク」はテレビ放送時の作画が…という事情もあるのかも知れませんが(笑)。
この影響なのか、同じアニプレックスの『世紀末オカルト学院』は全13話をヒロインごとに2話完結の物語に構成して、1巻(1~2話)はマヤメイン、2巻(3~4話)は美風メイン、3巻(5~6話)はこずえメインという商品展開になっていました。
まぁ……正直、『オカルト学院』はどうなんだろうねとは思いましたが。それは後に。
2.各エピソードごとにオープニングを変更&収録CDをブルーレイ&DVDに同梱
作中で使われた曲をCDに収録してブルーレイ&DVDに同梱するという方式は他のメーカーもやっているような気がするのですが(ちょっと自信ない)、ここまでビジネスの中心として使っているのはアニプレックスくらいな気がするんだけどどうでしょう?
『化物語』は5つの物語からなる話なので、「ひたぎクラブ」には「ひたぎクラブ」、「まよいマイマイ」には「まよいマイマイ」専用のオープニングがあり、そのオープニングテーマのCDはブルーレイ&DVDを買わないと手に入らないようになっています。
前述した「なでこスネイク」の大ヒットも、このオープニング曲「恋愛サーキュレーション」の力が大きいでしょう。レンタル屋さんでDVDを借りても、同梱物であるCDは手に入らないワケですからね。
同じアニプレックスの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』は、毎回エンディングテーマを変え、そのエンディングテーマを収録したCDをブルーレイ&DVDに同梱しています。
『刀語』も(巻によりますが)エンディングテーマが話によって違い、それを収録したCDが同梱されていますね。
先ほど書いた『世紀末オカルト学院』は、巻のメインヒロインによる90年代JポップのカバーCDが同梱されています。1巻はマヤメインなので、マヤ役の日笠陽子さんの歌う「LOVEマシーン」が当時話題になりました。
3.副音声としてキャラクターコメンタリーをブルーレイ&DVDに収録
これは多分、『化物語』が初めての試みじゃないですかね。
アニメに限らず映画なんかでも、スタッフやキャスト陣が副音声としてオーディオコメンタリーを収録するということはかなり以前からある試みでした。最初が何かは分かりませんが、2000年代の前半には既に定着していたんじゃないですかね。
それを、実在の人物である「スタッフやキャスト」の人達ではなく、架空の人物である「キャラクター」にやらせてしまおうというのがこのキャラクターコメンタリー。『化物語』の場合、本編が阿良々木君とヒロインのやり取りが多いため、このキャラクターコメンタリーで「ヒロイン同士」のやり取りを聴くことが出来るというレアな機会でした。
原作小説家自らがセリフを書いているというのが大きいですよね。
言ってしまえば、作者自らがメディアミックス商品に関わっているワケで、原作小説のファンとしても無視できない商品になってしまうワケです。
同じアニプレックスの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』でも、更に進化した形として「キャラクターコメンタリー風特典映像」が収録されるそうです。こちらも原作小説家自らが脚本を書いているそうですね。
個人的には「キャラクターコメンタリー」は面白い試みだと思います。
自分は声優さんが好きで声優さんのラジオもよく聴くからキャストコメンタリーも好きなのですが、「アニメは好きだけど声優さんのことはそんなでもない」という人も多いでしょうし、そういう人が興味を持てる副音声として「キャラクターコメンタリー」はベターな解答なんじゃないかなと。
ただ、これは原作小説家にそれなりの知名度がなければなりませんし、小説と脚本は求められる仕事が違うので、『化物語』のキャラクターコメンタリーは面白かったけど、他の作品が追随して面白いかは別の話だよなとも思いますね。
4.本編終了後もインターネットで続きを配信
先ほど『化物語』は「全15話」と書きましたけど、「全15話」のテレビアニメは珍しいです。
テレビというのは3ヶ月ごとに改編があるので、テレビアニメも「全11~13話(3ヶ月)」「全22~26話(6ヶ月)」くらいの尺に収まることが多いです。いや、収めなきゃならなかったんです。
だから、アニメ化の際に「急ぎ足」とか「説明不足」になるのも仕方ないなと許容してきたんです。
決まった尺の中に話を詰め込まなきゃならないんだから、ここの要素を削るのは仕方ないよね、と。
ですが、『化物語』はその常識を打ち破りました。
今までにも「テレビ未放送分の追加エピソードをDVDに収録しました」という作品は沢山ありましたが、それだとあくまでおまけエピソードしか描けないんですよね。まぁ、「あのね商法」とかもありましたけど、逆に言うと「あのね商法」の呪いがかかったように「本編はテレビで完結させなければ」「DVDにはおまけエピソードにとどめなくては」という不文律が出来ていたように思われます。
『化物語』の場合、全15話中、テレビ放送されたのは12話までです。
12話は12話で「最終回」らしい回だったのですが、羽川さんのエピソードは伏線だけ張って終わりました。そして、その後の最終エピソード13話・14話・15話はインターネットによる配信が行われ、全ての伏線が回収されて終わります。
ぶっちゃけ、テレビ放送の尺に収めようと思えば収められたんじゃないかなと思います。
関東では全12話+1週総集編があったので、全13週の放送枠に収めるには2話分削ればイイのだし、不可能な話ではなかったと思います。でも、ムリに収めるんじゃなくてハミ出した分はネット配信にしようという構成にしたのでしょう。そうすれば「テレビ放送したのをブルーレイに録画すればイイや」って人も、ラスト2巻は買わなきゃなりませんし。
んで、同じアニプレックスの『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』も。
テレビ放送は12話までで、13話・14話・15話はネット配信にするそうです。アニプレックスとして明確な意図があって企画しているということですよね。
理由は後述しますけど、自分は「条件的賛成」です。
『化物語』のやり方は「作品としての価値を下げた」と思いますけど、『俺妹』は「別に構わないんじゃない」と思っています。実際に見てみないと分かりませんし、迂闊に調べると原作のネタバレ直撃するんで皆さんは気をつけて下さいね!
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……ということで、パッと思いついた『化物語』が“商品を売るためにした”ことを書き、アニプレックスが他の作品にも繋げていることを書いてきました。最初に書きましたが、『化物語』が初めてやったワケじゃないものもありますが、ここまでとことんやったというイミで『化物語』は無視できないでしょう。
自分としてはアニメもビジネスなんだから「黒字にする」ための努力を否定しませんし、他社も真似するところは真似するべきだとも思います。ただ、今は過渡期ゆえに、問題点も沢山あったとも思うのです。ここからはそれを書きます。
1.ブルーレイ&DVD販売のためのシリーズ構成
「話数ごと」ではなく「話の区切りごと」にパッケージして売るということについて。
『化物語』に関しては、「ひたぎクラブ」が2話、「まよいマイマイ」が3話――と柔軟な構成にしてあったのでさほど違和感を持ちませんでしたが。全13話を各ヒロインごとの2話ずつに分けた『世紀末オカルト学院』は、正直「ヒドイ構成だな……」と思いました。
1巻:1~2話、マヤメイン
2巻:3~4話、美風メイン
3巻:5~6話、こずえメイン
4巻:7~8話、亜美メイン
5巻:9~10話、あかりメイン
6巻:11~13話、千尋メイン
最終エピソードの13話を除けば、全て2話完結。
でも、ストーリーとしては「本来1話で済ませるべきエピソード」を2話に引き伸ばしてスッカスカになっていたり、「もっと尺を取って描いて欲しかったエピソード」も2話に押し込められたせいで超展開になっていたり。ストーリーライン自体は非常に面白い作品だったと思うんですけど、そのせいで薄味の回と濃味の回にハッキリ分かれてしまったなぁと思うのです。
「パッケージ販売にあわせたシリーズ構成」という手法も洗練されていけば最適解も見つかりそうですが、現状だと「商品のために作品としての質が犠牲になっている」印象は否めません。当然、商品が売れるためには“作品としての質”が不可欠ですから、商品としてもイイことではないと思うんです。
2.「CDだけは買おう」というライトなファンを拾えない商品展開
オープニングやエンディング曲をブルーレイ&DVDに同梱することについて。
賛否両論あると思います。
「ブルーレイ&DVDを買いたくなる」のは間違いありませんし、アニメをコンテンツビジネスとして考えたのなら“ブルーレイ&DVDの収益”は一番大きいとも思います。
しかし、「ブルーレイ&DVDを買うほどのお金はないなぁ」「でもCDくらいなら買おうかな」というライトなファンもいることを考えると、その“入り口”としてのハードルを自ら高く設定するのはリスキーだとも思います。
他社の作品……例えば『涼宮ハルヒ』や『けいおん』なんかはまさに「CDだけ買った」ってファンも多かったでしょうしね。お金の問題だけでなく「アニメ本編は1度観れば十分」「CDは何度も聴くから買おうかな」って人もいるでしょう。テレビ放映の録画で済ませるという人もいるでしょう。
もちろんアニプレックスにはアニプレックスの方針というか、ソニー系列の会社なので事情も複雑だと思うんですけど(PS3が本家ソニーの顔色伺いながら右往左往しているみたいな形で)。ファンからするとそんなことは関係ないですからね。
そうは言っても、『化物語』はエンディング曲、『俺妹』や『刀語』はオープニング曲をCD展開しているので、現状は「バランスを取りつつ…」ってカンジなんでしょうが。
いや、でも「恋愛サーキュレーション」をCD展開していたら、どれだけ大ヒットしたんだろうと思うんですよ。
3.キャラクター推しの作品ばかりになる危惧
副音声に「キャラクターコメンタリー」を付けることについて。
自分は非常に面白い試みだと思うんですけど、これが活きるには「キャラクターに人気がある作品」じゃないとなりませんよね。『化物語』や『俺妹』が採用しているということから、どういう作品がこのキャラクターコメンタリーを採用して、このキャラクターコメンタリーが主流になっていったらどういう作品が多くなるのか……推察出来ると思います。
「キャラクターには全く人気がないけれど、その他の部分で評価されている作品」だっていっぱいありますよね。それこそアニプレックス作品にも。そういう作品はキャラクターコメンタリーを付けてもさほど意味がないので、他のことをやらないといけませんよね。
その“他のこと”を発明すればイイだけな気もする(笑)。
なのでまー、実はこの「キャラクターコメンタリー」にはあまり問題点はないと思っています。
4.インターネット配信は「最終手段」にして欲しかった
さぁ、これだ。
正直な話、僕は『化物語』のネット配信は好きではありませんでした。商業的には成功したかも知れませんが、これが主流になったらイヤだなぁと思いました。そして案の定『俺妹』でも採用されるということに。
2回「最終回」が来るってことなんですよ。
『化物語』の12話はテレビ版の最終回として非常に美しく感動的な最終回でした。阿良々木くんと戦場ヶ原さんの物語の“一旦の結末”として自分もお気に入りの回でした。だから、その後の13話・14話・15話は、ラスボス倒した後のエンディングを延々と見ているような雰囲気でした。本来は物語としてのクライマックスになるはずなのに。
それと……12話までは地デジのテレビで観ていたものが、13話以降はPCの中の小さな画面で観なくてはならず、一番盛り上げるべきところが一番ショボイ環境で観なきゃならず―――「ブルーレイ&DVDを買えよ!」って話なのかも知れませんが、初見がショボイ環境だった分、後日DVDで観ても印象はあまりよくありませんでした。
“ラスト3話”って作品全体の記憶に一番残る部分じゃないですか。
ここが面白ければ、そこまでがイマイチでも「あー面白かった!」と思えます。ここがつまらなかったら、そこまで完璧でも「あー……あー……あー」と思えちゃうじゃないですか。そこを敢えてネット配信にするということは、“次の作品”を考えた時に印象が良くないと思うんですけどね。
なので、結局「ネット配信もオマケ程度のエピソードにしなきゃならない」ということになっちゃうのかな。そういう発想で行くと、「ブルーレイ&DVDを買った人だけ楽しめる」よりも「ネット配信でも観れる」方がお得感が増しますね。
例えば、他社作品の『とある科学の超電磁砲』なんかはテレビ放送分のブルーレイ&DVDの発売が終わった後、テレビ未放送分のOVAを発売していますし、テレビ放送が終わった後に劇場版を製作する作品も多いですが――――アニプレックスの『俺妹』はこの分をネット配信する、という考え方も出来るんですよね。他社の作品がお金を取って販売している部分を、ネット配信ではあれ、無料で見せますよーと。
この辺は実際に観てみないと分かりませんが。
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あれ……この記事を書き始める頃は、「今日はアニプレックスの悪口を思う存分書くぞー!」と思っていたのに、実際に書いてみると「アニプレックスのやり方も一つの手だよね」という記事になってしまいました。何だろう、こういうのもツンデレなのか!?
何と言うか……今は過渡期なんだと思います。
そもそもが、ブルーレイにしろCDにしろ「パッケージにまとめられたコンテンツを買う」こと自体が10年後にはなくなっているかも知れない現状で、如何にして生き残れるのかを各社が考えていると思うのです。
その意味で、自分はポニーキャニオンの『けいおん』は優れた方法で成果をあげたと思いますし。
アニプレックスの『化物語』も一つの“成功例”を築き上げたと思います。
(関連記事:『けいおん!!』アニメ2期から入った人に向けて、1期楽曲の解説)
しかし、“『化物語』だから”成功したと思えることも多かったのに、それを他作品に採用しているのを見て「それは見通し甘くない?」と思ってしまうこともあったので、苦言を呈す目的でこの記事をこのタイトルで書きました。なんか……ミイラ取りがミイラになってしまった感はありますが(笑)。
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