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漫画の話です。

●●●●●にある何か それを追って彼は 私は 『近畿地方のある場所について』の話

 ●●●●●。それは近畿地方のとある山を中心とした一体を指す地名です。そこにはいくつかの心霊スポットが存在しているが、どうやら調べてみると、未解決の行方不明事件や学生の集団ヒステリー事件、YouTuberの奇妙な放送事故、異常な子供の遊びなど、不可解な出来事が多く発生しているんです。それらについて僕は深掘りしてみたいんですよ——
 そう言い残して、友人である編集者の小沢君は失踪してしまいました。彼の行方を探るために、私は●●●●●にまつわる事件を集めてこうして発表しているのです。彼の情報をお持ちの方は、どうかご一報ください……
                               お山にきませんか

 ということで、背筋先生原作、碓井ツカサ先生作画のホラー、『近畿地方のある場所について』のレビューです。
 もともとは、背筋先生が小説投稿サイト・カクヨムで連載していた同名のモキュメンタリー作品ですが、発表後しばらくして波が立つように評判に。約3か月の連載の後には単行本化もして、この度、晴れて漫画化もされました。
 上記のとおり、元々は、失踪した友人・小沢君の情報を集めるため、彼が追っていた●●●●●にまつわる事件や怪談、噂話などをアップしていくという体裁の連作掌編で、一見何のつながりもなさそうな行方不明事件や集団ヒステリー、子供の異常な遊びなどが、どうやら●●●●●という地域で起こっていることがわかり、その事件の中の要素をよくよく検討してみると、発生地域以外にもいくつかの共通点が見えてきて、はたして●●●●●には何があるのか、そして小沢君はどこへ行ってしまったのか……というのが仄見えてくる構造になっています。

 ネット連載では、雑誌やネットの書きこみなど様々な媒体から収集した話と、著者による一人称視点での話を一話ずつアップしていくという形式も相まって、ひょっとして本当のことでは? と思わせる、虚実の境が淡くなる素晴らしいモキュメンタリーでしたが、それを漫画という形式、しかも単行本で読むと、現実の中に不可解さが侵入してくるというモキュメンタリー的な恐怖が減じてしまうのは否めません。どうしても作品としての「作り物」感が出てしまいます。

 ですが、絵には力があります。直截的に生理的嫌悪感をもたらす、強い力が。
 ネット連載では当然文章のみ(ごくまれに、作品の一部として参考画像もアップされていましたが)ですから、そこで描写されているものの姿かたちの言葉以上のところは読者の想像に委ねられています。想像の中では、怪異は歯止めが利かないほど恐ろしいものにもなれば、想像力が追い付かずふんわりとした「なんか怖そうなもの」でしかなかったりしますが、漫画化された本作は、怪異に十分な怖さを与えています。読み手が想像する怪異は、時として漠然とその全体像の身を思い浮かべますが、漫画化の描くそれは、現れるときの画角など、構図も含めて存在しており、読者が想像していなかった形で怪異の容貌を現わせしめるのです。
 読者が想像していなかったと言えば、たとえば行方不明になった少女の顔など、そこはそんな恐ろしいものと想像してはいなかっただろうというところにも、恐怖や嫌悪を掻き立てるような描写をぶち込んできてくれます。やってくれるぜ。
 ですので、原作未読者はもちろん既読者でも、またネット連載でのそれとはまた別種の作品として楽しめるでしょう。私は楽しいぞ。
【第1話】近畿地方のある場所について
 よければカクヨムも。こちらは完結まで全部読めます。もちろん漫画版のバチクソネタバレになりますが。
kakuyomu.jp
 余談ですが、原作の好きな点の一つはその多様な文体です。各話は収集元によって文体が変えられ、特に三流雑誌や匿名のネット書き込みを収集元にする話は、俗っぽさを強く残しながら読み物として成立する絶妙な文体であり、その軽薄さがかえって、誰もが軽んじる俗の薄っぺらい皮膜の向こうにいる異常な異形を際立たせていました。俗で雑な文章のニュアンスは残しつつも、その実リーダーフレンドネスを失わない読みやすさは、恐怖とは別の次元で感心しましたよ。

                               かきもあります

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