急速に進化するAI(人工知能)によって、我々の仕事がなくなってしまうのではないか――。多くの日本人が、そうした懸念を実は「抱いていない」ことが日経BPの独自調査で明らかになった。海外の調査と比較すると、日本人のAIに対する楽観的な姿勢は、先進国では異例である。

 日経BPは2025年7月に、各種媒体の読者など1450人を対象とし、生成AIの活用に関する調査を実施した。その結果は2025年9月の日経クロステック特集でも報じている。

 実はこの調査では、AIの活用実態に加えて、AIに関する「意識調査」も行っている。果たして日本で働く人々は、AIのことを「脅威」だと感じているのか、人間の知能を大きく上回るAGI(汎用人工知能)がいつごろ実現すると考えているのか。そんな正解のない問いについても聞いたのだが、その結果がすこぶる興味深かったのだ。

AIに関する意識調査
AIに関する意識調査
(出所:日経クロステック)
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「AIは人類の脅威」と思っていない

 目立ったのはAIに対する楽観的な姿勢だ。「AIは人類の脅威となる」との設問に対して、「強くそう思う」としたのは回答者の5.5%、「そう思う」としたのは18.8%だった。一方「そう思わない」は30.4%、「全くそう思わない」は13.9%だった。AIを人類の脅威だと思っていない割合の合計は44.3%で、脅威だと思う合計の24.3%を大きく上回った。

 「AIによって自分自身の仕事がなくなる」との設問については、「強くそう思う」はわずか3.2%で、「そう思う」も12.1%に過ぎなかった。「そう思わない」は35.9%、「全くそう思わない」は17.7%であり、合計で53.6%。つまりは回答者の過半数がAIによって自分の仕事がなくなるとは思っていなかった。

現場になるほどAI失業に対する懸念は強いが……

 「AIによって自分自身の仕事がなくなる」と思うかどうかは、仕事上の立場によっても異なる可能性がある。そう考えて役職別の回答結果も調べてみた。

「AIによって自分自身の仕事がなくなる」に対する役職別の回答
「AIによって自分自身の仕事がなくなる」に対する役職別の回答
(出所:日経クロステック)
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 結果を見ると、役職が上がるほど楽観度が増すことが分かった。「AIによって自分自身の仕事がなくなる」との設問に対して「強くそう思う」「そう思う」と回答した合計の割合は、「経営層」が5.7%、「本部長、部長クラス」が10.6%、「課長クラス」が14.0%であり、全体の15.2%(注)に比べて低かったのに対して、「係長・主任、一般、専門職」では20.6%と全体よりも高かった。

(注)全体の「強くそう思う」「そう思う」を合計すると15.3%になるが、これは四捨五入の影響で、実際の合計は15.2%である。

 より現場に近い従業員の方がAIによる失業を強く警戒しているわけだが、それでも数字が大幅に高くなっているわけではない。

 本調査においては、AIは総じて「好ましいもの」だと認識されていた。「AIは人類の生活を豊かにする」との設問については、「強くそう思う」が18.8%、「そう思う」が61.0%だった。「AIは自社の事業を成長させる」は「強くそう思う」が15.9%、「そう思う」が52.5%。「AIは自身の成長につながる」は「強くそう思う」が15.7%、「そう思う」が50.2%だった。

米国では「AI脅威論」が主流

 実は海外の調査と比較すると、日本人のAIに対する楽観的な姿勢は先進国の中で異例であることが分かった。

 ロイター通信が調査会社の米Ipsos(イプソス)と共同で2025年8月に米国人を対象に実施した世論調査によれば、「AIによって多くの人が職を失うだろうか」との設問に対して、71%が「心配している」と答えたという。

外部サイトの情報 ロイター通信の調査「Americans fear AI permanently displacing workers, Reuters/Ipsos poll finds」

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他にも「AIは人類にとって悪い」との設問は、「は...

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