役員報酬で節税するには?税額シミュレーションでわかりやすく解説

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役員報酬で節税するには?税額シミュレーションでわかりやすく解説

監修: 筒井 敬士 税理士

役員報酬は一定のルールを守ることで損金算入が認められ、うまく活用すれば大きな節税効果があります。ただし金額を決めるときには、かかる税金と社会保険料、キャッシュフローのバランスが重要になります。

そこでこのページでは、節税になる役員報酬の決め方をシミュレーション付きで詳しく解説します。

目次

節税効果が高い役員報酬の決め方

会社が得た利益(所得)には、国に納める法人税と、地方税である法人住民税・法人事業税が課されます(※これらはまとめて「法人税等」と呼ばれます)。

そのため、損金(経費)を増やすことで課税所得を減らすことができ、節税になります。

会社が実質負担する法人税等の金額は「法定実効税率」を用いて算出します。中小法人(東京都)の法定実効税率は以下のとおりです。

  • 課税所得金額400万円以下・・・21.37%
  • 課税所得金額400万円超800万円以下・・・23.17%
  • 課税所得金額800万円超・・・33.58%

※資本金 1 億円以下、法人税額が年1000万円以下、所得金額が年2500 万円以下かつ年収入金額2億円以下の場合

これを見てわかるとおり、課税所得が800万円を超える部分は税率が10%も上がります。そのため利益が800万円を超えると納税額にかなりの差が出てくることになります

そこで、利益をおさえるために検討すべき節税手段のひとつが「役員報酬」です。役員報酬は一定のルールを守れば損金として算入することができます。

なお法人税等の税率は、利益の金額や会社の規模・所在地などの条件により、適用される税率は異なります。

役員報酬にかかる税金と社会保険料

損金にできるからといって役員報酬をむやみに高くしてしまうと、個人が負担する所得税社会保険料も高くなります。さらに、会社が負担する社会保険料も考慮しなければなりません。

実際に役員報酬をいくらにするべきかを検討する前に、役員報酬にかかる税金と社会保険料について理解しておきましょう。

所得税と住民税

役員報酬は「給与所得」に区分され、所得税と住民税が役員本人に課せられます。所得税と住民税は課税所得の金額によって納める金額が変わります

所得税額の計算式

  • 収入金額(源泉徴収される前の金額) − 給与所得控除額(※1) = 給与所得
  • 給与所得 − 各種所得控除 = 課税所得額
  • 課税所得額 × 所得税率(※2) − 所得税の税額控除 = 所得税額

※参考1:【最新版】給与所得控除とは?改正後の計算方法や控除額の金額一覧
※参考2:国税庁HP|所得税の税率

住民税

「住民税」は自治体に納める地方税のため、住民票のある住所によって税率が異なる場合もありますが、「課税所得 × 10%」を目安として計算することができます。たとえば、課税所得が500万円の場合、住民税は約50万円となります。

社会保険

役員報酬や給料を支給すると、「健康保険」「厚生年金」といった社会保険への加入が原則義務付けられます。

健康保険、厚生年金は役員報酬や従業員給与の金額に応じて決められ、これを毎月、会社と役員(もしくは従業員)で折半して納めます

社会保険の金額は、報酬月額(1か月の報酬・給与)を全国健康保険協会など加入している保険組合が提示している「保険料額表」と照らし合わせることで算出できます。

いくらにすべき?節税シミュレーション

役員報酬を決める際は「金額によって納税額などにどのくらい差が出るのか」をシミュレーションしてみるとよいでしょう。

そこでここでは、東京都の飲食店(年間利益1000万円)を例に、役員報酬の金額を「約800万円の場合」「約500万円の場合」「300万円の場合」の3パターンで比較しました。

結果としては、以下の比較表のとおりです(※あくまで概算となります)。

役員報酬の金額別 比較表
 役員報酬
約800万円の場合
役員報酬
約500万円の場合
役員報酬
300万円の場合
法人税等の額18万9353円92万7398円145万155円
個人の納税額・社会保険料の額204万8872円108万2144円61万4084円
法人の納税額・社会保険料の額130万4524円161万9642円188万9139円
個人と法人の支出合計額335万3397円270万1786円250万3223円

この結果を見ると、法人の負担がもっとも少ないのは「役員報酬約800万円の場合」ですが、支出合計額がもっとも少ないのは「役員報酬が300万円」の場合であることがわかります。

このように、同じ1000万円という利益でも支出合計額にかなり差があるのです。

節税という意味で個人と法人を合わせた合計額に着目するのか、あるいは、個人の手取りを重視するのかなど、価値観や状況によってベストなバランスは異なります。

また、正確な納税額を算出するにはそのほかの事情も加味する必要があるため、より実態的なシミュレーションは、税理士に相談してみるとよいでしょう。

なお、上記比較表の具体的な計算方法は以下のとおりです。

【条件】

  • 東京都の飲食業(資本金1億円以下)
  • 会社の利益が1000万円
  • 社会保険料は健康保険・厚生年金保険のみとする(介護保険の該当なし)。それぞれ標準報酬月額に基づく保険料の折半額 × 12か月で算出。
  • 所得税の計算上考慮に入れる所得控除は、基礎控除、社会保険料控除、給与所得控除のみとする
  • 住民税の計算上考慮に入れる所得控除は基礎控除、社会保険料控除、給与所得控除のみとする
  • 法人税等の法人実効税率は所得400万円以下21.4%、所得800万円以下23.2%とする
【CASE1】 月額役員報酬 666,667円(年間約800万円)の場合
税金金額
社会保険料(個人負担分)111万5172円(※1)
社会保険料(法人負担分)111万5172円(※1)
所得税47万3300円(※2)
住民税46万400円(※3)
法人税等18万9352円(※4)
個人の納税額・社会保険料204万8872円
法人の納税額・社会保険料130万4524円

(参考)計算に用いた各種金額
標準報酬月額:68万円
年間役員報酬額:8,000,004円
給与所得控除額(所得税・住民税共通):190万円
基礎控除額:所得税48万円、住民税43万円
社会保険料控除額(所得税・住民税共通):社会保険料の金額

※1 厚生年金保険料:71万3700円、健康保険料:40万1472円
※2 課税所得額(年間役員報酬 - 給与所得控除 - 基礎控除 - 社会保険料控除)× 税率20% − 控除額 427,500円
※3 課税所得額(年間役員報酬 - 給与所得控除 - 基礎控除 - 社会保険料控除)× 税率10% + 均等割5,000円
※4 1000万円 − 役員報酬 + 社会保険料会社負担分 = 88万4824円
88万4824円× 21.4%

【CASE2】月額役員報酬 416,667円(年間約500万円)の場合
税金金額
社会保険料(個人負担分)69万2244円(※1)
社会保険料(法人負担分)69万2244円(※1)
所得税14万1200円(※2)
住民税24万8700円(※3)
法人税等92万7398円(※4)
個人の納税額・社会保険料108万2144円
法人の納税額・社会保険料161万9642円

(参考)計算に用いた各種金額
標準報酬月額:41万円
年間役員報酬額:5,000,004円
給与所得控除額(所得税・住民税共通):144万円
基礎控除額:所得税48万円、住民税43万円
社会保険料控除額(所得税・住民税共通):社会保険料の金額

※1 厚生年金保険料:45万180円、健康保険料:24万2064円
※2 課税所得額(年間役員報酬 - 給与所得控除 - 基礎控除 - 社会保険料控除)× 税率 10% - 控除額 9万7500円
※3 課税所得額(年間役員報酬 - 給与所得控除 - 基礎控除 - 社会保険料控除)× 税率 10% + 均等割5,000円
※4 1000万円 - 役員報酬 + 社会保険料会社負担分 = 430万7752円
  400万円 × 21.4% + 30万7752円 × 23.2%

【CASE3】月額役員報酬 250,000円(年間300万円)の場合
税金金額
社会保険料(個人負担分)43万8984円(※1)
社会保険料(法人負担分)43万8984円(※1)
所得税5万5000円(※2)
住民税12万100円(※3)
法人税等145万155円(※4)
個人の納税額・社会保険料61万4084円
法人の納税額・社会保険料188万9139円

(参考)計算に用いた各種金額
標準報酬月額:26万円
年間役員報酬額:3,000,000円
給与所得控除額(所得税・住民税共通):98万円
基礎控除額:所得税48万円、住民税43万円
社会保険料控除額(所得税・住民税共通):社会保険料の金額

※1 厚生年金保険料:28万5480円、健康保険料:15万3504円
※2 課税所得額(年間役員報酬 - 給与所得控除 - 基礎控除 - 社会保険料控除)× 税率 5%
※3 課税所得額(年間役員報酬 - 給与所得控除 - 基礎控除 - 社会保険料控除)× 税率 10% + 均等割5,000円
※4 1000万円 - 役員報酬 - 社会保険料会社負担分 = 656万1016円
  400万円 × 21.4% + 256万1016円 × 23.2%

役員報酬を決めるときのポイント3つ

前述のとおり、役員報酬を高くしたからといって、一概に節税につながるわけではないことがおわかりいただけたかと思います。

ですので役員報酬の決め方として、3つのポイントに注意しましょう。

会社に残る利益とのバランスを確認する

節税を重視して役員報酬を決めるときには、「会社に残る利益」と「役員が支払う税金や社会保険料」とのバランスが重要です。

そこでまず、事前に当期の売上・費用・利益について予測を立てておきましょう。

その上で、会社の今後の投資計画を考慮し、会社にいくら残すべきなのかを決めます。そして残りの金額の範囲で役員報酬を設定するといいでしょう。

事業年度の途中でむやみに変更しない

「利益が上がりそうなので、事業年度内に役員報酬を増額しよう」と考える方もいるかもしれません。ところが、役員報酬を損金に算入するには「定期同額給与」のルールを守る必要があります。

これにより、原則「事業年度開始後3か月」を過ぎてから役員報酬を変更することはできません

例外として、事業年度に役員の職制上の地位の変更や、職務内容の重大な変更、これらに類するやむを得ない事情があった場合には、役員の定期給与額の改定が認められるとされています。

損金として認められる条件を満たす

役員報酬は、恣意的な利益操作が行われないように、損金算入に対して制限が設けられています。そのため次の3点を遵守しましょう。

1)税制上認められる支払い方法である

  • 定額同額給与
    支給時期が定期的(1か月以下)で、その事業年度内では毎月同じ金額を支給される固定給でなくてはなりません。
  • 事前確定届出給与
    ボーナスに相当するもので、税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出することで認められます。
  • 利益連動給与
    成果報酬に相当するもので、同族会社ではない法人という条件があるため、主に大企業に認められます。

2)ルールに基づき金額の決定・変更を行っている

役員報酬の決定・変更は、事業年度開始後3か月以内に定款に定めるか株主総会で決めることになります。

3)妥当な報酬金額である

職務実態と比較して妥当な金額であり、不相当に高額ではいけません。

役員報酬にかかる税金を節税する方法

役員報酬を決める際にあわせて検討したい節税方法についてご紹介します。

共済制度や​​iDeCoの利用

小規模企業共済」や「個人型確定拠出年金(iDeCo)」といった退職金積立を利用すれば、掛金を全額所得から控除することが可能です。そのため、役員本人が負担する所得税や住民税の軽減に繋がります。

また、法人が利用できる共済制度のひとつとして「経営セーフティ共済」があります。取引先の倒産など、不測の事態に陥った際に借り入れできるというメリットがあるだけでなく、掛金を全額損金にできるため、法人税の負担を軽減することができます。

役員社宅の活用

家賃補助として「住宅手当」を支給していたり、住宅手当がない場合は、「役員社宅」制度を取り入れることで節税につながるケースもあります。

住宅手当は「役員への給与」として課税対象となるため、役員本人の税負担と会社の社会保険料負担が発生します。

一方で、役員社宅は会社が負担する家賃分を全額損金にすることができるため、法人税の負担軽減に繋がるのです。また、役員本人の課税所得もおさえることができるため節税になります。さらに双方の負担する社会保険料も軽減されます。

住宅手当がない場合は、役員社宅を導入してその分役員報酬を減らせば、同様の効果が得られます

ただし、役員から一定の賃料を受け取る必要があるなど、役員社宅の家賃が損金として認められるには条件があるので注意しましょう。

家族を役員にして役員報酬を支払う

配偶者や親族が従業員として事業を手伝っている場合は、その家族に役員報酬を支払い、世帯で所得を分散させることで税金を節税することができます。

たとえば​​夫1人が役員で年間報酬が約800万円のパターン(A)と、夫と妻の両方を役員としてそれぞれの年間報酬を夫:約500万円と妻:300万円とするパターン(B)で比較してみましょう。

配偶者を役員にしたときの比較

このように、役員報酬の合計金額は同じでも、夫と妻とで所得を分散することで、税金と社会保険の負担は約24万円軽減されました。

ただし、扶養に入れている配偶者へ役員報酬を支払うと、報酬の金額によっては配偶者が扶養から外れてしまいます。

また、勤務実態の少ない非常勤役員に高額な報酬を支払っている場合は、妥当な報酬金額でないとして、損金に算入できない可能性もあります。その際は配偶者を非常勤役員にして、役員報酬を所得税や住民税が発生しない金額するほうが節税につながるケースもあります。

どのバターンが効果的に節税できるかを計算するのは難しいため、税理士に相談することをおすすめします。

おわりに

役員報酬で効果的に節税しようと思ったときに、重要になるのは「いくらが適切な金額か」であるかを見極めることです。

税金に考慮しつつ、得られた利益をバランスよく配分しなくてはなりません。

周辺の税制度と合わせ、税額をシミュレーションするなど税理士と相談しながら自社にとって最適なパターンを見つけましょう。

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