研修旅行や視察旅行の費用を経費(旅費交通費)にするためのポイントとは
視察や研修など、事業のために要した旅費は、原則「旅費交通費」として計上できます。しかし、旅行の内容によっては、交際費や給与として扱われるので注意が必要です。
本記事では、これらの費用を「旅費交通費」として計上するためのポイントをご紹介します。
目次
研修旅行・視察旅行とは
「研修旅行」とは、レクリエーション目的の社員旅行とは異なり、業務上必要な知識や技能などの獲得を目的とした旅行のことです。
たとえば、新入社員向けのビジネスマナー研修、外国語を取得するための語学研修などがあります。これらのために要した交通費、宿泊費用、受講料、講師への謝礼金、研修施設の利用料などは必要経費になります。
また、「視察旅行」とは、業務上必要な製品やサービスなどの調査を目的とした旅行のことです。
たとえば、新規拠点開設のための現地視察、工場見学などを含む企業視察などがあります。こういった視察旅行のために要した交通費、宿泊費用、見本市・展示会への参加費用、現地での移動費用、ガイド料なども必要経費になります。
研修旅行・視察旅行のメリット
研修旅行や研修旅行の実施には、会社にとって以下のようなメリットがあります。
旅費交通費として計上できる
事業のために使った旅費は「旅費交通費」として計上できます。メリットは、原則全額損金算入できることと、従業員に給与課税されないことが挙げられます。
そのため、決算間近に研修旅行や視察旅行を行うことで、決算直前の節税対策としても利用できます。
旅費交通費として認められなかった場合
税務調査で「旅費交通費」が否認されると、以下のような対応が必要になります。
- 給与認定された場合は、源泉徴収税の追加納付を行う
- 給与認定された場合は、消費税を課税対象外として扱う
- 役員賞与と認められた場合は、損金不算入として扱う
従業員側は、給与として所得税や住民税の税負担が増えることになります。
視察旅行は認められる目的範囲が広い
視察旅行は必要経費として認められる範囲が広いのが特徴です。
たとえば、新規拠点開設のための候補地の視察、新製品の技術を得るための展示会の視察、同業他社の法人・工場などへの訪問視察、接遇を学ぶためのリゾート施設やテーマパークへの視察など、すべて視察旅行となります。
このように、視察旅行の目的範囲は幅広く認められていますが、税務調査で指摘を受けやすいので、後述の「経費として認められるポイント」についてもよく確認しておきましょう。
研究開発税制の対象になることも
一定要件を満たせば、視察旅行などに要した費用を研究費や研究開発費として計上することができます。
それらの費用は「研究開発税制」における税額控除の対象となります。
研究開発税制とは、法人税額から試験研究費の一定割合を控除できる(※)というもので、大きな節税効果が得られる制度です(※原則として法人税額の25%まで)。
出張手当が支給できる
研修旅行や視察旅行などに参加する役員・従業員に対して、出張手当を支給することができます。
出張手当は損金算入可能な費用なので、法人税の節税対策としても役に立ちます。また、給与課税されないため、消費税や所得税などの節税、社会保険料の節約といったメリットもあります。
なお、出張手当の利用には「出張旅費規程」が必要なので、事前に作成しておきましょう。
旅費交通費として認められるためのポイント
税務調査で研修旅行や視察旅行の費用を否認されないためには、「事業のための旅行であること」を証明できなければなりません。さらに、観光部分の経費については「経費から除外すること」が必要です。
これらのポイントについて詳しく解説していきます。
観光目的と思われない
まずは、その旅行の目的が「事業のため」と認めてもらう必要があります。これについては、法人税基本通達9−7−7によって「以下のものは旅費交通費に該当しない」と基準が設けられています。
(1)観光ビザ等、観光渡航の許可を取得して行う旅行
(2)旅行斡旋業者が募集する団体旅行プランを利用して行う旅行
(3)同業団体が主催する団体旅行に参加して行う旅行で、観光目的と認められるもの
中には「観光ビザしか取得できない」、「団体旅行プランの方が安い」などの理由から、上記のような旅行を採用しているケースもあるはずです。そのような場合は、税務当局に事情を説明できるよう、旅行に関する資料や証拠などを残しておきましょう。
研修や視察の証拠を残しておく
「きちんと研修や視察を行ったか」を、対外的に証明できることが必要です。以下のような資料を残し、「研修や視察の事実」について証明できるようにしておきましょう。
- 研修旅行:日程表、研修資料、参加証明書・研修修了書、領収書など
- 視察旅行:日程表、撮影写真、議事録、名刺・パンフレット、報告書、領収書など
特に、日程表に「いつどこで誰に会う」などを具体的に記載し、それを証明するような資料があるとよいでしょう。
一方で、漠然とした日程表を作成していたり、ビジネスとは関係ない予定があったりする場合は、税務調査で指摘を受けやすいので注意してください。
業務の割合を明確にする
研修旅行や視察旅行の費用を計上する際は、「業務に要した部分」と「観光に要した部分」を明確に区分する必要があります。業務に要した部分のみが旅費交通費になり、観光に要した部分は給与として扱われます。
区分する際は「業務従事割合」に従って計算します。この業務従事割合とは、旅行先で仕事に従事した割合のことを言い、「視察等の日数 ÷ (視察等の日数+観光の日数)」で求めることができます。特に海外渡航の場合は、この割合によって旅費交通費の算出方法が変わるので、業務従事割合の計算手順を正しく理解しておきましょう。
業務従事割合の計算手順
まず旅行日程を「視察等」「観光」「旅行日」「その他」に分類します。
- 視察等:業務に従事した日数のこと(企業・工場への訪問、展示会への参加など)
- 観光:観光等に要した日数のこと(自由時間や私的な理由で参加したものなど)
- 旅行日:目的地までの移動日数のこと(主に往復に要した時間)
- その他:土日祝日など、いずれにも分類できないもの
日中の業務時間(8時間)を1日と換算し、0.25日(2時間程度)を1単位として、それぞれの項目に振り分けていきます。この振り分けが終わったら、先に紹介した「視察等の日数 ÷ (視察等の日数+観光の日数)」の計算式に従って業務従事割合を算出しましょう。
海外渡航は条件が詳細に
旅行先が国外の場合は、税務調査でより厳しくチェックされます。具体的な確認事項については国税庁より法令解釈通達が出ており、以下のことを調べるように決まっています。
(1)団体旅行の主催者、旅行名、旅行目的、旅行日程、参加費用、その他の内容など
(2)参加者の氏名、役職名、住所など
税務調査ではこれらに関する書類・資料に基づき、法人の海外視察の目的や参加者の役職、業務との関連性などを確認します。また、海外渡航に伴う旅費交通費については、以下のように明確な損金算入のルールが設けられているので、こちらに従って計算する必要があります。
- 業務従事割合90%以上:全額損金算入
- 業務従事割合50%以上:往復の交通費+(その他の費用の額×事業従事割合)
- 業務従事割合50%未満:旅行に要した費用×業務従事割合
- 業務従事割合10%以下:全額損金不算入
このように損金として計上できる旅費交通費の金額は、業務従事割合に応じて変わります。この区分に従っていない場合は、税務調査で否認される可能性があります。
関連費用の計上基準
社員旅行に比べると、研修旅行や視察旅行に要する費用の計上基準はあまり明確ではありません。
そこで、具体的な事例を挙げながら、その費用が計上できるどうかを確認してみます。以下はあくまでも一般論ですので、実際に計上する際には、税理士にご確認ください。
旅行先での食事代
旅行先での食事代・宴会代は、通常、旅費交通費には含まれません。
ですが、研修先で食事をする場合は「会議費」や「福利厚生費」として、視察先で取引先などと食事をする場合は「接待交際費」として損金算入できる場合が多いでしょう。
これらの勘定科目は目的や状況、対象者などによって異なるので、正しく使い分けるようにしてください。
接待交際費には「損金算入の特例」がある
接待交際費は原則損金不算入ですが、2027年3月31日までは交際費課税の特例措置が適用されるので、下記に当てはまる場合は損金算入が可能です。
- 中小法人:交際費を全額計上可能(800万円まで)または飲食費の50%を計上可能(無制限)
- 大企業:飲食費の50%を計上可能(無制限)
上記のうち、中小法人とは「資本金が1億円以下の法人」のことを言います。大企業とは「資本金が1億円超の法人」のことです。
観光費用や土産代
旅行先での観光費用には、観光地での食事代や観光地までの交通費、土産代などがあります。
これらは業務上必要な費用ではないので、旅費交通費として計上することはできません。仮に企業が費用負担している場合、それは従業員に対する「給与」として扱われます。そのため、源泉徴収や社会保険料などが必要になります。
土産代は、相手が取引先などであれば接待交際費として計上することができます。
取引先を招いた接待旅行
取引先を招いて行う接待目的の旅行は、旅費交通費には該当しません。この場合は交通費などを含めて、接待交際費として仕訳する必要があります。
家族同伴の旅行
家族同伴の旅行に要した費用は、原則として損金不算入です。ただし、その家族が従業員である場合は、旅費交通費として計上ができます。
なお、従業員ではない子どもを連れて行った場合、その旅費部分については個人の負担とする必要があります。
従業員でない家族の同伴が認められる条件
法令解釈通達9−7−8によれば、海外渡航の際は、以下のような条件を満たすと損金算入が認められる旨が記載されています。
- 役員が常時補佐を要する身体障害者であり、配偶者などが補佐人である場合
- 国際会議への出席など、配偶者の参加が必要である場合
- 配偶者などが外国語に長けており、一時的に通訳として委託する場合
このように「海外渡航の目的を達成するために必要な同伴」と認められる場合は、たとえ家族や親族が従業員でなくても、その旅行に要した費用を損金として計上することができるのです。
おわりに
研修や視察など、業務上必要な旅費であれば、その費用を「旅費交通費」として計上できます。しかし、計上基準は明確に設けられていないので、証拠などを残しておかないと税務調査で否認される危険性もあります。
そうなると税金上のペナルティを受けることになるので、事前に税理士に相談して正しい処理を行うようにしてください。
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