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ペットと暮らせる特養から 若山三千彦

医療・健康・介護のコラム

「山にでも捨ててくれ」と言われてから10年間、精いっぱい生きて旅立った 入居者と職員に幸せをくれたルイ

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「山にでも捨ててくれ」と言われてから10年間、精いっぱい生きて旅立った 入居者と職員に幸せをくれたルイ

何度も“復活”し、頑張って生きたルイ(「さくらの里山科」で)

 ペットと暮らせる特別養護老人ホーム「さくらの里山科」で暮らす保護犬出身のルイ(ミックス犬、雄)が昨年12月、虹の橋に旅立ちました。“享年”17歳(推定)でした。

 ルイは元々、高齢の飼い主さんに捨てられた子でした。飼い主さんが老人ホームに入る際に置いていかれてしまったのです。ケアマネジャー(介護支援専門員)が、ルイをどうするか、その飼い主さんに尋ねたところ、「山にでも捨ててくれ」という答えが返ってきたそうです。

 ルイはその時推定6~7歳。ですので、飼い主さんは、6年近くルイと一緒に暮らしていたと思われるのに、「山に捨ててくれ」と言い放つなんて……。ルイはとても人懐っこいので、かわいがられてはいたのだろうと思います。でも、この飼い主さんは、都合の良い時はかわいがっても、真の愛情は持ち合わせていなかったのでしょうね。

 もちろん、老人ホームに愛犬を一緒に連れていくことは、ほぼ不可能であることは私がよく知っています。多くの高齢者が、泣く泣く愛犬を手放していることもよく知っています。しかし、愛情のかけらもなく「山に捨ててくれ」と言い放つのは、ちょっと違いますよね。年齢を問わず、このような人にはペットを飼ってほしくないものです。

 ところで、この高齢の飼い主さんにはケアマネジャーがいたのに、ルイの正確な年齢がなぜ分からないのか疑問に思われるかもしれません。実は、高齢の飼い主さんが、愛犬や愛猫の年齢を正確に把握していないのはよくあることなのです。「さくらの里山科」に愛犬、愛猫と同伴入居した高齢者にも、ペットの正確な年齢が分からない、年齢を間違っていた、というようなことは多々あります。ですので、ルイの正確な年齢が分からないことは、ルイへの愛情の有無とは関係ありません。

 そして、ルイにとって幸いだったのは、このケアマネジャーが、「さくらの里山科」と同じ法人の在宅介護部門の職員だったことです。私に相談してくれたので、ルイにはさほど長い時間一人ぼっちで寂しい思いをさせずに、「さくらの里山科」で引き取ることができました。

 ただし、うちの法人ではないケアマネジャーや一般の方から同様の相談を受けた場合、大変申しわけありませんが、犬、猫を引き取ることはしていません。ホームで暮らせる犬、猫の数には限りがありますので、ご理解ください。

ルイと入居者の皆さんが幸せに過ごした10年間

 明るく元気なルイは、「さくらの里山科」にやってきた初日から、ユニット(区画)の広いリビングや廊下を大喜びで走り回っていました。とっても人懐っこい性格で、入居者の皆さんにすりすりして抱っこをせがんでいました。

 入居する皆さんも、そんなルイを、こぞってかわいがりました。ルイも幸せ、入居者の皆さんも幸せ。職員も幸せ。まさに幸せな共生が実現していました。

 入居者に抱っこされた時のルイのとろけそうな顔。

 それ以上にとろけそうに笑み崩れている入居者の顔。

 リビングを走り回っているルイのわんぱく小僧のような顔。

 そんなルイを見て大喜びしている入居者のはじけるような笑顔。

 窓際に置かれたベッドで寝ているルイの最高に気持ちよさそうな顔。

 「あら、かわいい顔して寝ているわ」と話している入居者たちの、ほのぼのとした笑み。

 そして、ルイと入居者を見て、心底うれしそうにしている職員たちの輝く笑顔。

 今でも、ルイと入居者の皆さんが幸せに過ごした10年間の日々の様子は鮮やかに思い出すことができます。ルイと一緒に過ごした10年間は、たくさんの笑顔があふれていました。

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若山 三千彦(わかやま・みちひこ)

 特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長

 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取みといぬ文福ぶんぷく 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。

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