《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

現実逃避先のタイムリープした過去で、ヒロインは無自覚に女性ライバル役に堕落する。

片翼のラビリンス(2) (フラワーコミックス)
くまがい 杏子(くまがい きょうこ)
片翼のラビリンス(かたよくのラビリンス)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

ある日都の手に届けられた謎のカギ。その力で2年前に戻りあこがれていた大翔との恋をやり直そうとします。2度目の後悔をしないように、勇気を出して大翔に告白したその返事は!? そして意味深な行動をする司は何かを知ってるの!? くまがい杏子の贈るタイムリープラブから目が離せません!

簡潔完結感想文

  • 作中における「運命の恋」は ヒロインの自分勝手な妨害に負けない強靭さを持つ。
  • 腹八分目で我慢できないからヒロインはポッチャリ体型。天下無敵のクズヒロイン。
  • 2回目の恋愛攻略も詰んでゲームオーバー。エンドロールの先にはエピローグが…。

ヒロインになって運命の恋をするのは、きっと彼女の方、の 2巻。

1回目のバッドエンドから現実逃避するために、謎のアイテム「片翼のカギ」を使って2年前に戻った都(みやこ)。そこで過ごす2回目の高校1年生で、今度こそバッドエンドを迎えないように過去を改変していく。
『2巻』は その顛末が語られ、ネタバレすると2回目の恋の終わりが描かれる。ただし これがバッドエンドなのかは まだ分からない状態。2回目の都が変えられなかったものがあるが、変わったこともあるようで、都の予想だにしない未来が『3巻』へと続いていく。

面白かったのは、現時点において都は主人公なのだが、ヒロインではない、という点。
どう考えても正ヒロインは姉の蛍(ほたる)で、都は禁じ手を使ってまで恋を叶えようとする卑怯な「女性ライバル」となっている。そして そんなライバルの妨害に遭っても、出会ってしまう蛍と大翔(ひろと)の2人こそ運命の恋と言える。少女漫画において女性ライバルは作品から追放されるのが通例であるが、都の場合は文字通り この時間軸の世界から追放されるのだろうか。

2回目の人生で分かったのが、自分は絶対に大翔から女性として見られない、という厳しすぎる現実というのも、低年齢向けの作品なのにパンチが効いている。読者の心を折らないように司(つかさ)というセーフティーネットが用意されているのだろう。大翔との恋が物語の序章ということは読者も よく分かっているだろう。


リアルだったのは、都が欲望を加速させてしまう点。
本来、都は「大翔への告白」が心残りで、それを果たせれば姉・蛍と大翔の交際を祝福できるのではないか、と考えていた。だがタイミングが良かったのか、大翔が告白に前向きで、その後に交際を申し込まれたことで、都は大翔との恋愛を止められなくなる。姉に罪悪感を抱きながら、行けるところまで行く、欲望に憑りつかれた人の心が克明に描かれている。ギャンブルと同じように、もっと良い未来の到来があると信じて、まだ大丈夫まだ大丈夫 と引き返せない地点まで進んでしまう。

ゲームも食欲も恋愛も現実逃避も、都は全ての欲望を自制できない強欲ヒロインとなる。

そして これが都の心の弱さのような気がする。彼女は『1巻』1話からゲームに逃避することで嫌な現実を見ないようにした。結果、それが成績の低迷を招いたりして自分にツケとして返ってくるのだが、自分をクズだと思いながらも都は弱い自分を克服できない。

2回目の人生において、大翔との恋愛で引き返すラインを後方に後方に下げ続けてしまったのも、都の我慢の弱さだろう。体型のことを言及するのは難しい時代になったが、成績の低迷同様、都の体重が増加するのは、彼女が腹八分目で我慢することが出来ないからではないか。または姉の交際に悩まされるストレスが過食に繋がっているとも考えられる。

これからタイムリープが続いて、精神的には経験と年齢を重ねることになるが、いつか彼女の心が強くなったら、体型も変わったりするのだろうか。成績や体重の変化が、都の心の強さのバロメーターになっている というのも面白い技法だったのではないか。作品内では徐々に体型のことは言われなくなるが、それが作者が意識的に減少させているのか、それとも設定を忘れているのか、または時代に即して体型に言及することを止めたのか、その どれが正解なのかが分からなかった。確実に作者の狙い通りだったら、そこが評価ポイントになったのだけど。

ラストは また現実逃避にタイムリープを利用しようとする都が思いとどまり、自分が改変した未来の先を見るという展開が用意されている。安易にタイムリープを利用するのではなく、とことんバッドエンドを見せようとする作品は性格が悪い。『1巻』でも書いたけど、序盤はバッドエンド集なので読むのが辛い部分もあるが、きっと不幸があるだけ幸福が一層 輝くのだろう。その日が来るまで読者も都も心を強くして現実と対峙しなければならない。


2回目の高校1年生は、1回目の後悔から心残りだった告白を実行した都。大翔は告白を受けてから、都のことを優先してくれて、この文化祭で姉・蛍(ほたる)と出会わないようにしたい都の願いを聞き入れる。都は告白することを目標に置いていたが、大翔に告白を断られなかったことで欲張りになっていく。

蛍が文化祭のために来校することは阻止できなかったため、都は大翔をクラスから遠ざけ、蛍を誘導することで2人の出会いを実現させないよう気を張る。何かに気を取られている妹の様子を違和感を抱いた蛍は、都に好きな人がいるという直感を働かせ、都のクラスに向かおうとする。このピンチに都は全てを諦めかけるが、転んだ妹を助けに戻る姉の優しさによって、大翔との出会いは実現しなかった。
ただ それが都の罪悪感になる。もし姉が もっとデリカシーや優しさに欠ける人なら、胸は痛まない。そして姉が妹思いの行動を取らなければ、過去の改変は達成されず、姉と大翔の交際を見届ける という2度目のゲームオーバーを迎えていただろう。

きっと それも一つの結末だったはずだ。告白の未達成が心残りだった都にとって、2回目の高校1年生は悪いものではない。きっと ここから高校3年生の、絶望した あの日に時間が進んでも、都は以前ほど心が痛まないだろう。でも都の改変ゲームは詰むことなく進んでいく。


文化祭の終了後、都は大翔に図書館に呼び出される。そこで大翔は都に、これから「好き」を育てることになるが、都との交際を申し込む。1回目では都の陰鬱な人生の始まりとなった文化祭が、無上の喜びを味わえる日となった、という対比が良い。告白場面もドラマチックで、大翔の都を大切にしようという誠実さが感じられる。

この僥倖に都は自分が変えてしまった未来の大きさに また罪悪感を覚えるが、大翔の彼女という立場は捨てられない。

こうして学校公認のカップルになった2人は初デートをする。
デートに来ていく可愛い服がない都は、妹がデートをすることを知り、彼女の力になりたい蛍の助けを借りる。姉が自分のことのように都の両想いを喜んでくれたことで、都の中に一瞬 顔を出した罪悪感が薄れる。恨みは2年間も持っているが、罪悪感は一瞬に消えてしまうのが人間という生き物なのだろう。

ここからは憧れの大翔とのデートが始まる。ただ読者的には都の恋に そこまで思い入れを持てない。1つは都は作品開始時から大翔のことが好きで、読者にとってゼロから気持ちが育ったという感覚がないこと。そして2つ目は都の過去改変は私利私欲であるから。
そして大翔とのデートは嬉しいが、これは飽くまでも友達の延長線上。2人で出掛けるなら共通の趣味であるゲームをメインに据えよう、というのが大翔の考え。決して悪いことではないが、トキメキに欠ける。


そこから交際から2か月が経ち、初めてのクリスマスが訪れる。この間にデートは3回。そして2人で したことといえばゲームぐらい。恋人っぽい雰囲気にならないのは自分の魅力不足だと都は考え、奇跡のような交際の中にある現実を思い知る。

都への大翔の感情は、司の家に入り浸っているらしい彼の口から語られる。大翔は恋愛感情が よく分からず、自分の中に何かが芽生えるまで都に手を出さないと決めていた。大翔は誠実に ちゃんと都と向き合ってくれている。でも この2か月で何も変化の起きない心。だから大翔は今度は先に行動してから、感情に変化があるかを見極めようとしていた。司は それに対して苛立ちを見せるが、一方で2人の幸せを願う。


クリスマス・イヴ、華ちゃん から都が不参加のクラス会の会場であるカラオケ店に蛍が来店してきた という情報が入る。華ちゃんが その情報を送信したのは、そのカラオケ店でバイトをしているから。回避したはずの大翔と蛍の接触が起きる可能性を知り、都は迷いながら、それでも今回も その阻止に動く。

ただタイムリーパーであるらしい司は、華ちゃん によって過去が改変されつつあることに気づく。これで華ちゃん もまた何を考えているのか分からない人となった。

蛍との遭遇の前に大翔に会えた都は、彼の手の温もりを手放したくない自分に気づき、蛍の件や自分たちの交際を自然の流れに任せるのではなく、自分で運命を変えていく。
だが『1巻』1話と逆で、今度は蛍が、大翔と その彼女のキス場面(今回は未遂)を目撃する。そして2か月間 先延ばしにした2人の邂逅が果たされてしまい、大翔の表情から彼の中に恋心が生まれたことを都は彼の表情から見て取る。

包み込んでくれる大好きな人の温かい手を振りほどいて別れを選べる人は この世にいるのか。

約束していたクリスマスデートは降雪のため中止になったが、大翔は それ以降 連絡を入れず、彼の心変わりは明らかになる。

都は大翔と顔を合わせると、自分が交際できても恋愛面で姉に敗北する現実を認めざるを得ないから怖い。彼と会えば何を言われるかは都が一番 分かっている。
だから都を呼び出して、懺悔のように自分の愚かさを連ねる大翔に、都は自分から友達に戻りたいと彼の願いを先回りしてあげる。都が途中で泣き出してしまったから、大翔には それが都の嘘で優しさであることは分かっているが、都の願いを聞き入れる体(てい)で2人の交際は終わる。都には運命が変えられないこと、そして自分の汚さを痛感するだけの2回目の1年生となった。

片翼のカギを使って全てをリセットしようとする都だったが、この先に新しい展開があるという華ちゃんの予想を聞く。実際に思いもよらぬ展開となるのだが…。